徘徊老人・まだ生きてます

徘徊老人の小さな旅季行

〔39〕「つゆのはしり」に濡れながら思うことなど

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東八道路のガードフェンスで見つけたツキヌキニンドウ

9月入学というバカげた議論

 ここにきて新型コロナの新規陽性者の確認数が減ってきており、残る5都道県の緊急事態宣言の解除がおこなわれることになった(一時的だと思うが)。これは国民の大半が素直に大型連休中に自粛行動をおこなったこと、各自治体が数多くの公共施設や駐車場を閉鎖して市民の移動を制限したこと、相変わらずPCR検査を限定的におこなったことなどの「成果」によるものだろう。これに加えて、天候が高温・湿潤方向に進んでいるため、ウイルスの活性が低下していることも理由のひとつに考えられる。コロナ禍の終息はまだ数年先だろうが、一時的な収束に至る蓋然性は高まった。

 コロナ禍に対する一連の行動で政府の無能ぶりにはますます磨きがかかり、さすがにのん気な国民も内閣支持から離れつつある。その一方、目立ちたがり屋が多い知事連中への期待感が高まり、彼女・彼らのパフォーマンス行動に拍車がかかっている。国民の為政者への「お任せ度数」は不変なので、そう遠くないうちに国民の不平不満は、今度は知事連中に向かっていくことは必定だろう。

 私が今、いちばん不満に思うことは、検事長の賭けマージャンでも、やっと届いたアホノマスクでもなく、学校の9月入学への移行の動きである。9月入学という考え方はずっと前からあったようだが、さして大きな議論にはならずにいた。ところが今年の4月、現役高校生が自分たちの学校生活が実質的に短くなっていることへの不安や不満から9月入学の署名活動などが始まり、これに呼応するかのように新自由主義から国民社会主義に転じた現知事や元知事らが同調の声を上げ、さらに「やってる感」をとにかく出したい首相や閣僚や官僚が、21年秋から9月入学に移行できるかの本格的な検討を始めているのである。これが実現すれば、今の児童・生徒の学年末は来年の7月まで延長されることになり、新コロで臨時休校となっている分の授業数を取り戻せるというのである。

 夏・秋から新学期が始まるというのは欧米標準であり、日本がこれに倣うと生徒・学生の海外留学に連続性が生まれること、春入学では真冬が受験シーズンとなり例年、大雪や季節性インフルエンザの流行で多くの受験生が障害を受けているが、これが回避できること、初夏の卒業になれば欧米と同時期になるので、国内だけでなく欧米各国から優秀な人材を確保できると経団連は歓迎の意向を表明していることなど、そのメリットを挙げている。

 愚か!というほかはない。楽しい学校生活をできるだけ長く過ごしたいという高校生たちの心情は理解できなくはないが、そんなことはいっときの感傷に過ぎない。勉強の遅れを問題にする向きもあるが、今時、勉強の機会は学校以外にもあるし、むしろ、学校の授業が本来の「学習意欲向上」の妨げになっている場合のほうが多いのではないか。海外留学を本気で考える優秀な生徒であれば、学校などには頼らず自らの努力で克服可能だろう。そのために学校が用意できることは、さしあたり「飛び級制度」であろうし、それ以外には考えられない。確かに、受験期が6月頃であれば大雪や季節性インフルエンザ禍は回避できる。が、その替わりに大雨、台風、大洪水という災難が襲う場合がある。どのみち、日本は自然災害からは逃れられない運命にある。海外から優秀な人材を確保できる企業が日本には今、どれだけあるのか。むしろ、優秀な人材ほど海外に流出しているのではないか。そもそも、仮にそうであるなら、新卒一括採用を止めれば良いだけの話だ。

 さらに言えば、今度のコロナ禍が5月いっぱいで収束する蓋然性は極めてゼロに近い。欧州やアメリカなどではやや落ち着きを示しつつあるが、ブラジル、ロシア、南米各国、サハラ以南のアフリカ、オセアニアなどはこれからが拡大期と言われているし、現に感染者増加の動きは加速しつつある。北半球はこれから夏を迎えるのでウイルスの活性は低下するかもしれないが、南半球ではこれから涼しくなるのでウイルスは活性化すると考えられている。したがって、欧米諸国に見られる一時的な収束観測は完全な終息とはまったく異なり、第2波や第3波は欧米だけでなく日本にも晩秋頃には必ずやってくるだろう。そうなれば再び臨時休校となり、たとえ学年度を7月まで伸ばしたところで足りなくなるかもしれないのだ。

 そもそも歴史上、ウイルスの根絶は不可能であり、今回の「SARS-CoV-2」も同様で、ワクチンの開発とその配布が世界全体に行き渡らない限り、コロナとの共生すら実現できない。現に、ワクチン開発が進んでいる季節性インフルエンザであっても毎年、世界では約65万人が犠牲になっている。

 9月入学のような大改革は平時に熟議し、新たな制度に移行するためには万全の態勢で臨まなければならない。拙速な議論は慎むべきだろうし、今政府がおこなうべきことは、早急で意味のある経済対策、第2波に備えるための医療体制の充実ではないか。

 学校制度でいえば、そもそも、新年度が「春」に始まるのは当たり前のことではないか。台風がやってくる頃に「明けましておめでとうございます」などという馬鹿者はどこにいるのか。

 暦の起源はローマ暦にあるとされる。前8世紀半ばに作成された「ロムルス暦」(ロムルスは伝説上のローマ建国者の名前)は1年を10か月に分け、1月を「マルティウス」(軍神マルスのこと)、2月を美の神に由来する「アプリーリス」、3月を豊穣の神から「マーイウス」、4月は結婚の神から「ユーニウス」と付け、5月からは面倒になったのか「5番目の月」「6番目の月」と続け、「10番目の月」で終わっている。1か月を30か31日にしているのであとの約60日には月名はない。なお、「マルティウス」は英名では「マーチ」になり今の3月である。つまり、気候がやや暖かくなり、そろそろ戦争や農耕を開始する頃が年の初めであり、刈り入れが終わり、寒くなったので休戦状態に入る冬はお休みになるので暦には記さなかったのだ。

 その後、これでは不便だということで、前8世紀後半の「ヌマ暦」(ヌマはローマ2代目の王の名前)で、11番目の月の名を「ヤヌス」、12番目を「フェブルス」と横着をしないで神の名を付けた。

 前2世紀の半ば、暦を大きく改正しなければならない出来事が続いた。イベリア半島での戦争(ルシタニア戦争など)である。今までは執政官は「マルティウス」の月の半ばに就任式がおこなわれていたが、その戦争は冬場にも続いていたので、もう少し早い時期に就任式をおこなって政治的・軍事的体制を整える必要が出てきた。そこで、冬至(12月22日頃)の次の月を1月にすることになった。冬至は昼が一番短い日なので、1月から昼がだんだん長くなると考えると年の始まりに丁度良いと考えたのだろうか。このため11番目の月(ヤヌス)が1月(英名ジャニュアリ)、12番目の月(フェブルス)が2月(フェブラリ)となったのである。このため、たとえば9月(英名セプテンバー)は7番目の月(セプテンベル)である「7=セブン」が、10月(オクトーバー)には「8=タコの八ちゃん)が現在にも残っているのだ。

 以上のように、気象学的には冬至の次の月を1月とするのは当然のようだが、人間の文明の歩みという点から考えると、農作業を始める時期を一年の出発点に置くのはごく自然のことである。春分点から夜より昼が長くなるので、これを農作業を始める時期と考え、春分点(3月20日頃)の次の月から本当の新年が始まると考えるならば、4月を始業の月とするのは至極当然のことなのである。学校の新学期、入学式が4月にあるのはほぼ100%、理にかなっているのである。

 春はフランス語では「プランタン」、イタリア語では「プリマヴェーラ」、スペイン語では「プリマベーラ」であり、これらはいずれも”pri"で始まる。この"pri"は一番目を意味する。春が一年の始まりと考えるのは、ローマ暦の成立過程から考えても当然すぎるほど当然のことなのである。

 4月の初め頃といえば桜が満開になる時期である。近年では温暖化のためか3月下旬に満開になってしまうことがあるが、それはそれで卒業の時期に当たるので大変に御目出度い。卒業・入学という人生の切れ目を桜とともに迎えるというのはハレの日に相応しいというものである。万葉集の頃こそ「花」は梅を指すことが多かったが、平安期以降、現在に至るまで「花」といえば「桜」である。私はナショナリスト愛国者)ではなくパトリオット(愛郷者)なので、郷土の花である桜を「人生の花」とするのは必然的であると考えている。

 これが7月卒業、9月入学になったら、どんな花と結びつくのか?7月の花は、ハイビスカス、サルスベリ、ヒマワリが代表的だ。ハイビスカスは華やか過ぎ。サルスベリは浪人生には可哀そう。ヒマワリでは日和見主義者になりなさいの比喩になる。いずれも卒業花には不適だろう。9月の花はヒガンバナキンモクセイ、コスモスあたりか。ヒガンバナは葬式には良いが入学式にはどうか?キンモクセイはトイレを連想するのでハレの日には不向き。唯一、コスモスは良いかも知れない。コスモスの別名は「秋桜」だからだ。ただし、コスモスを「秋桜」と書くようになったのは1977年からで、それまでは「大春車菊」が日本名だった。コスモスは明治期に渡来した外来種なので標準和名は存在しない。コスモス≒秋桜になったのは、さだまさしが作詞作曲して山口百恵が歌って大ヒットした有名な曲による。それゆえ、秋桜にかなをふれという問題が出たら「コスモス」は不正解で、「あきざくら」が正解となる。こんなことは「芸」の世界ではよくあることで、中原中也が「含羞」と書いたら「がんしゅう」と読んではだめで、「はじらひ」と読まねばならない。ただし、漢字のテストのときは「はじらひ」と書くとバツになる。ともあれ、コスモスを入学式の花とするのは「外国かぶれ」と同義である。

 コロナ禍のために5月の東北旅行は中止、5月20日の興津川の鮎釣り解禁は延期、植物園、自然公園、図書館はそろそろ再開される可能性は高いがまだまだ制限は多そう。それでも、6月1日にはあちこちの川で鮎の友釣りが解禁となるので、楽しみはまたひとつ増える。相変わらず、三浦半島での磯釣りは面白いし、例年よりも家にいる時間が長いので読書の幅が広がったし、徘徊中に道端や野原で春や初夏に咲く花を観察する時間は例年以上に増えた。いつもとは違う春から初夏だったが、数々の新しい発見や体験があったという点では、いつもの年と同じぐらいの充実度はあった。

ホタルブクロ(蛍袋、チョウチンバナ)

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ホタル狩りは遠き日の記憶

 キキョウ科ホタルブクロ属の多年草。日本各地の山林や野原に咲く。日当たりが良い場所を好むが日陰場所でも生育する。種や子株から増えるが、成長が早いので数年後にはこの花だらけになることもある。

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花弁には斑点が多くある

 学名は"Campanula punctata"で、種小名の「プンクタータ」は斑点が多いという意味だ。花弁の表側からでも斑点は確認できるが、釣鐘の内側をのぞくと斑点がたくさん確認できる。この花はホタルが飛び交う時期に咲き、子供たちは捕らえたホタルをこの花に入れて持ち帰ったというところから「蛍袋」と名付けられたとされている。そううまい具合にホタルを捕まえた場所にこの花が咲いているかどうかは不明だが。なお、花色は紫が多いが、白やピンクのものもある。

オオキンケイギク(大金鶏菊)

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初夏の土手を彩る雑草

 キク科ハルシャギク属の多年草。北米原産で、日本には鑑賞目的で明治中期に移入された。公園や河原の土手、高速道路の法面などに植えられ、かなり大型の花で鮮やかな花色とその群生が見事なので一時期は珍重されたが、繁殖力旺盛なことから在来種を駆逐してしまうという理由から、現在では「侵略的外来種ワースト100」に認定されている。

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雑草とて、群生は素敵だ

 花の姿がキバナコスモスに似ているので、観賞用としてこれを庭や道端に植えて大切に育てている人も多い。しかし、現在は栽培、販売、譲渡が禁止されている。この花を育ててみたいと考えている人は、河原の土手などからこっそり根っ子ごと引き抜いて持ち帰っているようだ。多摩川の土手を散策していると実際、そのような行為をおこなっているオバサンやオジイサンを何度か見掛ける。これは違法なのだが、あくまで「キバナコスモス」であると主張すれば「事実の錯誤」として認められるかもしれない。

オトメギキョウ(乙女桔梗、ベルフラワー

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名にし負わばいざこと問わんベルフラワー

 キキョウ科ホタルブクロ(カンパニュラ)属の多年草クロアチア西部の石灰岩質の崖に自生する。草丈は低く10~15cmほどで横に這うように茎が伸び、上向きか横向きの花をたくさんつける。ベルフラワーの別名がある通り、花は釣鐘形をしている。和名が乙女桔梗となっているように花は小さく、形はキキョウに似ている。花色は写真のものが多いが、白色や青に近いもの、紫が強いものなどがある。花言葉に「感謝」というのがあるが、これは花が教会の鐘に似ているかららしい。属名の「カンパニュラ」は以前にも記したように「釣鐘」を意味するので、教会だけでなくお寺の鐘でも良いと思う。

ガウラ(山桃草、白蝶草)

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他人の庭で盗み撮り

 アカバナ科マツヨイグサ属の多年草。流通名のガウラも標準和名のヤマモモソウも、旧属名が"Gaura"=ヤマモモソウだったためにそう呼ばれていた。現在でもガウラの名で流通しているが、この花を好む人(私もその一味)はハクチョウソウの名で呼ぶことが多い。これは写真からも分かる通り、花の形が白い蝶に似ていることによる。

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別の庭で見つけたガウラの満開の姿

 背丈は1m以上にもなるが茎はとても細いのでいつも風にそよいでいる。花の命は3日ほどと短いが長い穂にたくさんの花を付けるため、全体としての花期は案外長い。今の時期は南風が強いときが多いので、白い蝶たちはいつも飛んでいるように見えるが、彼女らは茎に囚われているため、大空を舞うことなく、ほどなくして萎れてしまう。「白蝶は哀しからずや」である。

 花色は白がほとんどだが、改良園芸種としてピンクや赤、さらにその複色のものが出回っている。それらも美しいが、白蝶草の名にあった白色がもっとも素敵だと思う。

ヒペリカム・カリキナム(西洋金糸梅、ビヨウヤナギ)

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ビヨウヤナギの名前で知られる

 オトギリソウ科オトギリソウ属の半常緑性低木。ビヨウヤナギ(美容柳)の名前で流通しているが、厳密には種が異なる。本種はビヨウヤナギと同様にキンシバイの仲間で、野生化して樹高が低くなり、花は大きく咲き、雄蕊が長く伸び(キンシバイの雄蕊はカールする)て見応えがあるため、近年ではあちらこちらで見掛けるようになった。枝は横に伸びて地面を覆うように生長するためグランドカバーとしても利用されている。写真はルミエール府中(府中市立図書館)の建物の周囲に植えられているもので、開花が始まったところ。枝先には多数のつぼみを有しているので日いちにちごとに花数は増えている。これには蜂も大喜びの様子だった。

カリブラコア

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ペチュニアの改良小型品種

 ナス科カリブラコア属の一年草(原産地では多年草)。夏の花として定番であるペチュニアの近縁種で、かつてはペチュニア属に含まれていたが現在は独立した。南米原産で、日本では「サントリーフラワーズ」が数種類を掛け合わせて1980年代に園芸種(ミリオンベルシリーズ)として発売した。ペチュニアより小型で花数も多いため人気種となった。初めは単色だったが改良が進み、現在では数えきれないほどの花色のものが発売されている。また、ペチュニアとの掛け合わせもおこなわれているために花の大きなものも出回っている。さらに、八重咲き品種も増え、現在ではペチュニアの人気を凌駕しているようだ。なお、写真の花は「ホーリーカウ」という商品名で出回っているもので、国分寺市の某所の家の前に咲いていたものを盗撮した。 

ムギナデシコ(麦撫子、ムギセンノウ、アグロステンマ

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風にそよぐナデシコ

 ナデシコ科ムギセンノウ属の一年草。地中海沿岸が原産地で、日本には明治期に移入された。属名の"Agrostemma"のアグロは畑、ステンマは王冠をあらわす。花は大きく、しかし茎は非常に細いので、少しの風でもゆらゆらとなびき写真撮影に苦労する花だ。この頼りないが美しい王冠は、現地では畑作に邪魔な雑草として扱われている。

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お願いだからじっとしていてくださいね

 花色は写真の紫系がほとんどだが、ピンク系や白系もある。今回、白系も何度か見掛けたのだが、いずれも風が強い日だったので撮影は断念せざるを得なかった。標準和名はムギセンノウ(麦仙翁)だが、園芸の世界では「アグロステンマ」や「ムギナデシコ」の名前で流通している。欧州では雑草だが日本では立派な園芸種。が、実際にはかなり野生化している。

アップルゼラニウム(スィート・センテッド)

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センテッド・ゼラニウムの仲間

 フウロソウ科ペラルゴニウム(テンジクアオイ)属の多年草。数多いゼラニウムの中では「センテッド・ゼラニウム(ハーブ・ゼラニウム)」の仲間として分類されている。葉の香りは「ミント」「ストロベリー」「レモン」「ローズ」などの種類があるが、本種は仄かにリンゴの香りがするために「アップル」の名が付けられている。

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仄かにリンゴの香り

 縦長に咲く花はかなり小さく、1から2cmほどしかない。ゼラニウムといえば近年では絢爛豪華な花弁を競っているが、本種は写真の通り白地に僅かに紫が入るといった奥ゆかしい色彩であり花数も少ない。花だけでなく葉っぱも小さく、しかも匍匐性があるので管理はしやすい。なお、最近ではリンゴの香りがしない改良種の「アップル・ゼラニウム」も出回っているようだ。こうなると、なんのための改良?なのか不明だ。

シモツケ(下野)

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名前はその花が最初に見つかった場所に由来する

 バラ科シモツケ属の落葉低木。学名は"Spiraea japonica"。属名はギリシャ語で螺旋を意味する。これは果実の形に由来する。種小名に「日本の」とあるように日本が原産地である。最初に発見されたのが下野(現在の栃木県)だったことから「シモツケ」と命名されたとされている。

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こちらは赤色が強いタイプ

 雄蕊が長く毛羽立っているように見えるが、小さな花の形から想像できるように、以前に紹介した「ユキヤナギ」や「コデマリ」と同じ仲間である。小さな花がまとまって咲くものを「複散房形花序」というが、ユキヤナギコデマリのように形は整っておらず、大小に違いだけでなく不整形のものも多い。

 花色は白、ピンク、赤で、今回は赤色のものが多く見つかった。東八道路の歩道の植え込みには赤色のものだけが延々と続いて咲いていた。一方、野川公園内ではピンク系が多かった。個人的には白系が好みなのだが、今季はまだ発見に至っていない(ホームセンターや園芸店では見掛けているが)。6月いっぱいまで咲き続けるので、残りあと一か月、白系との出会いが楽しみだ。

ハゴロモジャスミン(羽衣ジャスミン

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香りは存在に先立つ

 モクセイ科ソケイ属の半常緑つる性の花木。中国雲南省原産。学名は"Jasminum polyanthum"で、いわゆるジャスミン茉莉花)の仲間。種小名からわかるとおり花数はとても多く、満開時には全体が真っ白になる。香り(匂い)はかなりきつく、この花が咲いているときは香りが風に運ばれて届いてくるので、かなり遠くからでもその存在が分かるほど。秋のキンモクセイといい勝負である。比較的新しい存在なのだが、見た目の美しさと独特の香りから一気に広まり、つる性ということもあって塀やフェンスに絡ませて育てている姿をよく見掛けるようになった。通り道にあるのは歓迎できるが、近隣にあると少しだけ迷惑に思う人もいるかも。

ヒルザキツキミソウ(昼咲月見草)

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初夏には欠かせない雑草

 アカバナ科マツヨイグサ属の多年草。メキシコ原産で岩場の多い乾燥地帯に自生する。日本には江戸時代に観賞用として移入された。マツヨイグサ(待宵草)の多くはその名の通り、昼間は花を閉じていて夕方に咲くのだが、本種は日中に開花するのでヒルザキツキミソウの名がついた。近年は空気が一時期に比べると澄んできているので昼間でも月が見られるのだが。花色は写真のピンクのものがほとんどだが、中には白、黄、オレンジもあるらしい。夜咲きのマツヨイグサは黄色の花が多いが、いちばん多く見られる昼咲きタイプの白花は私の場合、未発見である。

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ツキミソウにはアリンコがよく似合う

 近縁種のアカバナユウゲショウの白花タイプは今年になって開花場所を発見したが、本種では未発見なので、これが6月の花探しの課題になっている。写真のようにピンクが薄いものが多くあるし、本種のほとんどは野生化しているので発見は近いかも。 

ニオイバンマツリ(匂蕃茉莉)

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香りと色変わりが楽しめる

 ナス科バンマツリ(ブルンフェルシア)属の熱帯性常緑低木。ブラジル原産で特に改良園芸品種はない。和名から分かるとおり、かなり香りが強く(ハゴロモジャスミンほどではない)、南米原産で、香りはジャスミン茉莉花)に似ているという特徴を有する。つまり、匂い+外国産(蕃)+ジャスミンのよう(茉莉)という具合に命名されたらしい。

 花色にも特徴があり、咲き始めは濃い紫で、次第に色が褪せて薄紫になり、最後には白色になって枯れるという変化を遂げる。アジサイのように七変化とまではいかないが、香りだけではなく色彩の変化も楽しめるという具合の良い植物だ。

 が、万事良好というわけにはいかず、樹木全体に毒性(アルカロイド)を含み、仮にこの植物の果実を犬や猫、幼児や私のような食いしん坊の大人が食べてしまうと激しい痙攣を起こすことがある。以前にも述べたが、観賞用植物の多くが毒性を有していることは案外、知られていない。「食べるな危険!」

ドクダミ(蕺菜(しゅうさい)、毒溜め、十薬)

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八重咲きだが匂いは同じ

 ドクダミドクダミ属の多年草で一属一種。東アジアや東南アジアに広く分布し、薬草や食菜に用いられている。湿り気のある半日蔭や日陰に自生し、地下の根(ランナー)が広がって増えていくので退治が困難な雑草だ。しかし、今の時期は真っ白な花を咲かせ、これがなかなか美しい。ただし、葉や茎に独特の臭気(良い香りという人も稀にいる)があるため、かなりの嫌われ者なのでこの花をじっくりと眺める人はあまりいない。

 ドクダミといえば「ドクダミ茶」が有名だ。あの独特の臭い(匂い)は乾燥させたり煮たりすると消えるため、今度はドクダミがもつ効能が浮かび上がってくる。江戸時代の儒学者である貝原益軒が「十種ノ薬ノ能アリ」と記しているように、傷口の止血・再生、風邪や便秘の治療、高血圧の予防、冷え性対策だけでなく、鼻に詰めると蓄膿症にも効くとされている。殺菌効果だけでなくウイルス対策にもなると考えられているので、新型コロナ感染予防の効果もあるかもしれない。私が今のところ「SARS-CoV-2」に侵されていないのは、もしかしたらドクダミ好きが理由のひとつかもしれない。

 ところで、写真のドクダミの花は通常のものとは異なり「八重咲き」タイプだ。ただし、通常のドクダミも写真の八重咲のものも、白いのは花弁ではなく総苞片(そうほうへん=蕾を包む葉っぱが変化したもの)である。通常のものは苞が4枚なのに対し、八重咲きタイプは苞が多数あり、蕾が生長するにしたがって順々に開いていく。写真のものは蕾の頭頂部がまだ白い苞に包まれている状態で、これが完全に開き切ると、通常タイプと同様に緑色の花部が姿を見せる。

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苞が完全に開いた状態の花

 通常タイプのドクダミの苗を購入する人はいないが、八重咲きタイプのものは貴重なので園芸店やネット通販(たとえば楽天で一苗750円+送料)で取り扱われている。写真は近所にある団地の植え込みで見つけたもので、無数にあるドクダミの花の中、ほんの数株だけが八重咲きだった。八重咲きになる理由は不明のようで、突然変異といっても先祖帰りしてしまうものも多いそうなので、来年の今頃は同所で八重咲きのドクダミは見つけられないかもしれない。が、来年の今頃まで生きて再び八重咲きドクダミと出逢いたいという希望が生まれた。ドクダミは、精神の薬にもなる益草である。臭い(匂い)は少し気になるが。 

サルビア・ガラニチカ(メドーセージ、ガラニチカセージ)

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かなり大型になるサルビア

 シソ科アキギリ属の多年草。南米原産で、パラグアイに住むグアラン族の名に由来して「ガラニチカ」と名付けられた。日本では「メドーセージ」の名前で流通しているが、これは「サルビア・プラテンシス」のことで、ガラニチカをメドーセージと呼ぶのは日本だけのことらしい。ガラニチカとプラテンシスは花色や長い花穂など似ている点が多いので流通業者が誤って呼んでしまったのがその理由らしいが本当のところは不明とのこと。

 本種は草丈が1.5mほどにもなる大型のサルビアで、一般種であるサルビア・スプレンデンス(赤い花)やサルビア・ファリナセア(ブルーサルビア)など小型のものとは姿はかなり異なる。しかし花が唇形である点は共通なので、サルビアの花をよく知っている人は同定可能だ。

 「サルビアの花」といえば、1969年に早川義夫が発表し、72年に「もとまろ」がカバーして大ヒットした曲が有名だ。今はジジババになり果ててしまった人々が若かったころにはよく口ずさんでいた。歌詞には「サルビアの紅い花しきつめて」とあるので、これは「サルビア・スプレンデンス」の唇形花のことだろう。「サルビア・ミクロフィラ」か「サルビア・エレガンス」かも、などという議論は巻き起こらなかった。当時、サルビアといえば大概はスプレンデンスしか知らなかったし、大半の人は園芸花には興味はなかった。 

ブラシノキ(カリステモン、ハナマキ、ボトルブラッシュ)

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見たまんまの名前

 フトモモ科ブラシノキ(カリステモン)属の常緑性高木。オーストラリア原産で改良園芸品種が多くある。英名は”ボトルブラッシュ”で、まさに見たまんまの名前が付いている。花期はさほど長くないのでこの存在を知らない人は多いようだが、一度でもこの花の姿を目にしたらその存在は忘れないし、名前も忘れようもない。

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これだけブラシが揃えばパイプ掃除には困らない

 独特な花形から改良が進んでいるようで、園芸品種の中には白花、桃花(写真)、薄紫花のものもある。ブラシノキであればやはりこげ茶色の花が欲しいところだが、今のところ見掛けたことはない。重そうな花をたくさんつけるので、風が強い時には倒木の危険があり、その対策として支柱を立てているものをよく目にする。賢明な措置だろう。 

ハクチョウゲ(白丁花、六月花)

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生垣によく用いられる

 アカネ科ハクチョウゲ属の常緑低木。学名は"Serissa japonica"であるが、原産地は東南アジアで、日本には江戸時代に移入され園芸種として改良がおこなわれた。中国では「六月花」、英名は「june snow」とあるように初夏に小さな白い花を多数付ける。樹高は1m前後で、高くても1.5mほどなので生垣によく利用されている。

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小さな花はかなり美しい

 写真のように白花で薄い紫のラインが入る。一重咲きが基本形だが、改良園芸種が多く、花が薄いピンクのもの、二重咲き、八重咲き、葉に白い縁が入る(斑入り)ものなどがある。今の時期の生垣といえばツツジ、サツキ、アベリアが一般的だが、満開になった白丁花は、小さな白鳥が群なす如くに美しい。

ヤグルマギク矢車菊コーンフラワー

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開花期間が長い花

 キク科ヤグルマギク属の一年草。ヨーロッパ原産で、日本には明治の中期に移入された。学名は"Centaurea cyanus"で、"centaurea"はケンタウルスが語源。ケンタウルスがこの花を薬草に使用していたという伝説に由来する。また、ツタンカーメンの棺の上にはこの花とハス、オリーブが置かれていた。ヤグルマギクは人類最古の栽培植物のひとつだと言われている。"cyanus"は「浅葱色」という意味。小麦畑によく咲いていたことから「コーンフラワー」の名があるが、最高級のサファイアを「コーンフラワーブルー」と呼ぶようにこの花の「浅葱色」は自然界の中でもっとも美しいと考えられてきた。ドイツの国花である。

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花とミツバチ

 和名のヤグルマギクはそうした花色とは関係なく、花びらの形が矢羽の風車に似ているからである。もう少し良い名前を付けてあげればもっと人気の出る花だと思うのだが。花色は青が多いが、紫、ピンク、白、黄などもある。写真は一重咲きだが八重咲き種もある。草丈は60から70cmほどだが、園芸用に改良された矮性種は30cmほどとコンパクトに収まる。

 なお、生命力が強いので、逸出して野生化したものも多く、写真も畑の近くに群生していたものを撮影した。ミツバチは美しい色に誘われてやってきたのではなく、ただ蜜を集めるためだ。ミツバチにはこの花はどんな色に見えているのだろうか?

カルミアアメリシャクナゲ

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花の形が印象的

 ツツジ科ハナガサシャクナゲカルミア)属の常緑性小高木。北アメリカ東部原産で、日本には1960年代に移入された比較的新しい品種である。属名に「シャクナゲ」の名前があるが、シャクナゲの仲間ではない。カルミアの名前は植物学者のカルムに由来する。花色は白、赤、ピンク、紫があるが、どれも相当に美しい。

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こう見えてもツツジの仲間

 写真から分かるとおり、蕾は金平糖のような形をしている。色は花弁が開いたときよりもずっと濃いものが多いので、開花時よりも蕾時を好む人が多いらしい。雄蕊の状態にも特徴があり、通常時に雄蕊は花弁のくぼみの中に収まっていて、昆虫が飛んできたときにその刺激で雄蕊はくぼみから飛び出して花粉をまき散らす。なお、葉っぱにはグラヤノトキシンが含まれているので、ペットなどが葉っぱを口にすると嘔吐や神経麻痺の症状を起こす。 

マツバギク(松葉菊)

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グランドカバーに最適

 ハマミズキ科マツバギク属の多年草マツバギクの名で出回っているが、狭義のマツバギクはランプサス属を表すが、交雑が進んでいるので広義にはデロスペルマ属も含まれる。花の姿かたちも個体ごとに変化があるので品種名は表記されず、商品名が示されることが多い。原産地は南アフリカで日本には明治初期に移入された。

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かなり強烈な花色

 花色は紫、赤、白、ピンク、黄、オレンジのほか複色もある。写真から分かるとおり、いずれも強烈な花色をしている。グランドカバーによく用いられ、明るい日差しを好み、満開時には花の絨毯ができる。高温や乾燥にも強いために逸出して野生化しているものも多く、道端や土手、道路の法面などに群生している姿をよく見掛ける。

 

ニゲラ(クロタネソウ)

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糸状の葉と苞が特徴的

 キンポウゲ科クロタネソウ属の一年草。地中海沿岸から西アジア原産。日本には江戸末期に移入された。ニゲラはラテン語のニガー(黒)が語源になっており、これは果実が黒いことに由来する。和名はそのままクロタネソウになっている。なお、種はバニラの香りがするが、アルカロイドを含んでいるので薬草として利用されることもある。

 花は白、ピンク、青、紫などがあるが、花びらに見えるのはガクであり、実際の花弁は中心部に隠れていて糸状の苞が包み込んでいる。葉っぱも針状なので、花に糸くずが絡んでいるように見える。英名のひとつには"love in a mist"というのがある。糸くずが絡んでいるという表現より、霧の中にあるというほうがこの花の特徴をよりよく把握しているのかもしれない。

ジャーマンアイリスドイツアヤメ、レインボーフラワー)

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アイリスの仲間ではもっとも豪華

 アヤメ科アヤメ属の球根植物。ヨーロッパで野生化して交雑が進んでいたゲルマニカ種を元に、さらに園芸種として改良された。交配育成が盛んなので花の色彩や形態が多数あり、これが「レインボーフラワー」といわれる所以である。学名は"Iris germanica Hybrid"とあり、交配育成種であることが明記されている。

 花色は、白、赤、ピンク、オレンジ、青、紫、黄などのほか複色のものもたくさんある。草丈は100cmほどになる大型種で見栄えが良い。日照と乾燥を好むので、半日蔭の湿潤な場所では枯れたり腐ったりする。歩道や公園などで育成されているのをよく見掛けるが、素晴らしく見えるものと見すぼらしいものとがある。これは花の責任ではなく、環境の問題である。なお、根茎(球根)は横に伸びて生長するので、株数はどんどんと増えていく。 

ダッチアイリス(オランダアヤメ)

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控えめなアイリス。色は豊富

 アヤメ科アヤメ属の球根植物。スパニッシュアイリスを元にいろいろな品種を掛け合わせてつくられた改良園芸品種。学名は"Iris×holandica"である。内側の花片が立ち上がって咲くのが特徴的。ジャーマンアイリスより小型(丈は50~60cm)で、水はけの良い日向に球根を植えておけば毎年、きれいに咲いてくれる。花色は白、黄、青、紫のほか写真のような白・黄や青・黄などの複色のものもある。

バーベナ(美女桜)

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種類も色も豊富なバーベナ

 クマツヅラ科クマツヅラ(バーベナ)属の一年草または多年草南北アメリカ原産で約250もの品種がある。姿かたちはいろいろで、毎年、種まきが必要な一年草もあれば、植えっぱなし可能は多年草(これをとくに宿根バーベナと呼ぶ)もある。年々、改良が進んでおり、品種名というより商品名で販売されているものが多い。写真は「ピンク・パフェ」という商品名で流通している宿根バーベナだ。「花手毬」「タピアン(またはテネラ)」という商品の人気が高い。草丈は20~150cmと、匍匐性の強いものから高性種まである。強い日差しを好む花なので、日陰に置くと花付きは悪く、茎はひょろひょろ(これを徒長という)になってしまう。 

ジギタリス(フォックスグローブ、狐の手袋)

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薬草、毒草としても有名

 オオバコ科ジギタリス(キツネノテブクロ)属の二年草または多年草。西ヨーロッパ、南ヨーロッパ北アフリカ原産。属名の"Digitals"はラテン語の”digitus"(指)に由来する。デジタル、アナログのデジタルも同じ語源。全草にジゴキシンという毒があり、とくに循環器系や神経系に大きなダメージを与える。かつては薬草として利用され、強心剤や利尿剤に用いられていた。このジギタリスの成分は現在では化学合成されている。

 草丈は180cmにもなるが、50cm程度の矮性性の改良種も出回っている。花色は白、ピンク、オレンジ、黄、紫、茶、複色などバリエーションは豊富。特徴的な花の形、豊富な色合いを有するので、食べさえしなければなかなか見ごたえのある草花だ。その「危険性」から、実際に目にする機会はあまり多くない。ごく稀に野生化したものを見かけるが、絶対に「見るだけ」にしたい。

ツキヌキニンドウ(突抜忍冬、トランペット・ハニーサックル、ノニセラ)

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花が特徴的なつる性植物

 スイカズラスイカズラ属の常緑つる性花木。北アメリカ東部および南部原産で、日本には明治の中期に移入された。きわめて特徴のある花は甘い香りがする。アーチやフェンスの脇に植えるとよく絡んで成長する。つるは長いものでは3mほどにも伸びる。

 対生する枝先の葉が基部が合着してあたかも葉っぱを突き抜けているように見えるために突き抜き、スイカズラの仲間だが冬でも落葉しないので忍冬、あわせて突抜忍冬と説明的な名前を有する。写真は東八道路の府中自動車試験場(多磨霊園の北側)付近にあって自動車道と歩道とを分離するためのガードレールに絡みついて咲いていたもの。結構な距離に植えてあるので試験場に更新手続きで、霊園にお参りや散策で訪れる際には、この変わった名前と風変りな花をもつ植物にも触れていただきたい。 

ムラサキツユクサ(紫露草)

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朝に咲き昼には萎れる

 ツユクサムラサキツユクサ(トラデスカンチア)属の多年草。北アメリカ原産で日本には明治時代に移入された。原種は少なく、一般に見られるのは交配種か交雑種で、「アンダーソニアナ」とも呼ばれるオオムラサキツユクサである可能性が高い。花色は写真の青か紫が多いが、ピンク、白、複色などもあり、葉っぱの色も黄色味を帯びたものもある。挿し木、株分け、種で簡単に増えるので梅雨期にはあちらこちらで目にする機会は多い。野生化したものも至るところで見られる。朝方に開花するが、日差しがあるときは昼には花を閉じる。が、曇天や雨天時は夕方まで開いている。萎れているように見えても、翌朝にはまた元気に開花する。花芽も次々に付けるので、株全体の開花期はかなり長い。

トキワツユクサ常磐露草)

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小さな白花が印象的

 ツユクサムラサキツユクサ(トラデスカンチア)属の常緑多年草南アメリカ原産で日本には鑑賞用目的で昭和初期に移入されたが、現在ではほとんどが野生化したために帰化植物として扱われている。やや湿った日陰に群生している。

 常磐(トキワ)の名が冠されているのは、この植物が常緑性だからである。常磐は「常に変わらない岩」を意味し、転じて「永久に変わらないもの」を指すことがあり、そのひとつに「常に緑色を保つ=常緑性」というのがある。常磐を「じょうばん」と読むときには地域名を表し、これは「常陸(ひたち)」と「磐城(いわき)」の総称である。 

 

キキョウソウ(桔梗草)

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ぺんぺん草が枯れるとこの花の出番

 キキョウ科キキョウソウ属の一年草。北米原産の帰化植物で、いわゆる雑草扱いされているが、写真のとおり花は小さいがかなり美しい。英名は「Common Venus'looking-glass」で、「ビーナスの鏡」という洒落た名前が付けられている。

 開花は5月中旬頃から始まって今が盛りとなっているが、実は4月頃から花を付けている。しかしこれは閉鎖花といって種を作るだけが目的のため、花は開かずにまず自家受粉して果実を先に作って子孫を確実に残しておく。今頃は開放花を咲かせ、昆虫などに花粉を運ばせて遺伝子交換をおこなう。可愛らしい花だが、したたかな戦略を有する植物である。高さは30から50センチほどにひょろひょろと頼りなげに生長し、初夏の南風にいつも体を揺らしているが、こうした見掛けが儚そうなものほど、実は生命力が豊かだったりする。私の場合は頼りなさそうに見えるが、実は、実際には見た目以上に頼りない。

ヒメヒオウギ(姫檜扇)

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フリージアに似ていないフリージアの仲間

 アヤメ科フリージア属の球根植物。南アフリカ原産で日本には大正時代に観賞用として移入された。現在では多くが逸出して野生化している。これは、こぼれ種でもよく増えるからでもある。茎はかなり細いが、それに比して花径はやや大きめで2.5センチほどある。6枚の花弁のうち、下?の3枚の内側に濃い赤色の模様が入るのが特徴的だ。この模様がある側が「下」と言われているので、撮影の際はこちらが画面の下側になるように注意を払うことになる。

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個人的には白花を好む

 ヒメヒオウギの名はヒオウギに似ているがそれよりも小型であるところから名付けられたが、本種とヒオウギは別種で、こちらはフリージア属なのに対し、ヒオウギヒオウギ(ベラムカンダ)属である。動植物は見た目の類似性で分類するか血縁関係で分類するかの双方がある。かつては見た目が中心だったので、ヒメヒオウギヒオウギと同属とされていたが、遺伝子の違いから別属になり、見た目が異なる(類似点もあるが)フリージア属に入れられた。これは人間も同じで、私や私の知人などは見た目や行動からは「サル」に近いが、遺伝子の関係か(この点は隠匿されているので不明だが)一応、人間とされている。もっとも、どう分類されようが私は私だし、友人はぎりぎり人間の範疇に入るとされている。 

 

ハイアオイ(這葵)

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花と小さな虫

 アオイ科ゼニアオイ属の多年草。ここでは一応、ハイアオイの可能性が高いのでこの名前を挙げておいたが、「ナガエアオイ」「ウサギアオイ」というよく似たものがあり、図鑑などで調べても同定されておらず、調べるほどに研究者の間でも混乱していることがよく分かる。ヨーロッパ原産の帰化植物であること、ゼニアオイ属であることは間違いないようであるが、交雑が進んでいる可能性もあり、しかも大多数の人はこの植物には興味を持たないので、このまま混乱が続くような気がする。本項で挙げた花の中で唯一、私が名前を知らなかったものなので興味を抱いたのだが、いまのところ、これ以上に調べる手立てはない。

ワルナスビ(悪茄子)

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意外に目につく雑草

 ナス科ナス属の多年草アメリカ南東部原産で現在ではほぼ世界中に帰化している雑草。日本では植物学者の牧野富太郎が発見、命名した。繁殖力が旺盛で駆除が難しいこと、葉や茎に細かなトゲがあること、ミニトマトに似た果実をつけるが有毒であることなど、ワルの名に恥じない存在だ。外国でも「悪魔のトマト」「ソドムのリンゴ」などの名前がある。毒は果実だけでなく葉や茎にもある。ソラニンという物質で、これはジャガイモの芽や緑色に日焼けした実の部分に含まれていることでよく知られている。花自体は案外、キレイなので目を惹きつけるが、くれぐれも見るだけにしたい。