徘徊老人・まだ生きてます

徘徊老人の小さな旅季行

〔番外編〕コロナ禍の中、季節は春から初夏へ~花散歩

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4月下旬から秋まで咲き続けるサルビア・ミクロフィラ

コロナ禍の中で思うこと

 コロナ禍である。釣り場に近い駐車場はほとんど閉鎖されているので釣行はままならない。植物園、自然公園などが閉鎖中なので春の山野草の開花に触れる機会を多く逃した。大学の研究会や講座、私的な集まり(例えば哲学カフェ)も皆、中止になったため頭の体操の機会がめっきり減った。近隣にある市立図書館が閉鎖されているため、調べたいことがあっても資料不足で不満足な愚者状態。

 不愉快なのは変な言葉が飛び交っていることだ。「濃厚接触」「ソーシャルディスタンシング」「3密」は、その言葉を見たり聞いたりしただけで”げんなり”してしまう。「濃厚接触」は、”close contact"の訳語だろうか。おふざけで使う場合なら構わないが、社会的用語としては馴染まないような気がする。とはいえ、実際に医学用語として用いられているし、他に良い言葉は思いつかないので致し方ない。何しろ、医学用語には「日和見感染 ”opportunistic infection"」という言葉もあるぐらいなので。

 「ソーシャルディスタンシング」は社会的距離拡大戦略のことらしいが、社会との距離拡大は「孤立」を意味することに繋がるので曲解される恐れがある。この反省から「フィジカルディスタンシング」(物理的距離拡大戦略)に置き換えようという提案があり私としてもこちらのほうが断然に良いと思うのだが、いまひとつ広がりは見えない。

 上記の2つの言葉は気に入らないが、意を汲めば言いたいことは伝わってくるので、許せないわけでは決してない。が、「3密」だけは酷いとしか言いようのない言葉である。どこかの首相は奥方の参拝行動に「3密ではない」と擁護したようだが、彼の頭脳では「1密」や「2密」では問題はないと判断されるようだ。ならば、換気が良く、間隔を空けたパチンコ屋は「3密」に該当しないから問題はないとすべきだろう。ウイルスは直接接触や飛沫接触によって感染する(させる)場合があるので、これをできるだけ避けるのが良いと考えられるだけであって「3密」はダメだが「2密」なら大丈夫というものではない。ところが、「3密」を政府やメディアがしばしば声高に叫ぶため、「3密」とそれ以外という区分が生まれ、本末転倒の観念が形成されている。「可能な限り、物理的・身体的距離を取りましょう」で十分だと思われる。それ以上でも以下でもない。

 「3密」は嫌な言葉だが、「六波羅蜜」についてなら以前、それに関する書物を何冊か読んだことがあるし、「蜂蜜」については最近、「ランチパック・はちみつ&マーガリン」のパッケージのミスについての微笑ましい話題があった。

 というわけで、コロナ禍のために釣りには週に2回ほどしか行けず、植物園や自然公園からは締め出され、観光地に出掛けるのは気が引けるので、必然、近隣での徘徊が増えている。ただうろつくだけでは生産性が低いので、カメラを持って出掛けて目に留まった花の姿を撮影している。意外な花が意外なところに咲いているのに気付き、あるいは気付かされ、これがコロナ禍の下での大きな収穫になっている。これも、いいのだ。

ゼラニウム(ゼラニューム、匂い天竺葵)

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ゼラニウムとしてはもっともよく見られる品種

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清潔感のある白色も魅力的

  フウロソウ科ペラルゴニウム(テンジクアオイ)属の多年草ゼラニウムについては以前、「ゼラニウム・フェアエレン」のところで述べている。写真のものはゼラニウムの仲間ではもっとも普通に見られるもので、花色はこれ以外にも白や赤のものが多い。標準和名に「匂い天竺葵」とあるように、葉に独特の香りがあり、これを香ばしいととるか臭いととるかでこの花を好むか否かが分かる。

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こちらは花の形が珍しい園芸種

 写真のゼラニウムは花弁が深く切れ込む星形に改良されたもので、”ファイヤーワークス”などの商品名で販売されている。

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こちらは園芸種のペラルゴニウム

 ペラルゴニウムは花色や花弁の形を変えてゼラニウムよりも派手さを競うように改良されたもので、園芸店やホームセンターでは豪華な鉢植え品として販売されているのをよく見かける。通常のゼラニウムは花の多寡は別にすればほぼ周年、花を咲かせる四季咲き種だが、このペラルゴニウムは春から初夏までの一季咲き品種なので、路地植えよりも中大型の鉢植えのもののほうが管理しやすいのかもしれない。写真のものは路地植えされているものを撮影した。なお、ペラルゴニウムのぺラルゴは「こうのとり」を意味するようだ。

シラン(紫蘭、紅蘭、白笈)

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もっともよく見られるランの花

 ラン科シラン属の多年草。初心者にも簡単に育てられるということでこの時期にはあちらこちらでこの花が咲いているのを見かける。地下茎は「偽球茎」と言われ球形というよりは平らな形をしている。この地下茎が良く育つため、知らないうちに株が大きく育つ。さらに種子をよく作るので野生化しているものを見かけることがよくある。

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この角度から見ると「ラン」であることがよくわかる

 うつむき加減に咲いているため、この花がランの仲間であることを気付かない人も多いようだが、写真のように下から見上げるようにすると、普通の人がランの花をイメージするのと同じ形であることが分かる。ありふれた存在であっても美しいものはやはり美しい。

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多磨霊園で見つけた白色のシラン

 シラン(紫蘭)の名の通り紫のものが大半だが、園芸種や交雑種には異なる色や形のものがある。紅色や白色、黄色など異なる色をもつ花もあり、それはそれで見応えがある。大型連休中(私の場合は一年中休みだが)に多磨霊園内を散策していたとき、白色のシランを見つけた。背中合わせの墓石の間に咲いていたので撮影には難儀した。

コデマリ(小手毬)

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ユキヤナギが咲き終わるとコデマリの出番となる

 バラ科シモツケ属の低木。中国東南部原産で、日本には江戸初期に導入された。和名は花序の形から名付けられた。まったくもって妥当な名称である。

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可能な限りの近接撮影

 花の形から分かるように、春先に咲く「ユキヤナギ」と同じ属である。ユキヤナギの花が散ったころ、今度はこの花が咲き始める。花序の形が、あちらは柳のようであり、こちらは手毬のようである。違いは大きいが、花にあまり関心のない人は区別が付かないらしいが、そもそも興味がないので花の名前への拘りがないのは当然のことだ。私がAKBとなんとか坂との区別がつかないのと同等である。

ヤマブキ(山吹)

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一重咲きのヤマブキ

 バラ科ヤマブキ属の落葉性低木。学名は”Kerria japonica"であり、種小名に「日本の」とあるように日本原産の植物である。以前に挙げた「ウンナンオウバイ」によく似た花を付けるが、あちらは黄色でこちらは山吹色である。葉も特徴的で、薄くてギザギザした形をしているので区別は容易だ。ヤマブキは山吹色をしているが、ヤマブキが山吹色なのでヤマブキと名付けられた訳ではなく、ヤマブキの花色から山吹色という名称が生まれた。山吹色から派生したのは「小判」である。

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ヤエヤマブキといえば太田道灌

 上の写真は「ヤエヤマブキ」で、一重咲きのヤマブキの改良園芸種。学名は「Kerria japonica "Pleniflora"」。ヤマブキは一属一種であり、園芸名の「シロヤマブキ」はまったくの別属。花色こそ白だが雰囲気がヤマブキに似ているので「あやかりヤマブキ」である。これは「ブダイ」や「ネンブツダイ」がタイの仲間ではなく「あやかりダイ」であるのと同じ。といっても、釣り人やダイバー以外、これらの魚の存在はほとんど知られていないが。

 八重山吹についてはずいぶん前の「越生」の回(第7回)で触れており、当然のごとく「太田道灌」との関係も記してあるのでここではとくに触れない。

オステオスペルマム(アフリカンデージー

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明るい日差しを好む花

 キク科オステオスペルマム属の多年草。アフリカ原産だが耐寒性もあるので冬場でも日当たりが良い場所では開花することもある。写真から分かるように花弁が萎れたものもあれば花芽が育ちつつあるものもあるので、全体としての花期はかなり長い。花色は紫、白、桃が中心だが、近縁種の「ディモルフォセカ」との交雑によってさまざまな色のものが作出されている。ただし、ディモルフォセカは一年草なので、交雑種はオステオスペルマムの純種に比べて花の命は短い。

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私の好みは純白

 オステオスペルマムとディモルフォセカとの区別は園芸歴が長い人でも区別は難しいようだ。私はこれらの花たちの愛好家であった(ゼラニウムの次ぐらいに好んでいた)から当時は両者を簡単に見分けられたのだが、交雑改良園芸種が多数出回っている今日ではほとんど区別がつかない。そこで、写真にはオステオスペルマムの代表的カラーである「紫」と「白」とを選んだ次第なのだ。

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ディモルフォセカを見つけました

 スズラン(鈴蘭、君影草、谷間の姫百合)

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誰もが良く知る可愛い花

 キジカクシ科スズラン属の多年草。写真もそうだが、街で見かけるスズランはヨーロッパ原産の「ドイツスズラン」であることが多い。幸せの国・フィンランドの国花であり、札幌市や釧路市など市の花とするところも多い。見た目だけでなく香りも良いが、毒草なので可愛らしいからといって食してはいけない。

 日本原産のスズランは花が小さく葉に隠れるようにひっそりと咲く。「君影草」の名はこの「恥じらい感」から付けられたのだろうか?

ヒメエニシダ

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特徴的な咲き方をする花

 マメ科エニシダ属の低木。エニシダ属にはいろいろな種類があり、通常のものは樹高が2~4mほどに成長し、花色も多い。西欧ではエニシダの枝は箒の原料に使われる。魔女の乗る箒はエニシダが素材である。それゆえ、「キキ」が乗る箒もエニシダだと想像される。ところで、日本で「エニシダ」の名で販売されているのは写真の「ヒメエニシダ」で鉢植えが多い。撮影したものは路地植えされたものでかなり大型に育っているが、それでも樹高は1mほどである。

アメリカフウロ(亜米利加風露)

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葉っぱは目立つが花は小さい

 フウロソウ科フウロソウ属の一年草。4、5月の道端でよく見かける「雑草」で、葉っぱは結構、目立つ存在なのだが花は5、6ミリのサイズ、しかも写真にある通り色は地味で花数も少ないので、路傍に咲いていてもまずは気が付かない。私も以前は気にも留めなかったが、いったんその存在を知ると毎年、この草の開花が気になる。小さな花が無事に開いているとなぜかほっとした気持ちになる。何週間後、この花の存在を忘れ去る。そして初夏が訪れる。名前に「アメリカ」とあるのは、原産地が北アメリカだからで、これもまた帰化植物である。

ヒメツルソバ(姫蔓蕎麦、ポリゴナム)

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グランドカバーによく用いられる

 タデ科イヌタデ属の多年草。ソバの花に似てツル性の植物なのでツルソバ。花は小さな金平糖のように可愛らしいので「姫」。これを連結してヒメツルソバとなる。ヒマラヤ原産で、以前は「ポリゴナム」の名前でグランドカバー用の園芸種として販売されていた。現在は野生化したものも多く、コンクリートや石垣の狭い隙間からでも顔を出している姿を見かける。花期は春から秋で、晩秋には葉は紅葉し、冬には地上から姿を消す。しかし早春には葉を茂らせ、また小さな花を無数に咲かせる。生命力旺盛な半雑草といったところか。

ナガミヒナゲシ(長実雛芥子)

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今どきは、あちらこちらで群生して咲いている

 ケシ科ケシ属の一年草。地中海沿岸地方を原産とし、日本には1960年頃、輸入貨物の中に種子が入っていてそれが発芽したと考えられている。写真には咲き終わって結実した芥子坊主がたくさん写っているが、この果実の形が他のケシの仲間のものより長めなため、長実雛芥子と命名された。果実の中には無数の芥子粒(種子)が入っているので、翌年には爆発的に数を増やす。それだけでなく、この植物はアレロパシー(他感作用)活性が高いために、他の植物の生長を抑制する働きをもつ。ナガミヒナゲシが群生するのはこの作用による。

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近年、急増殖中の「雑草」

 ケシの仲間なので花自体はかなり美しい。写真のものはオレンジ色だが、かなり赤みの強いものもある。この花を増やすのは簡単で、花をひとつ、茎の部分からチョン切ってきて、適当な場所に放り投げ捨てておけばよい。たとえ未結であっても種子は自然に育ち、翌年には発芽に至る。まったくもって「厄介」な帰化植物である。

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白系を発見。色が褪せただけかも

ムラサキサギゴケ(紫鷺苔、サギシバ)

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可愛らしい雑草だが、よく踏みつぶされる

 ハエドクソウ科サギゴケ属の多年草。写真のように花は紫だが、ときおり白花を見かけることがあり、そちらは「サギコケ」と呼んで区別している。解説書には湿ったあぜ道に多いとあるが、日当たりの良い野原にも咲いていることが多い。匍匐性があり、地面を這うように育つので、花が小さいこともあって存在に気付かれずに踏み潰されることが多い。よくみると素敵な花なので、ぜひともこの花の存在を知ってほしい。

ニワゼキショウ(庭石菖)

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初夏の野原を彩る「雑草」

 アヤメ科ニワゼキショウ属の一年草。北アメリカ原産で、明治の中期に日本に入り帰化した。直径が1cm前後の小さな花なのでこれもまた、サギゴケと同様にその存在を無視されることが多い。今回は白系が大半だったが、やっと多摩霊園の敷地内で紫系を見つけた。

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紫系のニワゼキショウ。アリンコ付き

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5月になるとこの花を探しに徘徊する

 中央の黄色とその周辺の紫が特徴的で、なかなか美しい花だと思うのだが。今回、住宅街の道端で撮影したのだが、通行人の多くは怪訝そうな顔(皆マスクをしているのでそんな感じがしただけだが)をして通過していった。野草にもいろいろな表情をもつものがあるので、雑草を探し求める道草には中ぐらいの夢がある。

ツタバウンラン(蔦葉海蘭、ツタカラクサ

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この花も人知れずに咲く

 オオバコ科ツタバウンラン属の多年草。地中海地方原産で、大正初期にロックガーデン用の園芸植物として日本に入り、その後に逸出して野生化した。名前に「ツタ」があるとおりツル性の植物で、石垣に隙間などに密生して不等間隔に花を付ける。この野草も大半の人は目もくれないが、相当に可愛らしい花である。黄色の2点が目のようで、その姿は鳥を思わせる。ツルに絡んで飛び立つことができない花ではあるが、いつの日か、鳥に転じて大空を舞う日がくるかもしれない。

コバンソウ小判草

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多磨霊園の敷地で大量に咲いていた

 イネ科コバンソウ属の一年草。ヨーロッパ原産で日本には明治初期に移入された。写真のように30~50センチほどの茎が直立し、その先に数個から十数個の円錐花序を付ける。この小穂の形が小判に似ているところからこの名が付けられた。

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本物の小判なら大金持ち

 写真は私の徘徊場所のひとつである多磨霊園の敷地内で撮影したもの。日が少しだけ傾き、斜光が小判を照らし、山吹色ではないが輝きを見せていたのは確かだ。他の雑草よりも数は多く、墓地の周囲の至るところに茂っていた。これは霊園の北側を通る「東八道路」でも同様で、路側帯の空地には無数の小判が輝いていた。この小判が本物であれば私は大金持ちになれるだろうか。他の人も同様に考え、彼・彼女らが手にした小穂がすべて小判であるとするならば金の価格は無に等しいものになるため、誰もが手にするものは富ではなく単なる空夢である。

ハナミズキ(花水木、アメリヤマボウシ

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街路樹としてよく見かける

 ミズキ科ミズキ属の落葉高木。北アメリカ原産で、学名は”Cornus florida"。種小名に「フロリダ」とあるようにアメリカを代表する花で、日本に「桜前線」があるようにアメリカには「ハナミズキ前線」がある。サクラと同様に庭木だけでなく街路樹に用いられることが多く、府中市では桜並木よりも花水木通りのほうをよく見かける。これは日本人が「ハナミズキ=花見好き」だからであろうか?

 1912年に当時の東京市長尾崎行雄がワシントンDC(ポトマック河畔の桜並木)にソメイヨシノ3100本を贈り、3年後、その返礼としてハナミズキが日本に送られた(ハナミズキ花言葉は”返礼”)ことから日本に定着した。 実は尾崎は、その3年前の09年に2000本を贈ったのだが虫害のためすべて焼却されてしまっていた。

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色のバリエーションは少ない

 サクラと異なり、ハナミズキは色のバリエーションは少なく、普段目にするのは3種ほどである。ソメイヨシノと同様、枝に葉が茂る前に花が咲き、花自体もひとつひとつはかなり大きいのでよく目立つ。花期はソメイヨシノが散った頃からポツリポツリと開き始めるので、花見好きには桜⇒花水木と花見を連続して楽しむことができる。

 なお、花弁に見えるのは葉っぱが変形した「総苞」で、実際の花は中心部の緑色に見える小さな塊である。

ナスタチウムキンレンカ金蓮花、ノウゼンハレン)

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この種類はあでやかな色をもつものが多い

 ノウゼンハレン科ノウゼンハレン属の一年草。標準和名は「ノウゼンハレン」だが、一般には「ナスタチウム」または「キンレンカ」と呼ばれている。黄金色した蓮のような葉をもつ花、ということで金蓮花と名付けられたようだが、後の挙げる「キンセンカ」と語音が似ているため、趣味人は「ナスタチウム」の名で呼ぶことが多い。ナスタチウム(Nasturtium)は英名なのだが、このナスタチウムオランダガラシ属の学名で、オランダガラシの仏名は”Cresson"、つまり栄養価の高い野菜として知られるクレソンを指すのでややこしい。

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ナスタチウムは花色のバリエーションが少ない

 この植物はハーブとして花や葉、茎が利用される。香りや味がクレソンに似ているところからナスタチウムと呼ばれるようになったそうだ。

 つる性の植物で、葉をよく茂らせる。花色のバリエーションは少なく、赤や黄色、橙色そしてそれらの複色といった程度。以前に比べると人気は低下しているようで、今回の徘徊でもなかなか見つけられなかった。

スミレ(菫)

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スミレの原点のような存在なのだが

 スミレについてはすでに「タチツボスミレ」「アリアケスミレ」「ニョイスミレ」について触れているので詳細は省略する。写真のスミレは私たちが思い浮かべる「スミレ」の形や色そのもので、スミレの原点ともいうべき存在である。しかし、実際にこのスミレを見る機会はほとんどなく、コロナ禍もあって例年以上に近隣を徘徊する機会は増えているが、このスミレを見つけたのは2度しかなかった。今の子供たちがスミレを思い浮かべそれを絵にするときは、きっとタチツボスミレを描くに違いない。スミレの葉っぱは細長い楕円形、タチツボスミレは丸い心形。描かれた葉っぱの形でどちらのスミレなのか判断できる。否、今はスミレの絵なんぞまったく描かないかも。

オドリコソウ(踊子草)

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ヒメオドリコソウよりかなり大きい

 シソ科オドリコソウ属の多年草。以前に挙げた「ヒメオドリコソウ」よりもずっと背が高くなり、大きなものでは50センチほどの高さにまで成長する。それに比して花の形も大きくなり、ヒメオドリコソウの場合の踊り子は葉の間から恥ずかし気に舞うが、こちらは堂々とした立ち姿で演舞する。

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踊り子に最接近

 花に近接してみた。意外に繊細な形と色合いを有しており、「雑草」と」一刀両断に切り捨てるのはもったいないような気がする。実際、オドリコソウに触れられる場所はあまりなく、道端で発見する機会はまずない。写真は「野川自然観察園」脇に咲いていたもの。観察園内には自粛閉鎖中で入れないが、写真のオドリコソウは園外へ逸出したもので、フェンスの外に繁茂していた。

シロバナヒメオドリコソウ

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その存在は知っていたが

 オドリコソウもヒメオドリコソウも花色はやや薄い赤紫が定番なのだが、希に写真のような白花を有するものがある。それは知識として知っていただけで、実際にその純白の踊り子に触れたのは今回が初めてだった。ヒメオドリコソウは春の到来を告げるメルクマールの花のひとつとして存在していることは以前に述べているが、それだけにこれの開花には注視し続けてきたのだが、今まで白花に触れることはなかった。

 場所は東京農工大学・府中キャンパスの南側にある通りの南側の歩道上の植え込みの一角。ツツジの周りに雑草が育ち、その多くはヒメオドリコソウでありオランダミミナグサ、アメリカフウロである。その日は花水木の開花状況を調べていた。基本的にはやや上方を見ていたはずなのに、なぜかある場所では足元の様子が少し変であることに気が付いた。しかし、そこにあるのは上に挙げたツツジか雑草だけなのでそのまま通りすぎた。しかし、心には違和感が残ったままだったので、100mほど進んだ後に引き返し、その違和の根源を探すことにした。そして見出したのがこのシロバナヒメオドリコソウだった。一角に密生していたヒメオドリコソウはすべてシロバナだった。が、それ以外の場所にシロバナはなかった。

 以来、この花の存在は大型連休に入ってすらずっと気になり、シロバナを探し続けているのだが結局、二度と見出すことはできずにこの花の季節は終了した。来年、当該場所で再びシロバナと出逢えることが、生きながらえる大きな動機付けと希望になった。

シロバナタンポポ(白花蒲公英、ニホンタンポポ

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見掛けることが少なくなったタンポポ

 キク科タンポポ属の多年草。「ニホンタンポポ」の別名があるように日本在来種で、北海道には限定的に存在し、南西にいくほど数が多くなる。タンポポは英名では「dandelion」と言い、ライオンの歯という意味になる。葉っぱのギザギザが歯に見えるかららしい。すると、このタンポポは「white dandelion」となる。これが白花であるということは「ホワイト&ホワイト」という歯磨き粉を使ってホワイトニングしたからだと考えられる。何しろ、この製品を作っているのはライオン株式会社だからだ。

 通常よく見る黄色のタンポポは明治末期に日本に移入された帰化種がほとんど。外来のセイヨウタンポポの外側のガク(総苞)は開き、在来種はそれが閉じている点で区別が可能と言われている。しかし、在来種も花期の終わりごろには総苞は開き気味になるので区別は意外に難しい。まあ、シロバナであれば在来種なので、ナチュラリスト、いやナショナリストシロバナタンポポを愛でよう。ちなみに、私はナチュラリストでもナショナリストではないが、シロバナのほうが好みである。

シラー・カンパニュラータ(ヒアシンソイデス、釣鐘水仙、スパニッシュ・ブルーベル)

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近年は野生化しつつある

 キジカクシ科ヒアシンソイデス属(ツリガネズイセン属とも)の球根植物。学名は"Hyacinthoides hispanica"で、ヨーロッパ、北アフリカが原産地。かつてはシラー属に分類されていたため流通名に「シラー」の名前が残る。標準和名は「ツリガネズイセン」というが、釣鐘は花の形から、水仙は葉っぱの形に由来する。カンパニュラはラテン語の"campanula"すなわち「釣鐘」を意味し、まさに見たまんまである。

 植えっぱなしの園芸品種として人気があり、群生させると見事だ。精力旺盛なのか、近年では野生化したものも多くみられ、今時分は雑草の間からニョキニョキと顔を出して派手な色で咲き誇る。写真のような青紫色のものが大半だが、ピンクや白色のものも出回っている。

シラー・ぺルビアナ(大蔓穂)

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多磨霊園内の墓石の前に咲いていた

 キジカクシ科シラー属(ツルボ属)の球根植物。学名は"Scilla peruviana"といい、スペイン南部で発見されたこの植物がイギリスに持ち込まれる際、その船名が「The peru」だったところから種小名に「ペルー産の」という意味の言葉が用いられているが、原産地はペルーではない。傘状の花序をもち、周辺部から咲いていくので、写真から分かる通りこの株の場合、中心部は未開花である。

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最接近してみると

 6枚の花弁は反り返り、6つの雄蕊は立ち上がっているので実際の花を見ると立体感があって美しさを一層、際立たせている。この花は紫系だが白系も流通している。白系は今年は未発見だが。なお、これも多磨霊園の墓石の横に咲いていた。多磨霊園は私の花季行では重要な御狩場なのである。

イチリンソウ(一輪草、一華草)

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スプリング・エフェメラルの掉尾を飾る

 キンポウゲ科イチリンソウ属の多年草。代表的な「スプリング・エフェメラル」であるが、カタクリニリンソウよりも花期はやや遅いので、場所によっては晩春から初夏にかけて花を楽しむことができる。5枚の白い花びらは花弁に見えるが、実際には萼(がく)片(萼花弁とも)である。梅雨に入る前に葉っぱは枯れ、翌年の早春まで眠りにつく。儚い春はこの花とともに終わる。

フジ(藤)

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春の終わり、初夏へようこそ

 マメ科フジ属のつる性落葉花木。学名は”Wisteria floribunda"で、種小名の”floribunda"は「花の多い」の意味である。花色は紫が多いが、「シロバナフジ」や「アカバナフジ」といった改良種も流通している。藤棚といえば「あしかがフラワーパーク」が関東ではもっとも有名だが、今年はコロナ禍で休園中。5月7日に営業再開の予定だったが、「緊急事態宣言」が延長されたため再開日は未定となった。残念なことであるが止むをえまい。

ナヨクサフジ(弱草藤)

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最近よく見かけるようになった雑草のフジ

 マメ科ソラマメ属の一年草で一部は越年する。ヨーロッパ原産で1940年代に帰化した。飼料・緑肥用に栽培されることもあるが大半は雑草化した。花はかなり美しく、なかなか存在感のある草花だ。

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よく見ると案外、綺麗です

 弱(なよ)の名前通り、花ひとつひとつはすぐに萎れてしまうが、次々に開花を続けるので全体としては数多くの花を付けているようにみえる。この草花は「アレロパシー効果」を有しているので、周囲の植物を駆除し縄張りをどんどん広げていく。以前はそれほど目につく存在ではなく、この花を見つけると何か「得」をしたような気分になったが、近年では「あそこにも咲いていやがる」という感覚をいだくことが多くなった。

ワスレナグサ(勿忘草、忘れな草

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な忘れそ

 ムラサキ科ワスレナグサ属の一年草。英名は”forget-me-not"、独名は”vergissmeinnicht"、和名は”忘れな草”でみんな同じ。花言葉は「私を忘れないで」でこれも同じ。これは、中世ドイツの物語から名付けられたと考えられている。

 若い騎士は彼女のために、ドナウ川ライン川とも)の岸辺に咲く小さく美しい花を採りに行き、誤って川に流されてしまう。騎士は力を振り絞って摘み取った花を彼女の元に投げ、「私を忘れないで」という言葉を残して流れに消えてしまった。

 この物語から分かることがひとつある。この花は岸辺に咲く=湿地を好むということだ。ワスレナグサを育てる場合、水切れは厳禁なのだ。

 個人的にはこの話よりも、映画「男はつらいよ」の第11話、『寅次郎忘れな草』のほうが印象深い。リリー(浅丘ルリ子)が初めて寅さんシリーズに登場した回だ。寅さんはリリーから花の名前を聞かれたとき、「タンポポでしょ」といい加減に答え、妹のさくらにたしなめられた。

 ノーヴァリスの『青い花』はワスレナグサをイメージして書かれ、プルーストの『失われた時を求めて』ではワスレナグサは重要な場面に何度も出てくる。イギリスのランカスター家の家紋に用いられたこともある。欧州ではとても愛されている花のようだ。私も何度かこの花を育てたが、いずれも水切れで枯らしてしまった。枯れる前、花は私に向かってこう叫んだことだろう。「な忘れそ!」

 ワスレナグサはブルーの小さな花が特徴的だが、何が愉快なのか白、ピンク、紫などの改良種が出回っている。

ハハコグサ(母子草、ごぎょう

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注目されることは少ないけれど

 キク科ハハコグサ属の二年草、もしくは越年草。ハハコグサの名前より春の七草のひとつである「ごぎょう(御形)」のほうが世間には知られているだろう。ただし、「ごぎょう」がこの草だと知っている人は少ないかもしれない。若い苗が食用になる。母子草の名前ゆえか花言葉に「無償の愛」というのがあるそうだ。若いときに身を人間のための食料として投げ出してしまうのだから、確かに「無償の愛」と言えるだろう。ただし、「春の七草」として販売されている場合は有償である。

サルビア・ミクロフィラ(チェリーセージ

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近年、見掛けることが多くなった紅白種

 シソ科アキギリ属の常緑性小低木(多年草とも)。一見、草のようだが茎の底部は木質化する。高さは1・5mにも育つので、高くなった場合は茎の下部を切り戻すと毎年、こんもりと咲くようになる。種小名には"microphylla"とあり、これは「小さな葉」を意味するが、実際には決して小さくはない。原産地がメキシコのチワワ州なので、犬のチワワのように「小さい」という意味なのかとも考えたが、地名のチワワは「乾いた砂の土地」を表すので「小さい」とは関連性がない。もっとも、砂粒は小さい。

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純白もあります

 かつては、赤い花が特徴的(本項の冒頭の写真参照)だったのだが、現在では改良種である「ホットリップス」が多く流通しているためか、紅白の花をもつものが増えている。さらに交雑種なのか、ひとつの木(草)から赤、紅白、白の三種の花を付けるものもよく見かける。

 英名のチェリーセージ(ベビーセージとも)から分かるように、葉はハーブとして利用される。

キンセンカ(金盞花、カレンデュラ

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あまり見かけなくなった古典種

 キク科キンセンカ属の一年草。以前に紹介した小型の「カレンデュラ・冬知らず」は、その名の通り越年するので多年草として扱われる。花は大きく10cmほどにもなる。一重咲き、八重咲きがあるが、近年では写真のような八重咲きタイプが圧倒的に多い。花の中心は写真のように花弁と同じ色のものと異なるタイプのものがある。花色は黄色か橙色が大半だが、複色タイプのものも見掛ける。

 以前はどこの庭や公園にもよく植えられていたが、最近では見る機会がかなり減った。群生させると豪華だし花期も比較的長いので、人気が復活すると良いとおもうのだが。なお、この花もハーブとして利用される。

イソトマ(ローレンティア)

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繊細かつ優美

 キキョウ科イソトマ属の多年草一年草とも)。開花期は長く、次々と写真のような細身の星形の美しい花を咲かせる。とてもキレイな花なのだが、近年はほとんど見掛けなくなった。これは茎から出る液が有毒で、皮膚がかぶれたり目に入ると失明する恐れがあることから敬遠されているのかもしれない。何しろ、花言葉にも「猛毒」とある。

 バラのように「美しい花には棘がある」が、イソトマのように「美しい花には毒がある」ことは、園芸の世界では実はよくあることなのだ。