徘徊老人・まだ生きてます

徘徊老人の小さな旅季行

〔39〕「つゆのはしり」に濡れながら思うことなど

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東八道路のガードフェンスで見つけたツキヌキニンドウ

9月入学というバカげた議論

 ここにきて新型コロナの新規陽性者の確認数が減ってきており、残る5都道県の緊急事態宣言の解除がおこなわれることになった(一時的だと思うが)。これは国民の大半が素直に大型連休中に自粛行動をおこなったこと、各自治体が数多くの公共施設や駐車場を閉鎖して市民の移動を制限したこと、相変わらずPCR検査を限定的におこなったことなどの「成果」によるものだろう。これに加えて、天候が高温・湿潤方向に進んでいるため、ウイルスの活性が低下していることも理由のひとつに考えられる。コロナ禍の終息はまだ数年先だろうが、一時的な収束に至る蓋然性は高まった。

 コロナ禍に対する一連の行動で政府の無能ぶりにはますます磨きがかかり、さすがにのん気な国民も内閣支持から離れつつある。その一方、目立ちたがり屋が多い知事連中への期待感が高まり、彼女・彼らのパフォーマンス行動に拍車がかかっている。国民の為政者への「お任せ度数」は不変なので、そう遠くないうちに国民の不平不満は、今度は知事連中に向かっていくことは必定だろう。

 私が今、いちばん不満に思うことは、検事長の賭けマージャンでも、やっと届いたアホノマスクでもなく、学校の9月入学への移行の動きである。9月入学という考え方はずっと前からあったようだが、さして大きな議論にはならずにいた。ところが今年の4月、現役高校生が自分たちの学校生活が実質的に短くなっていることへの不安や不満から9月入学の署名活動などが始まり、これに呼応するかのように新自由主義から国民社会主義に転じた現知事や元知事らが同調の声を上げ、さらに「やってる感」をとにかく出したい首相や閣僚や官僚が、21年秋から9月入学に移行できるかの本格的な検討を始めているのである。これが実現すれば、今の児童・生徒の学年末は来年の7月まで延長されることになり、新コロで臨時休校となっている分の授業数を取り戻せるというのである。

 夏・秋から新学期が始まるというのは欧米標準であり、日本がこれに倣うと生徒・学生の海外留学に連続性が生まれること、春入学では真冬が受験シーズンとなり例年、大雪や季節性インフルエンザの流行で多くの受験生が障害を受けているが、これが回避できること、初夏の卒業になれば欧米と同時期になるので、国内だけでなく欧米各国から優秀な人材を確保できると経団連は歓迎の意向を表明していることなど、そのメリットを挙げている。

 愚か!というほかはない。楽しい学校生活をできるだけ長く過ごしたいという高校生たちの心情は理解できなくはないが、そんなことはいっときの感傷に過ぎない。勉強の遅れを問題にする向きもあるが、今時、勉強の機会は学校以外にもあるし、むしろ、学校の授業が本来の「学習意欲向上」の妨げになっている場合のほうが多いのではないか。海外留学を本気で考える優秀な生徒であれば、学校などには頼らず自らの努力で克服可能だろう。そのために学校が用意できることは、さしあたり「飛び級制度」であろうし、それ以外には考えられない。確かに、受験期が6月頃であれば大雪や季節性インフルエンザ禍は回避できる。が、その替わりに大雨、台風、大洪水という災難が襲う場合がある。どのみち、日本は自然災害からは逃れられない運命にある。海外から優秀な人材を確保できる企業が日本には今、どれだけあるのか。むしろ、優秀な人材ほど海外に流出しているのではないか。そもそも、仮にそうであるなら、新卒一括採用を止めれば良いだけの話だ。

 さらに言えば、今度のコロナ禍が5月いっぱいで収束する蓋然性は極めてゼロに近い。欧州やアメリカなどではやや落ち着きを示しつつあるが、ブラジル、ロシア、南米各国、サハラ以南のアフリカ、オセアニアなどはこれからが拡大期と言われているし、現に感染者増加の動きは加速しつつある。北半球はこれから夏を迎えるのでウイルスの活性は低下するかもしれないが、南半球ではこれから涼しくなるのでウイルスは活性化すると考えられている。したがって、欧米諸国に見られる一時的な収束観測は完全な終息とはまったく異なり、第2波や第3波は欧米だけでなく日本にも晩秋頃には必ずやってくるだろう。そうなれば再び臨時休校となり、たとえ学年度を7月まで伸ばしたところで足りなくなるかもしれないのだ。

 そもそも歴史上、ウイルスの根絶は不可能であり、今回の「SARS-CoV-2」も同様で、ワクチンの開発とその配布が世界全体に行き渡らない限り、コロナとの共生すら実現できない。現に、ワクチン開発が進んでいる季節性インフルエンザであっても毎年、世界では約65万人が犠牲になっている。

 9月入学のような大改革は平時に熟議し、新たな制度に移行するためには万全の態勢で臨まなければならない。拙速な議論は慎むべきだろうし、今政府がおこなうべきことは、早急で意味のある経済対策、第2波に備えるための医療体制の充実ではないか。

 学校制度でいえば、そもそも、新年度が「春」に始まるのは当たり前のことではないか。台風がやってくる頃に「明けましておめでとうございます」などという馬鹿者はどこにいるのか。

 暦の起源はローマ暦にあるとされる。前8世紀半ばに作成された「ロムルス暦」(ロムルスは伝説上のローマ建国者の名前)は1年を10か月に分け、1月を「マルティウス」(軍神マルスのこと)、2月を美の神に由来する「アプリーリス」、3月を豊穣の神から「マーイウス」、4月は結婚の神から「ユーニウス」と付け、5月からは面倒になったのか「5番目の月」「6番目の月」と続け、「10番目の月」で終わっている。1か月を30か31日にしているのであとの約60日には月名はない。なお、「マルティウス」は英名では「マーチ」になり今の3月である。つまり、気候がやや暖かくなり、そろそろ戦争や農耕を開始する頃が年の初めであり、刈り入れが終わり、寒くなったので休戦状態に入る冬はお休みになるので暦には記さなかったのだ。

 その後、これでは不便だということで、前8世紀後半の「ヌマ暦」(ヌマはローマ2代目の王の名前)で、11番目の月の名を「ヤヌス」、12番目を「フェブルス」と横着をしないで神の名を付けた。

 前2世紀の半ば、暦を大きく改正しなければならない出来事が続いた。イベリア半島での戦争(ルシタニア戦争など)である。今までは執政官は「マルティウス」の月の半ばに就任式がおこなわれていたが、その戦争は冬場にも続いていたので、もう少し早い時期に就任式をおこなって政治的・軍事的体制を整える必要が出てきた。そこで、冬至(12月22日頃)の次の月を1月にすることになった。冬至は昼が一番短い日なので、1月から昼がだんだん長くなると考えると年の始まりに丁度良いと考えたのだろうか。このため11番目の月(ヤヌス)が1月(英名ジャニュアリ)、12番目の月(フェブルス)が2月(フェブラリ)となったのである。このため、たとえば9月(英名セプテンバー)は7番目の月(セプテンベル)である「7=セブン」が、10月(オクトーバー)には「8=タコの八ちゃん)が現在にも残っているのだ。

 以上のように、気象学的には冬至の次の月を1月とするのは当然のようだが、人間の文明の歩みという点から考えると、農作業を始める時期を一年の出発点に置くのはごく自然のことである。春分点から夜より昼が長くなるので、これを農作業を始める時期と考え、春分点(3月20日頃)の次の月から本当の新年が始まると考えるならば、4月を始業の月とするのは至極当然のことなのである。学校の新学期、入学式が4月にあるのはほぼ100%、理にかなっているのである。

 春はフランス語では「プランタン」、イタリア語では「プリマヴェーラ」、スペイン語では「プリマベーラ」であり、これらはいずれも”pri"で始まる。この"pri"は一番目を意味する。春が一年の始まりと考えるのは、ローマ暦の成立過程から考えても当然すぎるほど当然のことなのである。

 4月の初め頃といえば桜が満開になる時期である。近年では温暖化のためか3月下旬に満開になってしまうことがあるが、それはそれで卒業の時期に当たるので大変に御目出度い。卒業・入学という人生の切れ目を桜とともに迎えるというのはハレの日に相応しいというものである。万葉集の頃こそ「花」は梅を指すことが多かったが、平安期以降、現在に至るまで「花」といえば「桜」である。私はナショナリスト愛国者)ではなくパトリオット(愛郷者)なので、郷土の花である桜を「人生の花」とするのは必然的であると考えている。

 これが7月卒業、9月入学になったら、どんな花と結びつくのか?7月の花は、ハイビスカス、サルスベリ、ヒマワリが代表的だ。ハイビスカスは華やか過ぎ。サルスベリは浪人生には可哀そう。ヒマワリでは日和見主義者になりなさいの比喩になる。いずれも卒業花には不適だろう。9月の花はヒガンバナキンモクセイ、コスモスあたりか。ヒガンバナは葬式には良いが入学式にはどうか?キンモクセイはトイレを連想するのでハレの日には不向き。唯一、コスモスは良いかも知れない。コスモスの別名は「秋桜」だからだ。ただし、コスモスを「秋桜」と書くようになったのは1977年からで、それまでは「大春車菊」が日本名だった。コスモスは明治期に渡来した外来種なので標準和名は存在しない。コスモス≒秋桜になったのは、さだまさしが作詞作曲して山口百恵が歌って大ヒットした有名な曲による。それゆえ、秋桜にかなをふれという問題が出たら「コスモス」は不正解で、「あきざくら」が正解となる。こんなことは「芸」の世界ではよくあることで、中原中也が「含羞」と書いたら「がんしゅう」と読んではだめで、「はじらひ」と読まねばならない。ただし、漢字のテストのときは「はじらひ」と書くとバツになる。ともあれ、コスモスを入学式の花とするのは「外国かぶれ」と同義である。

 コロナ禍のために5月の東北旅行は中止、5月20日の興津川の鮎釣り解禁は延期、植物園、自然公園、図書館はそろそろ再開される可能性は高いがまだまだ制限は多そう。それでも、6月1日にはあちこちの川で鮎の友釣りが解禁となるので、楽しみはまたひとつ増える。相変わらず、三浦半島での磯釣りは面白いし、例年よりも家にいる時間が長いので読書の幅が広がったし、徘徊中に道端や野原で春や初夏に咲く花を観察する時間は例年以上に増えた。いつもとは違う春から初夏だったが、数々の新しい発見や体験があったという点では、いつもの年と同じぐらいの充実度はあった。

ホタルブクロ(蛍袋、チョウチンバナ)

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ホタル狩りは遠き日の記憶

 キキョウ科ホタルブクロ属の多年草。日本各地の山林や野原に咲く。日当たりが良い場所を好むが日陰場所でも生育する。種や子株から増えるが、成長が早いので数年後にはこの花だらけになることもある。

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花弁には斑点が多くある

 学名は"Campanula punctata"で、種小名の「プンクタータ」は斑点が多いという意味だ。花弁の表側からでも斑点は確認できるが、釣鐘の内側をのぞくと斑点がたくさん確認できる。この花はホタルが飛び交う時期に咲き、子供たちは捕らえたホタルをこの花に入れて持ち帰ったというところから「蛍袋」と名付けられたとされている。そううまい具合にホタルを捕まえた場所にこの花が咲いているかどうかは不明だが。なお、花色は紫が多いが、白やピンクのものもある。

オオキンケイギク(大金鶏菊)

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初夏の土手を彩る雑草

 キク科ハルシャギク属の多年草。北米原産で、日本には鑑賞目的で明治中期に移入された。公園や河原の土手、高速道路の法面などに植えられ、かなり大型の花で鮮やかな花色とその群生が見事なので一時期は珍重されたが、繁殖力旺盛なことから在来種を駆逐してしまうという理由から、現在では「侵略的外来種ワースト100」に認定されている。

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雑草とて、群生は素敵だ

 花の姿がキバナコスモスに似ているので、観賞用としてこれを庭や道端に植えて大切に育てている人も多い。しかし、現在は栽培、販売、譲渡が禁止されている。この花を育ててみたいと考えている人は、河原の土手などからこっそり根っ子ごと引き抜いて持ち帰っているようだ。多摩川の土手を散策していると実際、そのような行為をおこなっているオバサンやオジイサンを何度か見掛ける。これは違法なのだが、あくまで「キバナコスモス」であると主張すれば「事実の錯誤」として認められるかもしれない。

オトメギキョウ(乙女桔梗、ベルフラワー

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名にし負わばいざこと問わんベルフラワー

 キキョウ科ホタルブクロ(カンパニュラ)属の多年草クロアチア西部の石灰岩質の崖に自生する。草丈は低く10~15cmほどで横に這うように茎が伸び、上向きか横向きの花をたくさんつける。ベルフラワーの別名がある通り、花は釣鐘形をしている。和名が乙女桔梗となっているように花は小さく、形はキキョウに似ている。花色は写真のものが多いが、白色や青に近いもの、紫が強いものなどがある。花言葉に「感謝」というのがあるが、これは花が教会の鐘に似ているかららしい。属名の「カンパニュラ」は以前にも記したように「釣鐘」を意味するので、教会だけでなくお寺の鐘でも良いと思う。

ガウラ(山桃草、白蝶草)

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他人の庭で盗み撮り

 アカバナ科マツヨイグサ属の多年草。流通名のガウラも標準和名のヤマモモソウも、旧属名が"Gaura"=ヤマモモソウだったためにそう呼ばれていた。現在でもガウラの名で流通しているが、この花を好む人(私もその一味)はハクチョウソウの名で呼ぶことが多い。これは写真からも分かる通り、花の形が白い蝶に似ていることによる。

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別の庭で見つけたガウラの満開の姿

 背丈は1m以上にもなるが茎はとても細いのでいつも風にそよいでいる。花の命は3日ほどと短いが長い穂にたくさんの花を付けるため、全体としての花期は案外長い。今の時期は南風が強いときが多いので、白い蝶たちはいつも飛んでいるように見えるが、彼女らは茎に囚われているため、大空を舞うことなく、ほどなくして萎れてしまう。「白蝶は哀しからずや」である。

 花色は白がほとんどだが、改良園芸種としてピンクや赤、さらにその複色のものが出回っている。それらも美しいが、白蝶草の名にあった白色がもっとも素敵だと思う。

ヒペリカム・カリキナム(西洋金糸梅、ビヨウヤナギ)

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ビヨウヤナギの名前で知られる

 オトギリソウ科オトギリソウ属の半常緑性低木。ビヨウヤナギ(美容柳)の名前で流通しているが、厳密には種が異なる。本種はビヨウヤナギと同様にキンシバイの仲間で、野生化して樹高が低くなり、花は大きく咲き、雄蕊が長く伸び(キンシバイの雄蕊はカールする)て見応えがあるため、近年ではあちらこちらで見掛けるようになった。枝は横に伸びて地面を覆うように生長するためグランドカバーとしても利用されている。写真はルミエール府中(府中市立図書館)の建物の周囲に植えられているもので、開花が始まったところ。枝先には多数のつぼみを有しているので日いちにちごとに花数は増えている。これには蜂も大喜びの様子だった。

カリブラコア

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ペチュニアの改良小型品種

 ナス科カリブラコア属の一年草(原産地では多年草)。夏の花として定番であるペチュニアの近縁種で、かつてはペチュニア属に含まれていたが現在は独立した。南米原産で、日本では「サントリーフラワーズ」が数種類を掛け合わせて1980年代に園芸種(ミリオンベルシリーズ)として発売した。ペチュニアより小型で花数も多いため人気種となった。初めは単色だったが改良が進み、現在では数えきれないほどの花色のものが発売されている。また、ペチュニアとの掛け合わせもおこなわれているために花の大きなものも出回っている。さらに、八重咲き品種も増え、現在ではペチュニアの人気を凌駕しているようだ。なお、写真の花は「ホーリーカウ」という商品名で出回っているもので、国分寺市の某所の家の前に咲いていたものを盗撮した。 

ムギナデシコ(麦撫子、ムギセンノウ、アグロステンマ

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風にそよぐナデシコ

 ナデシコ科ムギセンノウ属の一年草。地中海沿岸が原産地で、日本には明治期に移入された。属名の"Agrostemma"のアグロは畑、ステンマは王冠をあらわす。花は大きく、しかし茎は非常に細いので、少しの風でもゆらゆらとなびき写真撮影に苦労する花だ。この頼りないが美しい王冠は、現地では畑作に邪魔な雑草として扱われている。

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お願いだからじっとしていてくださいね

 花色は写真の紫系がほとんどだが、ピンク系や白系もある。今回、白系も何度か見掛けたのだが、いずれも風が強い日だったので撮影は断念せざるを得なかった。標準和名はムギセンノウ(麦仙翁)だが、園芸の世界では「アグロステンマ」や「ムギナデシコ」の名前で流通している。欧州では雑草だが日本では立派な園芸種。が、実際にはかなり野生化している。

アップルゼラニウム(スィート・センテッド)

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センテッド・ゼラニウムの仲間

 フウロソウ科ペラルゴニウム(テンジクアオイ)属の多年草。数多いゼラニウムの中では「センテッド・ゼラニウム(ハーブ・ゼラニウム)」の仲間として分類されている。葉の香りは「ミント」「ストロベリー」「レモン」「ローズ」などの種類があるが、本種は仄かにリンゴの香りがするために「アップル」の名が付けられている。

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仄かにリンゴの香り

 縦長に咲く花はかなり小さく、1から2cmほどしかない。ゼラニウムといえば近年では絢爛豪華な花弁を競っているが、本種は写真の通り白地に僅かに紫が入るといった奥ゆかしい色彩であり花数も少ない。花だけでなく葉っぱも小さく、しかも匍匐性があるので管理はしやすい。なお、最近ではリンゴの香りがしない改良種の「アップル・ゼラニウム」も出回っているようだ。こうなると、なんのための改良?なのか不明だ。

シモツケ(下野)

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名前はその花が最初に見つかった場所に由来する

 バラ科シモツケ属の落葉低木。学名は"Spiraea japonica"。属名はギリシャ語で螺旋を意味する。これは果実の形に由来する。種小名に「日本の」とあるように日本が原産地である。最初に発見されたのが下野(現在の栃木県)だったことから「シモツケ」と命名されたとされている。

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こちらは赤色が強いタイプ

 雄蕊が長く毛羽立っているように見えるが、小さな花の形から想像できるように、以前に紹介した「ユキヤナギ」や「コデマリ」と同じ仲間である。小さな花がまとまって咲くものを「複散房形花序」というが、ユキヤナギコデマリのように形は整っておらず、大小に違いだけでなく不整形のものも多い。

 花色は白、ピンク、赤で、今回は赤色のものが多く見つかった。東八道路の歩道の植え込みには赤色のものだけが延々と続いて咲いていた。一方、野川公園内ではピンク系が多かった。個人的には白系が好みなのだが、今季はまだ発見に至っていない(ホームセンターや園芸店では見掛けているが)。6月いっぱいまで咲き続けるので、残りあと一か月、白系との出会いが楽しみだ。

ハゴロモジャスミン(羽衣ジャスミン

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香りは存在に先立つ

 モクセイ科ソケイ属の半常緑つる性の花木。中国雲南省原産。学名は"Jasminum polyanthum"で、いわゆるジャスミン茉莉花)の仲間。種小名からわかるとおり花数はとても多く、満開時には全体が真っ白になる。香り(匂い)はかなりきつく、この花が咲いているときは香りが風に運ばれて届いてくるので、かなり遠くからでもその存在が分かるほど。秋のキンモクセイといい勝負である。比較的新しい存在なのだが、見た目の美しさと独特の香りから一気に広まり、つる性ということもあって塀やフェンスに絡ませて育てている姿をよく見掛けるようになった。通り道にあるのは歓迎できるが、近隣にあると少しだけ迷惑に思う人もいるかも。

ヒルザキツキミソウ(昼咲月見草)

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初夏には欠かせない雑草

 アカバナ科マツヨイグサ属の多年草。メキシコ原産で岩場の多い乾燥地帯に自生する。日本には江戸時代に観賞用として移入された。マツヨイグサ(待宵草)の多くはその名の通り、昼間は花を閉じていて夕方に咲くのだが、本種は日中に開花するのでヒルザキツキミソウの名がついた。近年は空気が一時期に比べると澄んできているので昼間でも月が見られるのだが。花色は写真のピンクのものがほとんどだが、中には白、黄、オレンジもあるらしい。夜咲きのマツヨイグサは黄色の花が多いが、いちばん多く見られる昼咲きタイプの白花は私の場合、未発見である。

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ツキミソウにはアリンコがよく似合う

 近縁種のアカバナユウゲショウの白花タイプは今年になって開花場所を発見したが、本種では未発見なので、これが6月の花探しの課題になっている。写真のようにピンクが薄いものが多くあるし、本種のほとんどは野生化しているので発見は近いかも。 

ニオイバンマツリ(匂蕃茉莉)

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香りと色変わりが楽しめる

 ナス科バンマツリ(ブルンフェルシア)属の熱帯性常緑低木。ブラジル原産で特に改良園芸品種はない。和名から分かるとおり、かなり香りが強く(ハゴロモジャスミンほどではない)、南米原産で、香りはジャスミン茉莉花)に似ているという特徴を有する。つまり、匂い+外国産(蕃)+ジャスミンのよう(茉莉)という具合に命名されたらしい。

 花色にも特徴があり、咲き始めは濃い紫で、次第に色が褪せて薄紫になり、最後には白色になって枯れるという変化を遂げる。アジサイのように七変化とまではいかないが、香りだけではなく色彩の変化も楽しめるという具合の良い植物だ。

 が、万事良好というわけにはいかず、樹木全体に毒性(アルカロイド)を含み、仮にこの植物の果実を犬や猫、幼児や私のような食いしん坊の大人が食べてしまうと激しい痙攣を起こすことがある。以前にも述べたが、観賞用植物の多くが毒性を有していることは案外、知られていない。「食べるな危険!」

ドクダミ(蕺菜(しゅうさい)、毒溜め、十薬)

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八重咲きだが匂いは同じ

 ドクダミドクダミ属の多年草で一属一種。東アジアや東南アジアに広く分布し、薬草や食菜に用いられている。湿り気のある半日蔭や日陰に自生し、地下の根(ランナー)が広がって増えていくので退治が困難な雑草だ。しかし、今の時期は真っ白な花を咲かせ、これがなかなか美しい。ただし、葉や茎に独特の臭気(良い香りという人も稀にいる)があるため、かなりの嫌われ者なのでこの花をじっくりと眺める人はあまりいない。

 ドクダミといえば「ドクダミ茶」が有名だ。あの独特の臭い(匂い)は乾燥させたり煮たりすると消えるため、今度はドクダミがもつ効能が浮かび上がってくる。江戸時代の儒学者である貝原益軒が「十種ノ薬ノ能アリ」と記しているように、傷口の止血・再生、風邪や便秘の治療、高血圧の予防、冷え性対策だけでなく、鼻に詰めると蓄膿症にも効くとされている。殺菌効果だけでなくウイルス対策にもなると考えられているので、新型コロナ感染予防の効果もあるかもしれない。私が今のところ「SARS-CoV-2」に侵されていないのは、もしかしたらドクダミ好きが理由のひとつかもしれない。

 ところで、写真のドクダミの花は通常のものとは異なり「八重咲き」タイプだ。ただし、通常のドクダミも写真の八重咲のものも、白いのは花弁ではなく総苞片(そうほうへん=蕾を包む葉っぱが変化したもの)である。通常のものは苞が4枚なのに対し、八重咲きタイプは苞が多数あり、蕾が生長するにしたがって順々に開いていく。写真のものは蕾の頭頂部がまだ白い苞に包まれている状態で、これが完全に開き切ると、通常タイプと同様に緑色の花部が姿を見せる。

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苞が完全に開いた状態の花

 通常タイプのドクダミの苗を購入する人はいないが、八重咲きタイプのものは貴重なので園芸店やネット通販(たとえば楽天で一苗750円+送料)で取り扱われている。写真は近所にある団地の植え込みで見つけたもので、無数にあるドクダミの花の中、ほんの数株だけが八重咲きだった。八重咲きになる理由は不明のようで、突然変異といっても先祖帰りしてしまうものも多いそうなので、来年の今頃は同所で八重咲きのドクダミは見つけられないかもしれない。が、来年の今頃まで生きて再び八重咲きドクダミと出逢いたいという希望が生まれた。ドクダミは、精神の薬にもなる益草である。臭い(匂い)は少し気になるが。 

サルビア・ガラニチカ(メドーセージ、ガラニチカセージ)

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かなり大型になるサルビア

 シソ科アキギリ属の多年草。南米原産で、パラグアイに住むグアラン族の名に由来して「ガラニチカ」と名付けられた。日本では「メドーセージ」の名前で流通しているが、これは「サルビア・プラテンシス」のことで、ガラニチカをメドーセージと呼ぶのは日本だけのことらしい。ガラニチカとプラテンシスは花色や長い花穂など似ている点が多いので流通業者が誤って呼んでしまったのがその理由らしいが本当のところは不明とのこと。

 本種は草丈が1.5mほどにもなる大型のサルビアで、一般種であるサルビア・スプレンデンス(赤い花)やサルビア・ファリナセア(ブルーサルビア)など小型のものとは姿はかなり異なる。しかし花が唇形である点は共通なので、サルビアの花をよく知っている人は同定可能だ。

 「サルビアの花」といえば、1969年に早川義夫が発表し、72年に「もとまろ」がカバーして大ヒットした曲が有名だ。今はジジババになり果ててしまった人々が若かったころにはよく口ずさんでいた。歌詞には「サルビアの紅い花しきつめて」とあるので、これは「サルビア・スプレンデンス」の唇形花のことだろう。「サルビア・ミクロフィラ」か「サルビア・エレガンス」かも、などという議論は巻き起こらなかった。当時、サルビアといえば大概はスプレンデンスしか知らなかったし、大半の人は園芸花には興味はなかった。 

ブラシノキ(カリステモン、ハナマキ、ボトルブラッシュ)

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見たまんまの名前

 フトモモ科ブラシノキ(カリステモン)属の常緑性高木。オーストラリア原産で改良園芸品種が多くある。英名は”ボトルブラッシュ”で、まさに見たまんまの名前が付いている。花期はさほど長くないのでこの存在を知らない人は多いようだが、一度でもこの花の姿を目にしたらその存在は忘れないし、名前も忘れようもない。

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これだけブラシが揃えばパイプ掃除には困らない

 独特な花形から改良が進んでいるようで、園芸品種の中には白花、桃花(写真)、薄紫花のものもある。ブラシノキであればやはりこげ茶色の花が欲しいところだが、今のところ見掛けたことはない。重そうな花をたくさんつけるので、風が強い時には倒木の危険があり、その対策として支柱を立てているものをよく目にする。賢明な措置だろう。 

ハクチョウゲ(白丁花、六月花)

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生垣によく用いられる

 アカネ科ハクチョウゲ属の常緑低木。学名は"Serissa japonica"であるが、原産地は東南アジアで、日本には江戸時代に移入され園芸種として改良がおこなわれた。中国では「六月花」、英名は「june snow」とあるように初夏に小さな白い花を多数付ける。樹高は1m前後で、高くても1.5mほどなので生垣によく利用されている。

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小さな花はかなり美しい

 写真のように白花で薄い紫のラインが入る。一重咲きが基本形だが、改良園芸種が多く、花が薄いピンクのもの、二重咲き、八重咲き、葉に白い縁が入る(斑入り)ものなどがある。今の時期の生垣といえばツツジ、サツキ、アベリアが一般的だが、満開になった白丁花は、小さな白鳥が群なす如くに美しい。

ヤグルマギク矢車菊コーンフラワー

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開花期間が長い花

 キク科ヤグルマギク属の一年草。ヨーロッパ原産で、日本には明治の中期に移入された。学名は"Centaurea cyanus"で、"centaurea"はケンタウルスが語源。ケンタウルスがこの花を薬草に使用していたという伝説に由来する。また、ツタンカーメンの棺の上にはこの花とハス、オリーブが置かれていた。ヤグルマギクは人類最古の栽培植物のひとつだと言われている。"cyanus"は「浅葱色」という意味。小麦畑によく咲いていたことから「コーンフラワー」の名があるが、最高級のサファイアを「コーンフラワーブルー」と呼ぶようにこの花の「浅葱色」は自然界の中でもっとも美しいと考えられてきた。ドイツの国花である。

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花とミツバチ

 和名のヤグルマギクはそうした花色とは関係なく、花びらの形が矢羽の風車に似ているからである。もう少し良い名前を付けてあげればもっと人気の出る花だと思うのだが。花色は青が多いが、紫、ピンク、白、黄などもある。写真は一重咲きだが八重咲き種もある。草丈は60から70cmほどだが、園芸用に改良された矮性種は30cmほどとコンパクトに収まる。

 なお、生命力が強いので、逸出して野生化したものも多く、写真も畑の近くに群生していたものを撮影した。ミツバチは美しい色に誘われてやってきたのではなく、ただ蜜を集めるためだ。ミツバチにはこの花はどんな色に見えているのだろうか?

カルミアアメリシャクナゲ

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花の形が印象的

 ツツジ科ハナガサシャクナゲカルミア)属の常緑性小高木。北アメリカ東部原産で、日本には1960年代に移入された比較的新しい品種である。属名に「シャクナゲ」の名前があるが、シャクナゲの仲間ではない。カルミアの名前は植物学者のカルムに由来する。花色は白、赤、ピンク、紫があるが、どれも相当に美しい。

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こう見えてもツツジの仲間

 写真から分かるとおり、蕾は金平糖のような形をしている。色は花弁が開いたときよりもずっと濃いものが多いので、開花時よりも蕾時を好む人が多いらしい。雄蕊の状態にも特徴があり、通常時に雄蕊は花弁のくぼみの中に収まっていて、昆虫が飛んできたときにその刺激で雄蕊はくぼみから飛び出して花粉をまき散らす。なお、葉っぱにはグラヤノトキシンが含まれているので、ペットなどが葉っぱを口にすると嘔吐や神経麻痺の症状を起こす。 

マツバギク(松葉菊)

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グランドカバーに最適

 ハマミズキ科マツバギク属の多年草マツバギクの名で出回っているが、狭義のマツバギクはランプサス属を表すが、交雑が進んでいるので広義にはデロスペルマ属も含まれる。花の姿かたちも個体ごとに変化があるので品種名は表記されず、商品名が示されることが多い。原産地は南アフリカで日本には明治初期に移入された。

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かなり強烈な花色

 花色は紫、赤、白、ピンク、黄、オレンジのほか複色もある。写真から分かるとおり、いずれも強烈な花色をしている。グランドカバーによく用いられ、明るい日差しを好み、満開時には花の絨毯ができる。高温や乾燥にも強いために逸出して野生化しているものも多く、道端や土手、道路の法面などに群生している姿をよく見掛ける。

 

ニゲラ(クロタネソウ)

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糸状の葉と苞が特徴的

 キンポウゲ科クロタネソウ属の一年草。地中海沿岸から西アジア原産。日本には江戸末期に移入された。ニゲラはラテン語のニガー(黒)が語源になっており、これは果実が黒いことに由来する。和名はそのままクロタネソウになっている。なお、種はバニラの香りがするが、アルカロイドを含んでいるので薬草として利用されることもある。

 花は白、ピンク、青、紫などがあるが、花びらに見えるのはガクであり、実際の花弁は中心部に隠れていて糸状の苞が包み込んでいる。葉っぱも針状なので、花に糸くずが絡んでいるように見える。英名のひとつには"love in a mist"というのがある。糸くずが絡んでいるという表現より、霧の中にあるというほうがこの花の特徴をよりよく把握しているのかもしれない。

ジャーマンアイリスドイツアヤメ、レインボーフラワー)

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アイリスの仲間ではもっとも豪華

 アヤメ科アヤメ属の球根植物。ヨーロッパで野生化して交雑が進んでいたゲルマニカ種を元に、さらに園芸種として改良された。交配育成が盛んなので花の色彩や形態が多数あり、これが「レインボーフラワー」といわれる所以である。学名は"Iris germanica Hybrid"とあり、交配育成種であることが明記されている。

 花色は、白、赤、ピンク、オレンジ、青、紫、黄などのほか複色のものもたくさんある。草丈は100cmほどになる大型種で見栄えが良い。日照と乾燥を好むので、半日蔭の湿潤な場所では枯れたり腐ったりする。歩道や公園などで育成されているのをよく見掛けるが、素晴らしく見えるものと見すぼらしいものとがある。これは花の責任ではなく、環境の問題である。なお、根茎(球根)は横に伸びて生長するので、株数はどんどんと増えていく。 

ダッチアイリス(オランダアヤメ)

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控えめなアイリス。色は豊富

 アヤメ科アヤメ属の球根植物。スパニッシュアイリスを元にいろいろな品種を掛け合わせてつくられた改良園芸品種。学名は"Iris×holandica"である。内側の花片が立ち上がって咲くのが特徴的。ジャーマンアイリスより小型(丈は50~60cm)で、水はけの良い日向に球根を植えておけば毎年、きれいに咲いてくれる。花色は白、黄、青、紫のほか写真のような白・黄や青・黄などの複色のものもある。

バーベナ(美女桜)

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種類も色も豊富なバーベナ

 クマツヅラ科クマツヅラ(バーベナ)属の一年草または多年草南北アメリカ原産で約250もの品種がある。姿かたちはいろいろで、毎年、種まきが必要な一年草もあれば、植えっぱなし可能は多年草(これをとくに宿根バーベナと呼ぶ)もある。年々、改良が進んでおり、品種名というより商品名で販売されているものが多い。写真は「ピンク・パフェ」という商品名で流通している宿根バーベナだ。「花手毬」「タピアン(またはテネラ)」という商品の人気が高い。草丈は20~150cmと、匍匐性の強いものから高性種まである。強い日差しを好む花なので、日陰に置くと花付きは悪く、茎はひょろひょろ(これを徒長という)になってしまう。 

ジギタリス(フォックスグローブ、狐の手袋)

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薬草、毒草としても有名

 オオバコ科ジギタリス(キツネノテブクロ)属の二年草または多年草。西ヨーロッパ、南ヨーロッパ北アフリカ原産。属名の"Digitals"はラテン語の”digitus"(指)に由来する。デジタル、アナログのデジタルも同じ語源。全草にジゴキシンという毒があり、とくに循環器系や神経系に大きなダメージを与える。かつては薬草として利用され、強心剤や利尿剤に用いられていた。このジギタリスの成分は現在では化学合成されている。

 草丈は180cmにもなるが、50cm程度の矮性性の改良種も出回っている。花色は白、ピンク、オレンジ、黄、紫、茶、複色などバリエーションは豊富。特徴的な花の形、豊富な色合いを有するので、食べさえしなければなかなか見ごたえのある草花だ。その「危険性」から、実際に目にする機会はあまり多くない。ごく稀に野生化したものを見かけるが、絶対に「見るだけ」にしたい。

ツキヌキニンドウ(突抜忍冬、トランペット・ハニーサックル、ノニセラ)

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花が特徴的なつる性植物

 スイカズラスイカズラ属の常緑つる性花木。北アメリカ東部および南部原産で、日本には明治の中期に移入された。きわめて特徴のある花は甘い香りがする。アーチやフェンスの脇に植えるとよく絡んで成長する。つるは長いものでは3mほどにも伸びる。

 対生する枝先の葉が基部が合着してあたかも葉っぱを突き抜けているように見えるために突き抜き、スイカズラの仲間だが冬でも落葉しないので忍冬、あわせて突抜忍冬と説明的な名前を有する。写真は東八道路の府中自動車試験場(多磨霊園の北側)付近にあって自動車道と歩道とを分離するためのガードレールに絡みついて咲いていたもの。結構な距離に植えてあるので試験場に更新手続きで、霊園にお参りや散策で訪れる際には、この変わった名前と風変りな花をもつ植物にも触れていただきたい。 

ムラサキツユクサ(紫露草)

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朝に咲き昼には萎れる

 ツユクサムラサキツユクサ(トラデスカンチア)属の多年草。北アメリカ原産で日本には明治時代に移入された。原種は少なく、一般に見られるのは交配種か交雑種で、「アンダーソニアナ」とも呼ばれるオオムラサキツユクサである可能性が高い。花色は写真の青か紫が多いが、ピンク、白、複色などもあり、葉っぱの色も黄色味を帯びたものもある。挿し木、株分け、種で簡単に増えるので梅雨期にはあちらこちらで目にする機会は多い。野生化したものも至るところで見られる。朝方に開花するが、日差しがあるときは昼には花を閉じる。が、曇天や雨天時は夕方まで開いている。萎れているように見えても、翌朝にはまた元気に開花する。花芽も次々に付けるので、株全体の開花期はかなり長い。

トキワツユクサ常磐露草)

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小さな白花が印象的

 ツユクサムラサキツユクサ(トラデスカンチア)属の常緑多年草南アメリカ原産で日本には鑑賞用目的で昭和初期に移入されたが、現在ではほとんどが野生化したために帰化植物として扱われている。やや湿った日陰に群生している。

 常磐(トキワ)の名が冠されているのは、この植物が常緑性だからである。常磐は「常に変わらない岩」を意味し、転じて「永久に変わらないもの」を指すことがあり、そのひとつに「常に緑色を保つ=常緑性」というのがある。常磐を「じょうばん」と読むときには地域名を表し、これは「常陸(ひたち)」と「磐城(いわき)」の総称である。 

 

キキョウソウ(桔梗草)

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ぺんぺん草が枯れるとこの花の出番

 キキョウ科キキョウソウ属の一年草。北米原産の帰化植物で、いわゆる雑草扱いされているが、写真のとおり花は小さいがかなり美しい。英名は「Common Venus'looking-glass」で、「ビーナスの鏡」という洒落た名前が付けられている。

 開花は5月中旬頃から始まって今が盛りとなっているが、実は4月頃から花を付けている。しかしこれは閉鎖花といって種を作るだけが目的のため、花は開かずにまず自家受粉して果実を先に作って子孫を確実に残しておく。今頃は開放花を咲かせ、昆虫などに花粉を運ばせて遺伝子交換をおこなう。可愛らしい花だが、したたかな戦略を有する植物である。高さは30から50センチほどにひょろひょろと頼りなげに生長し、初夏の南風にいつも体を揺らしているが、こうした見掛けが儚そうなものほど、実は生命力が豊かだったりする。私の場合は頼りなさそうに見えるが、実は、実際には見た目以上に頼りない。

ヒメヒオウギ(姫檜扇)

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フリージアに似ていないフリージアの仲間

 アヤメ科フリージア属の球根植物。南アフリカ原産で日本には大正時代に観賞用として移入された。現在では多くが逸出して野生化している。これは、こぼれ種でもよく増えるからでもある。茎はかなり細いが、それに比して花径はやや大きめで2.5センチほどある。6枚の花弁のうち、下?の3枚の内側に濃い赤色の模様が入るのが特徴的だ。この模様がある側が「下」と言われているので、撮影の際はこちらが画面の下側になるように注意を払うことになる。

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個人的には白花を好む

 ヒメヒオウギの名はヒオウギに似ているがそれよりも小型であるところから名付けられたが、本種とヒオウギは別種で、こちらはフリージア属なのに対し、ヒオウギヒオウギ(ベラムカンダ)属である。動植物は見た目の類似性で分類するか血縁関係で分類するかの双方がある。かつては見た目が中心だったので、ヒメヒオウギヒオウギと同属とされていたが、遺伝子の違いから別属になり、見た目が異なる(類似点もあるが)フリージア属に入れられた。これは人間も同じで、私や私の知人などは見た目や行動からは「サル」に近いが、遺伝子の関係か(この点は隠匿されているので不明だが)一応、人間とされている。もっとも、どう分類されようが私は私だし、友人はぎりぎり人間の範疇に入るとされている。 

 

ハイアオイ(這葵)

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花と小さな虫

 アオイ科ゼニアオイ属の多年草。ここでは一応、ハイアオイの可能性が高いのでこの名前を挙げておいたが、「ナガエアオイ」「ウサギアオイ」というよく似たものがあり、図鑑などで調べても同定されておらず、調べるほどに研究者の間でも混乱していることがよく分かる。ヨーロッパ原産の帰化植物であること、ゼニアオイ属であることは間違いないようであるが、交雑が進んでいる可能性もあり、しかも大多数の人はこの植物には興味を持たないので、このまま混乱が続くような気がする。本項で挙げた花の中で唯一、私が名前を知らなかったものなので興味を抱いたのだが、いまのところ、これ以上に調べる手立てはない。

ワルナスビ(悪茄子)

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意外に目につく雑草

 ナス科ナス属の多年草アメリカ南東部原産で現在ではほぼ世界中に帰化している雑草。日本では植物学者の牧野富太郎が発見、命名した。繁殖力が旺盛で駆除が難しいこと、葉や茎に細かなトゲがあること、ミニトマトに似た果実をつけるが有毒であることなど、ワルの名に恥じない存在だ。外国でも「悪魔のトマト」「ソドムのリンゴ」などの名前がある。毒は果実だけでなく葉や茎にもある。ソラニンという物質で、これはジャガイモの芽や緑色に日焼けした実の部分に含まれていることでよく知られている。花自体は案外、キレイなので目を惹きつけるが、くれぐれも見るだけにしたい。

 

〔38〕季節は初夏へ~アカシアの雨はまだ降らない

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ニセアカシアの花

アカシアの雨ではまだ死ねない

 「願はくは アカシアの雨にて 夏死なん 皐月の末の 望月のころ」

 もちろん、これは贋作であり、元歌は西行の誰もが知る作品である。

 西行芭蕉福永武彦中島みゆき、カント。この5人が私の心の師である。花を巡る季節になると、私は『山家集』とカメラをバックに入れて彷徨する。車で移動中は中島みゆきの曲が流れ『誕生』や『ファイト!』に涙することもある。今はコロナ禍で残念ながら遠出は自粛中なのだが、緊急事態宣言が解除された暁には山野河海に旅立つ予定だ。当然、『おくのほそ道』と『実践理性批判』は必須の携行品となり、眠られぬ夜のために『草の花』や『忘却の河』も忘れない。

 ところで、ニセアカシア(贋アカシア、ハリエンジュ)である。一定年齢以上の人は「アカシア」と聞くとすぐに西田佐知子を思い、『アカシアの雨がやむとき』の曲を心の中で、もしくは実際に歌い始める。大の大人が「犬の唾液」のように反応するのは、西田の気だるそうな歌い方と、「アカシアの雨にうたれて このまま死んでしまいたい」と始まるその驚愕な歌詞にあった。発表されたのは1960年、安保闘争の年だった。闘争の高揚感に続く敗北感と西田の歌い方、戦慄の歌詞に己が人生の悲哀・悲嘆・憂愁を重ね合わせたのだろうか。ガキンチョでかつサルだった私は西田の歌を聴いても、その時にはまだ何も感じなかった(唯一、この歌手は下手くそだと思った)が、この曲がスタンダードナンバーとなって遍満するに至り、それと同調するように私がサルからヒトへと化生する過程でこの歌の真諦を解するまでになり、己の成長を自覚した。

 美空ひばり青江三奈ちあきなおみ小林旭石川さゆり美輪明宏天童よしみ藤圭子研ナオコ山崎ハコ氷川きよしなど錚々たるメンバーがこの歌をカバーしているが、歌は下手だったけれど西田の声が有した独特の凄みは、誰も遥かに及んではいない(藤圭子がやや近いかも)。

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ニセアカシアは大木に育つ

 『アカシアの雨がやむとき』の「アカシア」は「ニセアカシア」である。本当の「アカシア」は広義には「ミモザアカシア」を指し、「フサアカシア」(狭義のミモザはこちらのみ)や「ギンヨウアカシア」(園芸種としてはこちらが人気)が代表的だ。それらは3、4月ごろ、枝先に小さな黄色い房玉のような花を多数つける。フサアカシアはかなりの大木になるため、現在ではやや小ぶりで、銀色の葉っぱを有し花色がより派手なギンヨウアカシアに人気が集まる。街で見かける大半のアカシアはこちらのほうである。

 ニセアカシア(標準和名はハリエンジュ)はマメ科ハリエンジュ属の落葉性高木(アカシアはマメ科アカシア属)で、写真のような花を5、6月に咲かせる。学名は"Robinia pseudoacacia"である。種小名にある"pseudo"は「~に似た」という意味なので、”pseudoacacia"で「アカシアに似た」ということになり、「ニセアカシア」は種小名を直訳したものになる。北アメリカ原産で日本には明治初期(1873年説が有力)に入ってきた。近縁種の「エンジュ(槐)」に似ているが小枝に棘があるために「針槐(ハリエンジュ)」と名付けられた。が、「アカシア」の名のほうが通りが良いためにこの名で広まった。

 しかし、明治末期にオーストラリアから移入された「ミモザアカシア」が本当の「アカシア」であると分類学上で定義されることになったため、ハリエンジュのほうは「アカシアに似た」ものに分類されてしまった。それゆえ、「ニセアカシア(贋アカシア)」と呼ばざるを得なくなったのだ。

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ランチパック・はちみつ&マーガリンの「アカシア」の絵

 「蜂蜜」といえば断然、アカシアから採集されるものが有名で、市場占有率も高い。しかし、この「アカシアはちみつ」はアカシアからではなくニセアカシアから採集される。ミツバチは、ミモザアカシアではなくニセアカシアの花の甘い香りを好むのである。しかし、「ニセアカシア蜂蜜」とは誰も呼ばない。

 写真は山崎製パンのヒット商品である「ランチパックシリーズ」の『はちみつ&マーガリン」のパッケージを撮影したものだ。絵にはきちんと「ニセアカシア」の蝶形の花が描かれているが、つい最近までは「アカシア」の黄色い房玉の花がイラストにあった。「ミモザアカシアからは蜂蜜は採集できない」ということをある養蜂家がヤマザキに指摘したところ、ヤマザキ側は潔く誤りを認め「ニセアカシアの花」の絵柄に訂正したのである。私がランチパックシリーズを購入したのは今回が初めてだ。もちろん、ヤマザキの行為に感服したわけではなく、上の写真を撮るためというのがその理由だ。ただ、ヤマザキの「ロイヤルブレッド」シリーズは安価な食パンの中では一番のお気に入りなので、敬意を表して同時に購入した。

 秋田県鹿角郡小坂町はかつて小坂鉱山の煙害に苦しんでいた。銀や銅の精錬のために工場は多くの煙を排出した。それによって山や町から緑は失われてしまった。緑化対策と樹木を失ったことによる山の崩壊を防ぐ目的などのため数多くのアカシアを植林した。アカシアは成長し、また繁殖力が旺盛なため数を増し、小坂町は緑を取り戻した。毎年、6月上旬にアカシアは無数の花を咲かせて人々の心を和ませた。そればかりではなく、アカシアから採集される蜂蜜は小坂町の特産品となり、品質も「日本一」と評されるまでになった。今年は残念ながらコロナ禍のために『第37回アカシアまつり」は中止が決定された。それでもニセアカシアの数が約300万本あるといわれるこの町はきっと、アカシアの花の甘い芳香に包まれることだろう。蜂蜜の町、小坂町のアカシアは「ニセアカシア」ではあるが、人々はこの恵みを与えてくれる木を「アカシア」と呼ぶ。それで、いいのだ。

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花弁はまとまったまま雨のように降る

 ニセアカシアの蝶形の花は、花弁があまり分離せずに多くはまとまったままで散る。そのため花びらは風に舞わずに、散るというよりボタボタと落ちるのである。この情景を「アカシアの雨」と言う。とはいえ、花弁自体は小さく軽いので、「アカシアの雨に打たれて」も「死んでしま」うことはない。おそらく、豆腐の角に頭をぶつけて死ぬよりも困難なことだろう。

 作詞した水木かおる(男性です)は東京都出身なので、ニセアカシアの花が5月初旬には咲き、中下旬には散り(落ち)始めるのを見ているはずだ。彼は『アカシアの雨がやむとき』以外にも『エリカの花散るとき』(西田)、『くちなしの花』(渡哲也)、『夾竹桃』(牧村三枝子)、『二輪草』『君影草すずらん~』(川中美幸)といった花にまつわる詞を多く作っているので、花についての興味関心は人一倍強かっただろう。当然、『アカシアの雨がやむとき』のアカシアは「ニセアカシア」であり、ニセアカシアの雨が花の散りざまであることも知っていたはずだ。ただし、5月の下旬ともなると東京では「梅雨の走り」があるため、この「アカシアの雨」は花散らしの雨も含意しているかもしれない。

 ところで西行の歌である。

 「願わくは 花のしたにて 春死なん そのきさらぎの 望月のころ」(『山家集』上 春 77)

 これは西行の「白鳥の歌」というわけではけっしてない。『山家集』は彼が50歳ころから編集を始めており、この歌は上巻の77番(底本は『陽明文庫本』全1552首)に入っている。編集作業は何度も繰り返しておこなわれているので、77番にあるからといって50歳になる前に作られたとは限らないが、晩年の作品ではないことは確かなようだ。有能な「北面の武士」であった西行(本名は佐藤義清)は23歳のときに妻子を捨てて出家し、生涯をかけて「和歌即真言」を目指した。釈迦は「きさらぎの望月のころ」(涅槃会では2月15日)に入滅しており、西行は自らも釈迦と同じころに満開の桜の下で死にたいとの願いを歌に託した。実際、彼は建久元年(1190年)の2月16日(新暦では3月31日)の満月の日に死去した(享年73)。この偶然(西行にとっては必然)は京の人々を驚愕させ、藤原俊成藤原定家慈円など当代最高峰の歌人はそれぞれ、この作品に対する返歌を創作している。

 「願い置きし 花の下にて 終りけり 蓮(はちす)の上も たがはざるらむ」(藤原俊成

 さすれば、仏門の対極にいるこの私は、いつ死ねば良いのだろうか。磯釣り場で死ねば本望だろうが、そうなると同行者に迷惑が掛かるし、ましてや死体が磯から海に転落すると、その捜索に近くの漁船も駆り出されることになり多大な損害を与えてしまう。それなら西行に倣って花の傍らで死ねば良いかもしれない。「四季咲きゼラニウム」か「ベゴニア・センパフローレンス(四季咲きベゴニア)」が横にあれば、ましてや日当たりの良い場所にあれば、これらの花は一年中咲いているので365日、いつ死んでも良いことになる。

 いや、せっかく『アカシアの雨がやむとき』を取り上げたのであるから、やはり、ニセ「アカシアの雨に打たれて」そ「のまま死んでしま」うのが良いだろう。何しろ、写真に挙げたニセアカシアの花は、多磨霊園の敷地内に咲いているものなので。近くには火葬場もあるし、誠に具合が良い。

ユウゲショウ (夕化粧、アカバナユウゲショウ

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大半がアカバナユウゲショウ

 アカバナ科マツヨイグサ属の多年草南アメリカ原産で、日本には明治時代に観賞用として移入された。現在は大半が野生化し、野原にも道端にもよく咲いている。名前はユウゲショウだが、実際には日当たりの良い日中に開花し、夕方には花を閉じる。この花も私の大好きな種類のひとつで、この花に出会うのが5月の楽しみのひとつになっている。

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シロバナは貴重な存在

 アカバナユウゲショウの別名があるが、希に白花もある。前回にはヒメオドリコソウの白花を紹介したが、ユウゲショウの白花もなかなか見つからず、今季はなんとか、一か所で発見することができた。人通りも車の通行量もあまり多くない路地の一角に、写真の白花は数輪だけ咲いていた。

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アカバナとシロバナの共演にミツバチも参加

 撮影中、うるさく飛び回っていたミツバチも一緒に写されたがっていたので、白花を手前に赤花を背後に置いてシャッターを押した。なお、白花であっても通称はアカバナユウゲショウであり、それゆえにアカバナのシロバナタイプと呼ぶしかない。

ムサシノキスゲ(武蔵野黄菅)

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浅間山にのみ自生するキスゲ

 ワスレグサ科(ユリ科とも)ワスレグサ(ヘメロカリス)属の多年草。科名も属名も混乱を極めているらしい。学名は、"Hemerocallis middendorffii ver.musashiensis"とすることが多いが同定はされていない。属名の”へメラ”は一日、”カロス”は美しいを意味し、一日だけ美しく咲くというところから名付けられた。種名の”ミッデンドルフ"は植物学者の名前。尾瀬で有名なニッコウキスゲに極めて近い種類だが、そちらは一日花なのに対して、こちらは開花の翌日まで咲いている点が異なる。

 ムサシノキスゲの名は、府中市にある浅間山にのみ自生する花であることから「武蔵野」の名が付けられた。浅間山が周囲の地形と異なる成り立ちをしている点については以前に触れている(cf.32・普通の府中市)。簡単におさらいしておくと、古相模川が形成した多摩丘陵の御殿峠礫層が北東方向に伸び、その後に古多摩川によって丘陵地が分断されできた残丘が浅間山なのである。したがって、立川段丘の中でもここだけが地質が異なるためか独自の「生態系」が維持されたので、日本で唯一のムサシノキスゲの自生地となったと考えられなくはない。

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毎年、大型連休中に咲く

 写真の花は花弁の幅がやや広めだが、細身のものもある。花弁は6枚だが、4枚のものもある。ムサシノキスゲ自体が多様なので、実はニッコウキスゲとまったく同じ種類で、ただ自然環境の違いから生態が少しだけ異なるのだという考えもあるらしい。前回取り上げた「ワスレナグサ」も普通は一年草として扱うが、寒冷地では多年草に分類されるという具合に。

 ムサシノキスゲが咲く浅間山は全体が「都立浅間山公園」に指定されており、5月中旬まではこの花だけでなく「キンラン」や「ギンラン」も開花している。さらに東側にある陸橋を渡ると、多磨霊園の敷地内に至る。その陸橋上から撮影したのが、冒頭に挙げた霊園内に咲く「ニセアカシア」だ。

アブチロンチロリアンランプ(ウキツリボク、浮釣木)

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アブチロンの人気種

 アオイ科アブチロン(イチビ)属のつる性本木。ブラジル南部原産の熱帯・亜熱帯性常緑植物なので冬場は落葉することもあるが寒冷地でなければ越冬は容易だ。つる性なのでフェンスや塀沿いに植えてある姿をよく見かける。5月から本格的に咲き始め晩秋まで花を付け続ける。アブチロンの仲間は多いのだが、実際にアブチロンの仲間で見掛けるのは写真の「チロリアンランプ」が大半だ。赤いガクの下に黄色い花は私のような釣り人が用いる「ウキ」によく似ているために「浮釣木」の名で呼ばれることもある。なお、人気種ではありながら、いまだに品種名は付けられていない。 

ゼニアオイ(銭葵、コモン・マロウ

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タチアオイに先駆けて咲く

 アオイ科ゼニアオイ属の多年草。ヨーロッパ原産で中国経由で江戸時代に日本に移入された。当初は観賞用であったが後に逸出して野生化したものも多い。というより、現在では道端や野原に野生化したものを見る機会のほうが多いかもしれない。花は相当に美しく、花言葉には「初恋」「古風な美人」とあり、この点も私好みである。

 花には保湿作用、抗炎症作用、抗老化作用のある成分が含まれるためにスキンケア、洗顔液などの化粧品の素材に用いられているようで、私ですら聞いたことがあるような商品にも用いられているようだ。また、ハーブティーにも利用されている。

 ゼニアオイは花が「五銖銭」と同じ大きさなのでそう呼ばれるようになったとされている。ちなみに、五銖銭とは中国の前漢武帝のとき(前2世紀後半)にそれまでの半両銭に代わって鋳造された青銅貨幣で、唐の初期(7世紀前半)に開元通宝が造られるまで流通していた。

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まあるい葉っぱ、ゼニやで!

 ゼニアオイは、原種のウスベニアオイの変種とも改良園芸種であるとされているが、両花の区別はかなり難しい。ゼニアオイのほうが紫色が強く、葉っぱが円形に近い。一方、ウスベニアオイの花はやや赤みがあり、葉っぱには深い切れ込みがあるという点で見分ける。しかし、野生化したものには交雑種も多く判断はかなり困難だ。このため、真正のゼニアオイを野原や道端で見つけたときに好事家は、「ゼニやで、ゼニや」となぜか関西弁で喜びを表現する。上品な態度とは言い難いが、もちろん、私も同様に反応する。

ハナビシソウ(花菱草、カリフォルニア・ポピー)

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ポピーの仲間は群生すると見事

 ケシ科ハナビシソウ属の一年草。学名は"Eschscholzia californica"で、属名は博物学者の名前、種小名は「カリフォルニアの」を」意味する。名前の通り、カリフォルニア州の花に定められている。花色は写真のようにオレンジや黄色のものが多いが、白、ピンク、赤のものもある。花期は4から6月と長く、病虫害にも強く、さらに乾燥にも強いため、植えっぱなしにしておいても花を楽しむことができる。標準和名は花菱の家紋に似ているからだとされている。 

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この花はカリフォルニア州の花

 ポピーの名はケシ科の植物の総称で、科名の"Papaveraceae"に由来する。papaverは「粥」を意味し、ケシの乳液は催眠作用があり、これを乳児が食べる粥の中に入れて眠らせるという習慣があったらしい。ケシの実はヨーロッパでは約7000年前から農産物として利用されており、日本でも「あんぱん」の上に使われており、食用の「ポピーシード」はネット通販で購入できる。

オオアマナ(大甘菜、オーニソガラム、ベツレヘムの星)

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近年は野生化して群生しているものが多い

 キジカクシ科オオアマナ(オーニソガラム)属の球根植物。ヨーロッパ原産で日本には明治末期に観賞用として移入された。園芸店でも球根が売られているが、大半は逸出して野生化しているものを見かけることが多い。群生していると見事で、純白の花が次々と咲き上がってくる。花言葉には「純粋」や「無垢」などがあり、それは見たまんまである。英名は「ベツレヘムの星」であるが、これは以前に挙げた「ハナニラ」にも使用される。和名は「大甘菜」であり、いかにも美味しそうな名前であるが、実は有毒植物らしい。毒性はあまり強くないようだが、わざわざ危険を冒してまで食する必要はないと思われる。

シャリンバイ(車輪梅)

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こちらはベニバナシャリンバイ

 バラ科シャリンバイ属の常緑性低木。関東以西に多く、暖地の海岸近くに自生する。庭木や公園樹のほか、煙害に強いためか垣根や街路樹によく用いられている。葉は厚みがあり、分枝する様が車輪のように見え、花はウメに似ているので「シャリンバイ」と名付けられた。

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街路樹として植えられていたシロバナシャリンバイ

 花色は、白か薄いピンク。どちらも清潔感があり、花のひとつひとつはさほど美しいとは思わないが、まとまって咲いているときはかなり見応えがある。この点もウメににているかも。なお、樹皮から作る黒褐色の染料は、奄美大島の特産品である「大島紬」に使用されていることでも知られる。

ヒメジョオン(姫女苑)

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ハルジオンに遅れて生長・開花

 キク科ムカシヨモギ属の一年草。北アメリカ原産で、日本には江戸末期に観賞用として移入された。当時の名前は「柳葉菊姫」、現在はハルジオンと一緒に「貧乏草」。以前に挙げたハルジオンよりもやや遅くに生長をはじめ、こちらのほうがより大きく育つ。やや弱弱しい感じのハルジオンに比べ、ヒメジョオンのほうが大振りのためもあって壮健に見える。

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こちらはハルジオン。違いが分かりますか?

 上の写真はハルジオン。ヒメジョオンとハルジオンの区別は意外に難しい。環境が良ければハルジオンは立派に育つし、日陰のヒメジョオンは頼りなくもある。

 両者を区別する観点は以下の3つ。第一は花の様子。頭花の周りにある「舌状花」が異なる。ヒメジョオンのほうがやや太めで若干の隙間がある。第二は茎の違い。ヒメジョオンは茎の中が髄で詰まっているため茎を触ると硬い。ハルジオンは中空のため触ると簡単に潰れる。第三に葉の基部。ヒメジョオンは茎をほとんど抱かないのに対し、ハルジオンは茎を抱くように付いている。

 私は貧乏が染みついているので貧乏草の区別は容易に判断できる。貧乏草の茎を潰しながら歩いている徘徊ジジイを見かけたら、それは私である。 

ヘラオオバコ(箆大葉子)

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群生する雑草

 オオバコ科オオバコ属の一年草。ヨーロッパ原産で日本には江戸末期に侵入した。葉の形が竹ベラに似ているところから名付けられた。長い花穂は下から上に咲いていく。白く見えるのは雄蕊。この時期は河川敷、道端、原っぱに群生する姿をよく見かける。

 この雑草は薬草として使われることがあり、咳を鎮めたり痰を取り除くといったほか利尿作用もあるらしい。また、葉っぱは食用が可能で、やや苦みのあるホウレンソウという具合らしい。

 キツネアザミ(狐薊)

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ぽつりぽつりと咲く雑草

 キク科キツネアザミ属の越年草で一属一種。アザミに似ているが、この草の葉は薄くて棘もない。多年草ではないからか爆発的に増えることはなく群生もしない。例によって多磨霊園を散策しているときに撮影したのだが、あちらこちらに咲いているというより、ぽつりぽつりと見掛けるといった存在だ。雑草なのに奥ゆかしい。中国原産で、日本には農耕技術とともに渡来したと考えられている。アザミのようでアザミではなく、毎年、違った場所に咲くというところからキツネの名前が冠されたと言われている。が、こんな草花は他にもたくさんあり、そのすべてに「キツネ」の名があるわけではない。何かキツネにつままれたような話だ。だったら、タヌキでも良いのではないだろうか。

マツバウンラン(松葉海蘭)

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風にそよぐ雑草

 オオバコ科(ゴマノハグサ科とも)マツバウンラン属の一年草(場所によっては越年草)。学名は"Nattallanthus canadensis"で、種小名から分かるとおり北米原産で、日本では1941年、京都市で初めて採集された。「ウンラン」に似た花を付け、松のような姿をしているところから「マツバウンラン」と名付けられたとされている。

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細い茎の先端部に花を付ける

 茎はとても細く、天辺近くに花を穂状に付け、それが種子になるとさらに上に伸びてまた花を付ける。最大では50センチほどの高さになるが、茎はさほど太くはならないので、いつも風に揺られた状態で咲いている。撮影者泣かせの花なのだが、近接して花を眺めても、やや引いて群生した様子を望んでも風雅な佇まいであると思える。この雑草に関心がない人はその存在に気付かないが、多磨霊園の敷地内の多くにも、多摩川の河川敷や土手にも、そして、あなたが住んでいる場所の近くにある空き地にも今、この雅な花は群生し、南風にそよいでいる。

 ノヂジャ(野萵苣)

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姿は知らず、名前も知らず

 スイカズラ科(オミナエシ科とも)ノヂシャ属の一年草(越年草とも)。ヨーロッパ原産で、日本には明治中期に移入された。花の直径は1.5ミリほどで、いくつかが花束のようにひと塊になって咲く。よく見ると(よく見ないとその存在にすら気付くことはない)、なかなか美しい姿をしている。写真は多摩川の土手で撮影したもの。いざ探してみると、ところどころに群生しているのが分かり発見は容易だった。ただし、土手上は風がよく通るので撮影は困難を極めた。

 花の存在は知らなくても、その名前は知らなくても、スーパーの野菜コーナーにいくと、その若葉が販売されていることを知っている、あるいは食したことがあるという人はいるかもしれない。仏名は「マーシュ」、英名は「コーンサラダ」で、欧米ではサラダによく用いられているそうだ。栄養価はかなり高いので、上記の名前で日本でも人気になっているのかも。私はサラダには興味がないので不明だが。 

オヤブジラミ(雄藪虱)

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姿は見るが誰も気に留めず

 セリ科オヤブジラミ属の越年草。日本の在来種で、朝鮮半島、中国にも自生する。草全体は50~70cmほどの高さに生長するが、茎から分枝したその先に散形して花を付ける。花は小さく2ミリほどだが果実は縦長で5、6ミリ(最大で8ミリ)ある。近縁種にヤブジラミがあるが、こちらは開花期が遅く花の数は多い。

 果実が成長すると表面に棘が密集し、これが動物や人間にくっついて移動し、異なる場所に落ちて芽を出し、生育範囲を拡大する。これを「動物散布」というが、俗称では「ひっつき虫」という。これには「オナモミ」が有名で、子供時代にはこれを他人の背中などに投げつけてくっつけるという遊びをよくやっていた。オヤブジラミの実の場合は小さいので投げ合って遊ぶことはできないが、野原などを歩いていると知らぬ間にスラックスや靴下などにこの実が「ひっつく」場合がある。この「ひっつく」性質から名前に「シラミ」が付けられたとされている。

ギシギシ(羊蹄、オカジュンサイ、ウシグサ)

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やや湿り気のある場所に群生

 タデ科スイバ属の多年草。やや湿り気のある場所が好みなのか、多摩川の河川敷や土手、さらに沖積低地を流れる小川の近くに群生する。繁殖力が旺盛なので、普通の原っぱでも見掛けることは多い。名前が特徴的だが、その由来は諸説ありすぎて「不明」というほかはない。ひとつの茎から数多くの花穂を伸ばし、小さな花を無数に付ける。花といっても花弁はないので極めて地味である。花穂は緑色をしているが実りの時期になると茶褐色になる。写真のものは色が変わりはじめのもの。

 薬草としても知られ、根は「羊蹄根」と呼ばれ、便通を良くしたり炎症を抑える働きを有するとのこと。そういえば、土方歳三の生家は炎症に効く「石田散薬」を製造していたが、これはタデ科タデ属の植物を原料にしていたことを思い出した。また葉っぱの脇から伸びる新芽は食用になるそうで「オカジュンサイ」の別名がある。タデ科の植物なので「タデ食う虫も好き好き」と考えると納得するほかはない。

ムラサキツメクサ(紫詰草、アカツメクサ、赤クローバー)

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花と虫

 マメ科シャジクソウ属の多年草。ヨーロッパ原産で日本には明治初期に牧草として移入され、のちに野生化した。デンマークの国花。高さは20から60cmで個体差が大きいが、一般にはシロツメクサよりも大きくなるものが多い。これは、本種のほうがやや暖かくなってから育つことによるのかもしれない。花は球形の集合花序で大きいものはゴルフボールぐらいの大きさになる。クローバーというと「四つ葉探し」をよくおこなうということはシロツメクサの項で触れたが、本種のほうが葉っぱも大きくなるため、これの四つ葉を探せばより大きな幸せをつかむことはできるかもしれないが、「禍福はあざなえる縄の如し」なので、より辛く厳しい災いを招くかもしれない。今季のコロナ禍のように。 

コバノタツナミソウ(小葉の立浪草)

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なぜか壁際で見掛ける

 シソ科タツナミソウ属の多年草タツナミソウの矮化種で、タツナミソウは40cmほどに成長するがこちらは大きくても20cmほど。一般には紫の花を咲かせるものが多いのだが、なぜか今季に見つかる花は白花がほとんどだった。紫のものもないではなかったが私が見つけたものはいずれも貧相だったので、シロバナのみの掲載した。

 半日蔭を好む草花なので、建物の陰など壁際、塀際で見掛けることが多い。野原でもよく探せば見つけられないことはないが、大抵は背の高い草たちの陰にひっそりと咲いている場面に出会う。写真のものは公園の端に繁茂する雑草の陰に咲いていたものだが、なにしろ名前に反して高さがないので、ほとんど這いつくばった状態で撮影した。

セリバヒエンソウ(芹葉飛燕草)

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一度見掛けると、やがて気になる存在に!

 キンポウゲ科オオヒエンソウ属の一年草。中国原産で日本には明治期に渡来したが、近年になって逸出して野生化した。繁殖力が旺盛なので、最近では至るところの野原で見掛ける機会が多くなった。学名は"Delphinium anthriscitolium"で、属名には「イルカ」の名がある。日本では「飛燕草」、つまり花の形が「ツバメの飛ぶ姿」に似ていると考えて命名されたが、学名は「イルカが泳ぐ姿」からの連想によるものだ。なお、葉っぱは「セリ」に似ているが、これは毒草なので、くれぐれも食べないようにしていただきたい。

ギンラン(銀蘭)

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浅間山で見つけた小さなラン

 ラン科キンラン属の多年草。落葉樹林内に生育し、菌根菌という菌類と共生しているため、ギンランが育つ環境は限定的である。高さは15から30cm程度で、下に挙げるキンランよりもかなり小さく花数も少ない。また、花も写真のように開花に至らないものが多い。これは、キンランよりも菌類に依存する割合が高いので生育環境が大きく制限されるためであると考えられている。絶滅危惧種に指定されている。

キンラン(金蘭)

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ギンランよりも存在感あり

 ラン科キンラン属の多年草。上のギンランと同じ環境下で生育するが、菌類に依存する割合がギンランに比べると低いためか、より大きく成長し、高さは30から70cmほどになる。花もよく開花する。こちらも絶滅危惧種である。

 キンランとギンランはムサシノキスゲの自生地である浅間山で撮影したものだが、三者はほぼ同時に花を付けるので大型連休の前後はこれらの観察者で賑わう。都立浅間山公園に指定されているため三者の花はその管理下に置かれているが、入場はまったく自由なので盗掘は多く、ペットや人間に踏み荒らされた跡もよく見掛ける。

キランソウ(金瘡小草、ジゴクノカマノフタ、医者いらず)

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目立たないが綺麗な花

 シソ科キランソウアジュガ)属の多年草。日本在来種で、朝鮮半島や中国にも生育する。根出葉は円盤状に広がり、茎を上方に伸ばさない。地面にへばり着くように咲いているので野原にあっても目立たず、大半は踏みつけられる。唇の形をしている花は小さいが濃い紫色をしており、しかも集団で咲くので、地面に紫色の塊りがあれば開花したキランソウである可能性がないわけではない。原っぱで遊んだり散歩したりしている人がふと立ち止まって足元を見ていたら、この花が咲いているかお金が落ちているのを見つけたかのどちらかである。そのまま腰を下ろして地面を眺めていたらキランソウを発見、腰を下ろす前に辺りを見回したらお金の発見である。3から5月、私はこの花を探して野原をうろつくのであるが、キランソウはすぐに見つかるが、お金を発見したことは残念ながら、まだない。

アジュガ(セイヨウキランソウジュウニヒトエ

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最近では野生化しつつある

 シソ科キランソウアジュガ)属の多年草。花の形から分かるように、上に挙げたキランソウの仲間である。これはヨーロッパ原産の"Ajuga reptans"を園芸種として改良したもの(ちなみにキランソウは"Ajuga decumbens")で、キランソウとは異なり茎は直立し、その周囲に多くの唇形花を付ける。ランナーを伸ばして次々に花穂が生長するので、アジュガ林を形成する。花色は青紫が大半だが、ピンクのものもある。また葉っぱもカラフルなので、花の無い時期はグランドカバーとして利用される。

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野生化したジュウニヒトエ

 写真のジュウニヒトエ十二単)もキランソウの仲間で、姿はアジュガと同じだが花色は白か薄い紫。花穂の姿かたちから「十二単」の名が付けられた。色が派手で群生しやすいアジュガは園芸種として利用されることが多いが、葉も花色も地味なジュウニヒトエは園芸種として育てられる機会は減り、多くは逸出して野生化している。名前は艶やかだが存在はお淑やかである。 

〔番外編〕コロナ禍の中、季節は春から初夏へ~花散歩

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4月下旬から秋まで咲き続けるサルビア・ミクロフィラ

コロナ禍の中で思うこと

 コロナ禍である。釣り場に近い駐車場はほとんど閉鎖されているので釣行はままならない。植物園、自然公園などが閉鎖中なので春の山野草の開花に触れる機会を多く逃した。大学の研究会や講座、私的な集まり(例えば哲学カフェ)も皆、中止になったため頭の体操の機会がめっきり減った。近隣にある市立図書館が閉鎖されているため、調べたいことがあっても資料不足で不満足な愚者状態。

 不愉快なのは変な言葉が飛び交っていることだ。「濃厚接触」「ソーシャルディスタンシング」「3密」は、その言葉を見たり聞いたりしただけで”げんなり”してしまう。「濃厚接触」は、”close contact"の訳語だろうか。おふざけで使う場合なら構わないが、社会的用語としては馴染まないような気がする。とはいえ、実際に医学用語として用いられているし、他に良い言葉は思いつかないので致し方ない。何しろ、医学用語には「日和見感染 ”opportunistic infection"」という言葉もあるぐらいなので。

 「ソーシャルディスタンシング」は社会的距離拡大戦略のことらしいが、社会との距離拡大は「孤立」を意味することに繋がるので曲解される恐れがある。この反省から「フィジカルディスタンシング」(物理的距離拡大戦略)に置き換えようという提案があり私としてもこちらのほうが断然に良いと思うのだが、いまひとつ広がりは見えない。

 上記の2つの言葉は気に入らないが、意を汲めば言いたいことは伝わってくるので、許せないわけでは決してない。が、「3密」だけは酷いとしか言いようのない言葉である。どこかの首相は奥方の参拝行動に「3密ではない」と擁護したようだが、彼の頭脳では「1密」や「2密」では問題はないと判断されるようだ。ならば、換気が良く、間隔を空けたパチンコ屋は「3密」に該当しないから問題はないとすべきだろう。ウイルスは直接接触や飛沫接触によって感染する(させる)場合があるので、これをできるだけ避けるのが良いと考えられるだけであって「3密」はダメだが「2密」なら大丈夫というものではない。ところが、「3密」を政府やメディアがしばしば声高に叫ぶため、「3密」とそれ以外という区分が生まれ、本末転倒の観念が形成されている。「可能な限り、物理的・身体的距離を取りましょう」で十分だと思われる。それ以上でも以下でもない。

 「3密」は嫌な言葉だが、「六波羅蜜」についてなら以前、それに関する書物を何冊か読んだことがあるし、「蜂蜜」については最近、「ランチパック・はちみつ&マーガリン」のパッケージのミスについての微笑ましい話題があった。

 というわけで、コロナ禍のために釣りには週に2回ほどしか行けず、植物園や自然公園からは締め出され、観光地に出掛けるのは気が引けるので、必然、近隣での徘徊が増えている。ただうろつくだけでは生産性が低いので、カメラを持って出掛けて目に留まった花の姿を撮影している。意外な花が意外なところに咲いているのに気付き、あるいは気付かされ、これがコロナ禍の下での大きな収穫になっている。これも、いいのだ。

ゼラニウム(ゼラニューム、匂い天竺葵)

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ゼラニウムとしてはもっともよく見られる品種

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清潔感のある白色も魅力的

  フウロソウ科ペラルゴニウム(テンジクアオイ)属の多年草ゼラニウムについては以前、「ゼラニウム・フェアエレン」のところで述べている。写真のものはゼラニウムの仲間ではもっとも普通に見られるもので、花色はこれ以外にも白や赤のものが多い。標準和名に「匂い天竺葵」とあるように、葉に独特の香りがあり、これを香ばしいととるか臭いととるかでこの花を好むか否かが分かる。

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こちらは花の形が珍しい園芸種

 写真のゼラニウムは花弁が深く切れ込む星形に改良されたもので、”ファイヤーワークス”などの商品名で販売されている。

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こちらは園芸種のペラルゴニウム

 ペラルゴニウムは花色や花弁の形を変えてゼラニウムよりも派手さを競うように改良されたもので、園芸店やホームセンターでは豪華な鉢植え品として販売されているのをよく見かける。通常のゼラニウムは花の多寡は別にすればほぼ周年、花を咲かせる四季咲き種だが、このペラルゴニウムは春から初夏までの一季咲き品種なので、路地植えよりも中大型の鉢植えのもののほうが管理しやすいのかもしれない。写真のものは路地植えされているものを撮影した。なお、ペラルゴニウムのぺラルゴは「こうのとり」を意味するようだ。

シラン(紫蘭、紅蘭、白笈)

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もっともよく見られるランの花

 ラン科シラン属の多年草。初心者にも簡単に育てられるということでこの時期にはあちらこちらでこの花が咲いているのを見かける。地下茎は「偽球茎」と言われ球形というよりは平らな形をしている。この地下茎が良く育つため、知らないうちに株が大きく育つ。さらに種子をよく作るので野生化しているものを見かけることがよくある。

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この角度から見ると「ラン」であることがよくわかる

 うつむき加減に咲いているため、この花がランの仲間であることを気付かない人も多いようだが、写真のように下から見上げるようにすると、普通の人がランの花をイメージするのと同じ形であることが分かる。ありふれた存在であっても美しいものはやはり美しい。

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多磨霊園で見つけた白色のシラン

 シラン(紫蘭)の名の通り紫のものが大半だが、園芸種や交雑種には異なる色や形のものがある。紅色や白色、黄色など異なる色をもつ花もあり、それはそれで見応えがある。大型連休中(私の場合は一年中休みだが)に多磨霊園内を散策していたとき、白色のシランを見つけた。背中合わせの墓石の間に咲いていたので撮影には難儀した。

コデマリ(小手毬)

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ユキヤナギが咲き終わるとコデマリの出番となる

 バラ科シモツケ属の低木。中国東南部原産で、日本には江戸初期に導入された。和名は花序の形から名付けられた。まったくもって妥当な名称である。

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可能な限りの近接撮影

 花の形から分かるように、春先に咲く「ユキヤナギ」と同じ属である。ユキヤナギの花が散ったころ、今度はこの花が咲き始める。花序の形が、あちらは柳のようであり、こちらは手毬のようである。違いは大きいが、花にあまり関心のない人は区別が付かないらしいが、そもそも興味がないので花の名前への拘りがないのは当然のことだ。私がAKBとなんとか坂との区別がつかないのと同等である。

ヤマブキ(山吹)

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一重咲きのヤマブキ

 バラ科ヤマブキ属の落葉性低木。学名は”Kerria japonica"であり、種小名に「日本の」とあるように日本原産の植物である。以前に挙げた「ウンナンオウバイ」によく似た花を付けるが、あちらは黄色でこちらは山吹色である。葉も特徴的で、薄くてギザギザした形をしているので区別は容易だ。ヤマブキは山吹色をしているが、ヤマブキが山吹色なのでヤマブキと名付けられた訳ではなく、ヤマブキの花色から山吹色という名称が生まれた。山吹色から派生したのは「小判」である。

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ヤエヤマブキといえば太田道灌

 上の写真は「ヤエヤマブキ」で、一重咲きのヤマブキの改良園芸種。学名は「Kerria japonica "Pleniflora"」。ヤマブキは一属一種であり、園芸名の「シロヤマブキ」はまったくの別属。花色こそ白だが雰囲気がヤマブキに似ているので「あやかりヤマブキ」である。これは「ブダイ」や「ネンブツダイ」がタイの仲間ではなく「あやかりダイ」であるのと同じ。といっても、釣り人やダイバー以外、これらの魚の存在はほとんど知られていないが。

 八重山吹についてはずいぶん前の「越生」の回(第7回)で触れており、当然のごとく「太田道灌」との関係も記してあるのでここではとくに触れない。

オステオスペルマム(アフリカンデージー

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明るい日差しを好む花

 キク科オステオスペルマム属の多年草。アフリカ原産だが耐寒性もあるので冬場でも日当たりが良い場所では開花することもある。写真から分かるように花弁が萎れたものもあれば花芽が育ちつつあるものもあるので、全体としての花期はかなり長い。花色は紫、白、桃が中心だが、近縁種の「ディモルフォセカ」との交雑によってさまざまな色のものが作出されている。ただし、ディモルフォセカは一年草なので、交雑種はオステオスペルマムの純種に比べて花の命は短い。

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私の好みは純白

 オステオスペルマムとディモルフォセカとの区別は園芸歴が長い人でも区別は難しいようだ。私はこれらの花たちの愛好家であった(ゼラニウムの次ぐらいに好んでいた)から当時は両者を簡単に見分けられたのだが、交雑改良園芸種が多数出回っている今日ではほとんど区別がつかない。そこで、写真にはオステオスペルマムの代表的カラーである「紫」と「白」とを選んだ次第なのだ。

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ディモルフォセカを見つけました

 スズラン(鈴蘭、君影草、谷間の姫百合)

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誰もが良く知る可愛い花

 キジカクシ科スズラン属の多年草。写真もそうだが、街で見かけるスズランはヨーロッパ原産の「ドイツスズラン」であることが多い。幸せの国・フィンランドの国花であり、札幌市や釧路市など市の花とするところも多い。見た目だけでなく香りも良いが、毒草なので可愛らしいからといって食してはいけない。

 日本原産のスズランは花が小さく葉に隠れるようにひっそりと咲く。「君影草」の名はこの「恥じらい感」から付けられたのだろうか?

ヒメエニシダ

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特徴的な咲き方をする花

 マメ科エニシダ属の低木。エニシダ属にはいろいろな種類があり、通常のものは樹高が2~4mほどに成長し、花色も多い。西欧ではエニシダの枝は箒の原料に使われる。魔女の乗る箒はエニシダが素材である。それゆえ、「キキ」が乗る箒もエニシダだと想像される。ところで、日本で「エニシダ」の名で販売されているのは写真の「ヒメエニシダ」で鉢植えが多い。撮影したものは路地植えされたものでかなり大型に育っているが、それでも樹高は1mほどである。

アメリカフウロ(亜米利加風露)

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葉っぱは目立つが花は小さい

 フウロソウ科フウロソウ属の一年草。4、5月の道端でよく見かける「雑草」で、葉っぱは結構、目立つ存在なのだが花は5、6ミリのサイズ、しかも写真にある通り色は地味で花数も少ないので、路傍に咲いていてもまずは気が付かない。私も以前は気にも留めなかったが、いったんその存在を知ると毎年、この草の開花が気になる。小さな花が無事に開いているとなぜかほっとした気持ちになる。何週間後、この花の存在を忘れ去る。そして初夏が訪れる。名前に「アメリカ」とあるのは、原産地が北アメリカだからで、これもまた帰化植物である。

ヒメツルソバ(姫蔓蕎麦、ポリゴナム)

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グランドカバーによく用いられる

 タデ科イヌタデ属の多年草。ソバの花に似てツル性の植物なのでツルソバ。花は小さな金平糖のように可愛らしいので「姫」。これを連結してヒメツルソバとなる。ヒマラヤ原産で、以前は「ポリゴナム」の名前でグランドカバー用の園芸種として販売されていた。現在は野生化したものも多く、コンクリートや石垣の狭い隙間からでも顔を出している姿を見かける。花期は春から秋で、晩秋には葉は紅葉し、冬には地上から姿を消す。しかし早春には葉を茂らせ、また小さな花を無数に咲かせる。生命力旺盛な半雑草といったところか。

ナガミヒナゲシ(長実雛芥子)

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今どきは、あちらこちらで群生して咲いている

 ケシ科ケシ属の一年草。地中海沿岸地方を原産とし、日本には1960年頃、輸入貨物の中に種子が入っていてそれが発芽したと考えられている。写真には咲き終わって結実した芥子坊主がたくさん写っているが、この果実の形が他のケシの仲間のものより長めなため、長実雛芥子と命名された。果実の中には無数の芥子粒(種子)が入っているので、翌年には爆発的に数を増やす。それだけでなく、この植物はアレロパシー(他感作用)活性が高いために、他の植物の生長を抑制する働きをもつ。ナガミヒナゲシが群生するのはこの作用による。

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近年、急増殖中の「雑草」

 ケシの仲間なので花自体はかなり美しい。写真のものはオレンジ色だが、かなり赤みの強いものもある。この花を増やすのは簡単で、花をひとつ、茎の部分からチョン切ってきて、適当な場所に放り投げ捨てておけばよい。たとえ未結であっても種子は自然に育ち、翌年には発芽に至る。まったくもって「厄介」な帰化植物である。

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白系を発見。色が褪せただけかも

ムラサキサギゴケ(紫鷺苔、サギシバ)

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可愛らしい雑草だが、よく踏みつぶされる

 ハエドクソウ科サギゴケ属の多年草。写真のように花は紫だが、ときおり白花を見かけることがあり、そちらは「サギコケ」と呼んで区別している。解説書には湿ったあぜ道に多いとあるが、日当たりの良い野原にも咲いていることが多い。匍匐性があり、地面を這うように育つので、花が小さいこともあって存在に気付かれずに踏み潰されることが多い。よくみると素敵な花なので、ぜひともこの花の存在を知ってほしい。

ニワゼキショウ(庭石菖)

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初夏の野原を彩る「雑草」

 アヤメ科ニワゼキショウ属の一年草。北アメリカ原産で、明治の中期に日本に入り帰化した。直径が1cm前後の小さな花なのでこれもまた、サギゴケと同様にその存在を無視されることが多い。今回は白系が大半だったが、やっと多摩霊園の敷地内で紫系を見つけた。

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紫系のニワゼキショウ。アリンコ付き

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5月になるとこの花を探しに徘徊する

 中央の黄色とその周辺の紫が特徴的で、なかなか美しい花だと思うのだが。今回、住宅街の道端で撮影したのだが、通行人の多くは怪訝そうな顔(皆マスクをしているのでそんな感じがしただけだが)をして通過していった。野草にもいろいろな表情をもつものがあるので、雑草を探し求める道草には中ぐらいの夢がある。

ツタバウンラン(蔦葉海蘭、ツタカラクサ

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この花も人知れずに咲く

 オオバコ科ツタバウンラン属の多年草。地中海地方原産で、大正初期にロックガーデン用の園芸植物として日本に入り、その後に逸出して野生化した。名前に「ツタ」があるとおりツル性の植物で、石垣に隙間などに密生して不等間隔に花を付ける。この野草も大半の人は目もくれないが、相当に可愛らしい花である。黄色の2点が目のようで、その姿は鳥を思わせる。ツルに絡んで飛び立つことができない花ではあるが、いつの日か、鳥に転じて大空を舞う日がくるかもしれない。

コバンソウ小判草

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多磨霊園の敷地で大量に咲いていた

 イネ科コバンソウ属の一年草。ヨーロッパ原産で日本には明治初期に移入された。写真のように30~50センチほどの茎が直立し、その先に数個から十数個の円錐花序を付ける。この小穂の形が小判に似ているところからこの名が付けられた。

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本物の小判なら大金持ち

 写真は私の徘徊場所のひとつである多磨霊園の敷地内で撮影したもの。日が少しだけ傾き、斜光が小判を照らし、山吹色ではないが輝きを見せていたのは確かだ。他の雑草よりも数は多く、墓地の周囲の至るところに茂っていた。これは霊園の北側を通る「東八道路」でも同様で、路側帯の空地には無数の小判が輝いていた。この小判が本物であれば私は大金持ちになれるだろうか。他の人も同様に考え、彼・彼女らが手にした小穂がすべて小判であるとするならば金の価格は無に等しいものになるため、誰もが手にするものは富ではなく単なる空夢である。

ハナミズキ(花水木、アメリヤマボウシ

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街路樹としてよく見かける

 ミズキ科ミズキ属の落葉高木。北アメリカ原産で、学名は”Cornus florida"。種小名に「フロリダ」とあるようにアメリカを代表する花で、日本に「桜前線」があるようにアメリカには「ハナミズキ前線」がある。サクラと同様に庭木だけでなく街路樹に用いられることが多く、府中市では桜並木よりも花水木通りのほうをよく見かける。これは日本人が「ハナミズキ=花見好き」だからであろうか?

 1912年に当時の東京市長尾崎行雄がワシントンDC(ポトマック河畔の桜並木)にソメイヨシノ3100本を贈り、3年後、その返礼としてハナミズキが日本に送られた(ハナミズキ花言葉は”返礼”)ことから日本に定着した。 実は尾崎は、その3年前の09年に2000本を贈ったのだが虫害のためすべて焼却されてしまっていた。

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色のバリエーションは少ない

 サクラと異なり、ハナミズキは色のバリエーションは少なく、普段目にするのは3種ほどである。ソメイヨシノと同様、枝に葉が茂る前に花が咲き、花自体もひとつひとつはかなり大きいのでよく目立つ。花期はソメイヨシノが散った頃からポツリポツリと開き始めるので、花見好きには桜⇒花水木と花見を連続して楽しむことができる。

 なお、花弁に見えるのは葉っぱが変形した「総苞」で、実際の花は中心部の緑色に見える小さな塊である。

ナスタチウムキンレンカ金蓮花、ノウゼンハレン)

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この種類はあでやかな色をもつものが多い

 ノウゼンハレン科ノウゼンハレン属の一年草。標準和名は「ノウゼンハレン」だが、一般には「ナスタチウム」または「キンレンカ」と呼ばれている。黄金色した蓮のような葉をもつ花、ということで金蓮花と名付けられたようだが、後の挙げる「キンセンカ」と語音が似ているため、趣味人は「ナスタチウム」の名で呼ぶことが多い。ナスタチウム(Nasturtium)は英名なのだが、このナスタチウムオランダガラシ属の学名で、オランダガラシの仏名は”Cresson"、つまり栄養価の高い野菜として知られるクレソンを指すのでややこしい。

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ナスタチウムは花色のバリエーションが少ない

 この植物はハーブとして花や葉、茎が利用される。香りや味がクレソンに似ているところからナスタチウムと呼ばれるようになったそうだ。

 つる性の植物で、葉をよく茂らせる。花色のバリエーションは少なく、赤や黄色、橙色そしてそれらの複色といった程度。以前に比べると人気は低下しているようで、今回の徘徊でもなかなか見つけられなかった。

スミレ(菫)

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スミレの原点のような存在なのだが

 スミレについてはすでに「タチツボスミレ」「アリアケスミレ」「ニョイスミレ」について触れているので詳細は省略する。写真のスミレは私たちが思い浮かべる「スミレ」の形や色そのもので、スミレの原点ともいうべき存在である。しかし、実際にこのスミレを見る機会はほとんどなく、コロナ禍もあって例年以上に近隣を徘徊する機会は増えているが、このスミレを見つけたのは2度しかなかった。今の子供たちがスミレを思い浮かべそれを絵にするときは、きっとタチツボスミレを描くに違いない。スミレの葉っぱは細長い楕円形、タチツボスミレは丸い心形。描かれた葉っぱの形でどちらのスミレなのか判断できる。否、今はスミレの絵なんぞまったく描かないかも。

オドリコソウ(踊子草)

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ヒメオドリコソウよりかなり大きい

 シソ科オドリコソウ属の多年草。以前に挙げた「ヒメオドリコソウ」よりもずっと背が高くなり、大きなものでは50センチほどの高さにまで成長する。それに比して花の形も大きくなり、ヒメオドリコソウの場合の踊り子は葉の間から恥ずかし気に舞うが、こちらは堂々とした立ち姿で演舞する。

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踊り子に最接近

 花に近接してみた。意外に繊細な形と色合いを有しており、「雑草」と」一刀両断に切り捨てるのはもったいないような気がする。実際、オドリコソウに触れられる場所はあまりなく、道端で発見する機会はまずない。写真は「野川自然観察園」脇に咲いていたもの。観察園内には自粛閉鎖中で入れないが、写真のオドリコソウは園外へ逸出したもので、フェンスの外に繁茂していた。

シロバナヒメオドリコソウ

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その存在は知っていたが

 オドリコソウもヒメオドリコソウも花色はやや薄い赤紫が定番なのだが、希に写真のような白花を有するものがある。それは知識として知っていただけで、実際にその純白の踊り子に触れたのは今回が初めてだった。ヒメオドリコソウは春の到来を告げるメルクマールの花のひとつとして存在していることは以前に述べているが、それだけにこれの開花には注視し続けてきたのだが、今まで白花に触れることはなかった。

 場所は東京農工大学・府中キャンパスの南側にある通りの南側の歩道上の植え込みの一角。ツツジの周りに雑草が育ち、その多くはヒメオドリコソウでありオランダミミナグサ、アメリカフウロである。その日は花水木の開花状況を調べていた。基本的にはやや上方を見ていたはずなのに、なぜかある場所では足元の様子が少し変であることに気が付いた。しかし、そこにあるのは上に挙げたツツジか雑草だけなのでそのまま通りすぎた。しかし、心には違和感が残ったままだったので、100mほど進んだ後に引き返し、その違和の根源を探すことにした。そして見出したのがこのシロバナヒメオドリコソウだった。一角に密生していたヒメオドリコソウはすべてシロバナだった。が、それ以外の場所にシロバナはなかった。

 以来、この花の存在は大型連休に入ってすらずっと気になり、シロバナを探し続けているのだが結局、二度と見出すことはできずにこの花の季節は終了した。来年、当該場所で再びシロバナと出逢えることが、生きながらえる大きな動機付けと希望になった。

シロバナタンポポ(白花蒲公英、ニホンタンポポ

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見掛けることが少なくなったタンポポ

 キク科タンポポ属の多年草。「ニホンタンポポ」の別名があるように日本在来種で、北海道には限定的に存在し、南西にいくほど数が多くなる。タンポポは英名では「dandelion」と言い、ライオンの歯という意味になる。葉っぱのギザギザが歯に見えるかららしい。すると、このタンポポは「white dandelion」となる。これが白花であるということは「ホワイト&ホワイト」という歯磨き粉を使ってホワイトニングしたからだと考えられる。何しろ、この製品を作っているのはライオン株式会社だからだ。

 通常よく見る黄色のタンポポは明治末期に日本に移入された帰化種がほとんど。外来のセイヨウタンポポの外側のガク(総苞)は開き、在来種はそれが閉じている点で区別が可能と言われている。しかし、在来種も花期の終わりごろには総苞は開き気味になるので区別は意外に難しい。まあ、シロバナであれば在来種なので、ナチュラリスト、いやナショナリストシロバナタンポポを愛でよう。ちなみに、私はナチュラリストでもナショナリストではないが、シロバナのほうが好みである。

シラー・カンパニュラータ(ヒアシンソイデス、釣鐘水仙、スパニッシュ・ブルーベル)

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近年は野生化しつつある

 キジカクシ科ヒアシンソイデス属(ツリガネズイセン属とも)の球根植物。学名は"Hyacinthoides hispanica"で、ヨーロッパ、北アフリカが原産地。かつてはシラー属に分類されていたため流通名に「シラー」の名前が残る。標準和名は「ツリガネズイセン」というが、釣鐘は花の形から、水仙は葉っぱの形に由来する。カンパニュラはラテン語の"campanula"すなわち「釣鐘」を意味し、まさに見たまんまである。

 植えっぱなしの園芸品種として人気があり、群生させると見事だ。精力旺盛なのか、近年では野生化したものも多くみられ、今時分は雑草の間からニョキニョキと顔を出して派手な色で咲き誇る。写真のような青紫色のものが大半だが、ピンクや白色のものも出回っている。

シラー・ぺルビアナ(大蔓穂)

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多磨霊園内の墓石の前に咲いていた

 キジカクシ科シラー属(ツルボ属)の球根植物。学名は"Scilla peruviana"といい、スペイン南部で発見されたこの植物がイギリスに持ち込まれる際、その船名が「The peru」だったところから種小名に「ペルー産の」という意味の言葉が用いられているが、原産地はペルーではない。傘状の花序をもち、周辺部から咲いていくので、写真から分かる通りこの株の場合、中心部は未開花である。

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最接近してみると

 6枚の花弁は反り返り、6つの雄蕊は立ち上がっているので実際の花を見ると立体感があって美しさを一層、際立たせている。この花は紫系だが白系も流通している。白系は今年は未発見だが。なお、これも多磨霊園の墓石の横に咲いていた。多磨霊園は私の花季行では重要な御狩場なのである。

イチリンソウ(一輪草、一華草)

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スプリング・エフェメラルの掉尾を飾る

 キンポウゲ科イチリンソウ属の多年草。代表的な「スプリング・エフェメラル」であるが、カタクリニリンソウよりも花期はやや遅いので、場所によっては晩春から初夏にかけて花を楽しむことができる。5枚の白い花びらは花弁に見えるが、実際には萼(がく)片(萼花弁とも)である。梅雨に入る前に葉っぱは枯れ、翌年の早春まで眠りにつく。儚い春はこの花とともに終わる。

フジ(藤)

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春の終わり、初夏へようこそ

 マメ科フジ属のつる性落葉花木。学名は”Wisteria floribunda"で、種小名の”floribunda"は「花の多い」の意味である。花色は紫が多いが、「シロバナフジ」や「アカバナフジ」といった改良種も流通している。藤棚といえば「あしかがフラワーパーク」が関東ではもっとも有名だが、今年はコロナ禍で休園中。5月7日に営業再開の予定だったが、「緊急事態宣言」が延長されたため再開日は未定となった。残念なことであるが止むをえまい。

ナヨクサフジ(弱草藤)

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最近よく見かけるようになった雑草のフジ

 マメ科ソラマメ属の一年草で一部は越年する。ヨーロッパ原産で1940年代に帰化した。飼料・緑肥用に栽培されることもあるが大半は雑草化した。花はかなり美しく、なかなか存在感のある草花だ。

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よく見ると案外、綺麗です

 弱(なよ)の名前通り、花ひとつひとつはすぐに萎れてしまうが、次々に開花を続けるので全体としては数多くの花を付けているようにみえる。この草花は「アレロパシー効果」を有しているので、周囲の植物を駆除し縄張りをどんどん広げていく。以前はそれほど目につく存在ではなく、この花を見つけると何か「得」をしたような気分になったが、近年では「あそこにも咲いていやがる」という感覚をいだくことが多くなった。

ワスレナグサ(勿忘草、忘れな草

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な忘れそ

 ムラサキ科ワスレナグサ属の一年草。英名は”forget-me-not"、独名は”vergissmeinnicht"、和名は”忘れな草”でみんな同じ。花言葉は「私を忘れないで」でこれも同じ。これは、中世ドイツの物語から名付けられたと考えられている。

 若い騎士は彼女のために、ドナウ川ライン川とも)の岸辺に咲く小さく美しい花を採りに行き、誤って川に流されてしまう。騎士は力を振り絞って摘み取った花を彼女の元に投げ、「私を忘れないで」という言葉を残して流れに消えてしまった。

 この物語から分かることがひとつある。この花は岸辺に咲く=湿地を好むということだ。ワスレナグサを育てる場合、水切れは厳禁なのだ。

 個人的にはこの話よりも、映画「男はつらいよ」の第11話、『寅次郎忘れな草』のほうが印象深い。リリー(浅丘ルリ子)が初めて寅さんシリーズに登場した回だ。寅さんはリリーから花の名前を聞かれたとき、「タンポポでしょ」といい加減に答え、妹のさくらにたしなめられた。

 ノーヴァリスの『青い花』はワスレナグサをイメージして書かれ、プルーストの『失われた時を求めて』ではワスレナグサは重要な場面に何度も出てくる。イギリスのランカスター家の家紋に用いられたこともある。欧州ではとても愛されている花のようだ。私も何度かこの花を育てたが、いずれも水切れで枯らしてしまった。枯れる前、花は私に向かってこう叫んだことだろう。「な忘れそ!」

 ワスレナグサはブルーの小さな花が特徴的だが、何が愉快なのか白、ピンク、紫などの改良種が出回っている。

ハハコグサ(母子草、ごぎょう

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注目されることは少ないけれど

 キク科ハハコグサ属の二年草、もしくは越年草。ハハコグサの名前より春の七草のひとつである「ごぎょう(御形)」のほうが世間には知られているだろう。ただし、「ごぎょう」がこの草だと知っている人は少ないかもしれない。若い苗が食用になる。母子草の名前ゆえか花言葉に「無償の愛」というのがあるそうだ。若いときに身を人間のための食料として投げ出してしまうのだから、確かに「無償の愛」と言えるだろう。ただし、「春の七草」として販売されている場合は有償である。

サルビア・ミクロフィラ(チェリーセージ

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近年、見掛けることが多くなった紅白種

 シソ科アキギリ属の常緑性小低木(多年草とも)。一見、草のようだが茎の底部は木質化する。高さは1・5mにも育つので、高くなった場合は茎の下部を切り戻すと毎年、こんもりと咲くようになる。種小名には"microphylla"とあり、これは「小さな葉」を意味するが、実際には決して小さくはない。原産地がメキシコのチワワ州なので、犬のチワワのように「小さい」という意味なのかとも考えたが、地名のチワワは「乾いた砂の土地」を表すので「小さい」とは関連性がない。もっとも、砂粒は小さい。

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純白もあります

 かつては、赤い花が特徴的(本項の冒頭の写真参照)だったのだが、現在では改良種である「ホットリップス」が多く流通しているためか、紅白の花をもつものが増えている。さらに交雑種なのか、ひとつの木(草)から赤、紅白、白の三種の花を付けるものもよく見かける。

 英名のチェリーセージ(ベビーセージとも)から分かるように、葉はハーブとして利用される。

キンセンカ(金盞花、カレンデュラ

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あまり見かけなくなった古典種

 キク科キンセンカ属の一年草。以前に紹介した小型の「カレンデュラ・冬知らず」は、その名の通り越年するので多年草として扱われる。花は大きく10cmほどにもなる。一重咲き、八重咲きがあるが、近年では写真のような八重咲きタイプが圧倒的に多い。花の中心は写真のように花弁と同じ色のものと異なるタイプのものがある。花色は黄色か橙色が大半だが、複色タイプのものも見掛ける。

 以前はどこの庭や公園にもよく植えられていたが、最近では見る機会がかなり減った。群生させると豪華だし花期も比較的長いので、人気が復活すると良いとおもうのだが。なお、この花もハーブとして利用される。

イソトマ(ローレンティア)

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繊細かつ優美

 キキョウ科イソトマ属の多年草一年草とも)。開花期は長く、次々と写真のような細身の星形の美しい花を咲かせる。とてもキレイな花なのだが、近年はほとんど見掛けなくなった。これは茎から出る液が有毒で、皮膚がかぶれたり目に入ると失明する恐れがあることから敬遠されているのかもしれない。何しろ、花言葉にも「猛毒」とある。

 バラのように「美しい花には棘がある」が、イソトマのように「美しい花には毒がある」ことは、園芸の世界では実はよくあることなのだ。

〔37〕八王子の城跡を歩く(2)悲劇の八王子城(前編)

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8年前に建てられたガイダンス施設内の展示(現在はコロナ禍で休館中)

八王子城造営にいたる時代背景

 天正18年(1590年)6月14日、現在の埼玉県寄居町にある「鉢形城」は豊臣勢の北国支隊ら35000の兵に包囲されながら約一か月間の籠城戦を戦ったものの遂に開城した。城主の北条氏邦(氏照の弟)は降伏したが、北国支隊のリーダーであった加賀の前田利家豊臣秀吉に彼の助命嘆願をおこなったことで許され、後に氏邦は前田家の家臣となった。

  鉢形城が落ちたことで、残された北条側の支城は八王子城のほか、忍城(埼玉県行田市)と津久井城(神奈川県相模原市)だけとなった。忍(おし)城について本ブログでは、行田市古代蓮や古墳群を見るために訪れた際に触れている(cf.16・古代蓮の項)。忍城は北条氏に従属する国衆である成田氏の居城で、「浮き城」とも呼ばれた難攻不落の城だった。八王子城(6月23日)や津久井城(6月25日)が落城した後も石田三成率いる秀吉軍からの攻撃に良く耐え、結局、小田原城の開城(7月5日)が決定されたことで忍城も籠城を解くことになった。津久井城は北条家当主に支配権があるものの実際の領地運営の多くを城主(内藤家)に委任されていた。八王子城の落城後に徳川軍の本多忠勝が中心となって津久井城に攻め込んだが、大きな抵抗もなく落城した。

 八王子城北条氏照が造営した山城である。先の「滝山城」の項で述べたように、1569年の武田軍の侵攻によって滝山城は落城寸前にいたったこともあり、より守りが強固な城の必要性を氏照は痛感していた。その一方、彼は北条側の軍事外交権の一切を任される立場であったため、城建設に実際に着手したのは80年代に入ってからとされている。70年代は北条氏が4代当主氏政(氏照の兄)のもとで領域を下野(栃木県)や下総(千葉県)にまで広げた時期で、下野の小山領や下総の栗橋領は氏照の支配下に組み込まれた。かように氏照にはこの時期、頼りないダメな兄の氏政に変わって北条家の勢力拡大のために奔走していたので、八王子城の造営を指揮する余裕はなかったと考えられる。

 八王子城の構想自体は1570年代にはすでにあったとされ、77、78年頃には根小屋地区(家臣団の集落地)の建設が始まっていたという説がある。さらに、『新編武蔵風土記稿』には、「天正6年(1578年)北条陸奥守氏照、滝山の城をここに(深沢山のこと)引移しける時、當社(牛頭山神護寺のこと)を城の守護神と定めける」とあり、八王子城への移転を78年であると記している。もっとも、79年の武田勝頼との戦いではあくまで滝山城を本拠にする予定だったようなので、要害地区(城の中核部分)そのものの建設はまったくといいほど進んでいなかったと考えられる。80年の3月に氏照は、織田家へ家臣の間宮綱信を使者として派遣したが、その際、間宮は安土城をつぶさに見学し、その地で得た知見を八王子城の造営に生かしたとされている。とりわけ、石垣の構築法は安土城に酷似していると考えられている。このように、70年代には八王子城の萌芽はあったものの、本格的な工事は行われていなかったと思われる。

 氏照が八王子城造営に最終的なゴーサインを出したのは82年(本能寺の変があった年=”十五夜に(1582)本能寺の変を知る”と年号を暗記した)だという説がある。この年に武田軍は織田軍に攻め込まれ、武田側の要衝であった高遠城(長野県伊那市)を守っていた武田勝頼の異母弟である仁科盛信が、織田信忠(信長の長男)軍に殺害され僅か一日で落城した。この高遠城の敗北によって武田側は一気に劣勢に追い込まれ、同年に武田氏は滅亡したという経緯があった。これを知った氏照は織田軍、さらに豊臣秀吉軍に対抗するために鉄壁の守りを有する山城の建設を急ぐことになったと考えられている。

 八王子城が氏照の居城であったことを示す史料は『狩野宗円書状』が初見らしい。これは天正15年(1587年)3月に記されたもので、遅くとも87年には城としての体裁がそれなりに整っていたようだ。それより早い時期に氏照が八王子城に入っていたことを示す確実な証拠はないらしいが、史家の間では傍証から84年頃には滝山城から八王子城に移ったと考えられているようだ。これは、氏照に関して残されている史料からは84年以降、「滝山城」の文字が一切、現れなくなったからとのことだ。八王子城移転は84年説、87年説があるにせよ、この城の規模はとても巨大な(敷地面積は400ha以上)もので、しかも山城であるために、落城した90年6月の時点では未完成だったする説は非常に多い。

なぜ、八王子城なのか?

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八王子城は深沢山(現在は八王子城山)に造営された

 北条氏照はなぜ、平地にではなく、時代に逆行するような山城をあえて築いたのだろうか?なぜ、八王子の深沢山に城を築くことにしたのだろうか?

 戦国時代の後半期ともなると、城は軍事拠点としてだけでなく政治・経済の中心地的な意味を有するようになる。そもそも室町時代貨幣経済が急速に発展した時期でもあった。貨幣経済そのものは鎌倉時代に中国から「宋銭」が入ったことで盛んになり始めていたが、室町期は中国から「永楽通宝」が入って日明貿易勘合貿易)が盛んになり経済は大いに発展を遂げた。優美で煌びやかな北山文化金閣寺が代表的)、簡素で洗練された東山文化(銀閣寺が代表的)が室町時代に栄えたのは、その背後に経済発展があったからと考えられる。

 戦国時代は群雄割拠の混乱期であり経済発展は一時、停滞していたこともあったようだが、戦国大名はその力を蓄えるためにも農業政策を重視したことも確かである。当時の言葉に「ただ草のなびく様になる御百姓」というのがある。当時の農民はある点では身軽なので、領主の悪政に対しては、いつでも村を捨てる(逃散)覚悟があった。それゆえ、支配者は農民との良好な関係を保つよう努力した。氏照が築いた滝山城であれば、先の項で述べたように城内の中腹には2つの池があったのだが、これは家臣団のための溜池というばかりでなく、谷戸に住む農民のための農業用水としても用いられた。後述するが、これは八王子城でも同様で、城内を流れる城山川にはいくつか堰を築いて池を造り、この水を下流に住む農民に提供していたと考えられている。

 話を元に戻す。上記のように経済の発展から城は平地に造り、天守閣や御三階櫓(やぐら)から庶民の暮らしを睥睨するという姿が一般的になって来てはいたのだが、氏照には武田勢、さらに織田や秀吉勢の攻撃から守り抜かねばならないという事情と、安土城の鉄壁な防御態勢を学習済みであったことから、あえて守り優先の山城の構築を考えたことだと思われる。

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八王子城の出城があった小田野城

 八王子の深沢山は地理的に絶妙な位置にある。北側には案下道(現在の陣馬街道)、南側には古甲州道が通っている。いずれも、甲斐から武蔵に抜ける重要な道である。案下道には和田峠、古甲州道には小仏峠がある。1569年の滝山合戦では小仏峠を越えてきた武田勢の別動隊である小山田信茂の軍勢の奇襲に苦戦を強いられた。この反省から小仏峠側の守りを固める必要があったのだ。一方、案下道側には氏照が育った大石家の浄福寺城(八王子市下恩方町)があり、さらに家臣の小田野源太左衛門が居る小田野城(八王子市西寺片町、真下に都道61号線・美山通りのトンネルがある)という出城があった。

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深沢山九合目からの眺め。関東平野が一望できる

 後述するが、八王子城跡のある場所の多くは国有林となっているために現在は樹木の伐採が禁じられており、登山ルートの大半は見通しが良くない。しかし、写真の通り九合目付近(標高約430m)は足元が切り立った崖になっているためか樹木がほとんどないので関東平野がよく見渡せる。城があった当時は周囲の状況を知るために当然、樹木の大半は伐採されていたはずだ。西側には景信山(標高727m)、南側には高尾山(標高599m)があるために見通しは良くないが、北側の案下道方面、北東側の滝山城、拝島方面、東側の武蔵国衙(つまり府中)方面、南東の鎌倉方面は登山道の至る場所からはっきりと視認できたと考えられる。そうでなければ、敵の動きは察知できないからだ。

氏照と宗教

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八王子城中の丸跡に建つ修験者像

 氏照は小田原北条家の軍事外交権を掌握していた武闘派という面だけでなく、様々な宗教政策を用いて自らの領地に住む民衆の人心掌握を図っていた。実際、八王子城が落城する際の戦いには多くの宗教関係者が参加していた。 八王子市を代表する寺で、童謡『夕焼小焼』の鐘の音の候補のひとつとされる「宝生寺」(cf.18・浅川旅情後編)の十世頼紹、西蓮寺の六代住職の祐覚、大国魂神社(当時は六所宮)の大宮司の猿渡(さわたり)盛正はこの戦いに北条側で参戦して戦死している。

 また、氏照の配下には多くの修験者・山伏がいて、八王子城小田原城との伝令役、敵方(上杉勢、武田勢、豊臣勢)の動きを探る間諜役として活躍していた。そもそも、深沢山そのものが修験道の聖山であり修行場であった。八王子西部の山間地には熊野修験の霊場が多く存在し、もっともよく知られているのは深沢山の隣にある高尾山だろう。また、周辺には「今熊神社」や「熊野神社」が数多く存在している。

 修験道の開祖といえば有名な役小角(えんのおづぬ、役行者)の名が挙がる。奈良の吉野山から紀伊・熊野山中への大峰奥駈道を開拓したことで知られている人物だ。その流れをくむ本山派修験宗の総本山は京都にある聖護院である。聖護院といえば「聖護院八ツ橋」「聖護院大根」「聖護院かぶ」などがとても有名だが、私にとっては府中一中時代の修学旅行の宿泊先が「聖護院御殿荘」だったということにもっとも強い印象があり今でも記憶にある。京都や奈良で何を見学したのかは全く覚えていないが、修学旅行専用列車が「ひので」だったこと、その夜行列車「ひので」の車内で学年一の美少女に頭を強く叩かれたこと、そして件の御殿荘の部屋で枕投げどころか布団投げをおこない「ふとんがふっとんだ!」と叫んでいたことなどが懐かしき記憶として鮮明に残っている。

 15世紀後半に著された『廻国雑記』は北陸、関東、奥羽地域の寺や名所を巡った紀行文で、当時を知るための史料的価値はきわめて高いという評価があるが、これを著した道興准后は聖護院の門跡であった。この作品は表面的には歌枕を訪ね歩く旅の様子を記録したものとされているが、道興准后の真の目的は、各地を巡って熊野先達の組織化を図るというものだったとされている。こうしてこの時期に、八王子方面を支配していた大石氏、ついで北条氏照が修験者との結び付きを強固なものにしたのだろう。

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八王子城跡の登山道入り口にある鳥居

  深沢山には「八王子神社」がある。開祖は普賢菩薩・妙行で、山頂の岩屋で修行中に牛頭天王と八人の王子が現れ、八王子権現社の設立を勧請したという。牛頭天王は京都祇園社の祭神であり、日吉山王権現とも称される。日吉(ひえ)は比叡=比叡山を表し、天台宗の本山であると同時に山岳信仰の中心地でもある。また牛頭天王スサノオの本地とも考えられているので、この宗教的立場は山岳信仰天台宗神道が融合したものである。妙行が開いた八王子権現朱雀天皇に認知され、牛頭山神護寺(現在の宗閑寺)の名が与えられた。この信仰は八人の王子を祭神とするため、ここの地名は八王子と称されるようになった。

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八王子市の名の由来となった八王子神社

 八王子神社の社殿は八王子城跡・中の丸にある。なにやらうらぶれた様相ではあるが、この山は前述のように国有林となっているので改築・新築は容易ではないのかもしれない。屋根の一部が折れ曲がっているのは、昨年の台風15号の強風によるものだろう。

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隙間だらけの社殿の中をのぞく

 隙間だらけの社殿の中をのぞいてみた。中には小さいがそれなりの風格をもった社があった。バラック風の社殿はこの立派?な社を保護するための覆いと考えれば、うらぶれた外観も了解可能かもしれない。そう、平泉・中尊寺金色堂を守る「覆堂」のごとくに。いや、それにしてもみすぼらしい。ここは市名の発出点なのに!

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望遠レンズで高尾山方面をのぞいた

  二の丸(松木曲輪)からは八王子山岳信仰の親玉格である高尾山が見える。写真は標準換算350ミリの望遠レンズでのぞいたものなので、肉眼ではもう少し小さく見える。写真にある建造物はケーブルカーの駅舎かと思われる。

 深沢山(現在の八王子城山)と高尾山との間には古甲州道が通り、現在では中央自動車道首都圏中央連絡自動車道(通称は圏央道)とが通っている。中央道は古甲州道に並行しているので深沢山と高尾山との間の谷底を走っているだけだが、圏央道は両者をトンネルを使って串刺しにしている。ラジオで交通情報を聞いていると、高速道路の渋滞情報ではよく「圏央道八王子城跡トンネルで〇キロ渋滞」「圏央道・高尾山トンネルで△キロ渋滞」というアナウンスが流れる。両者のトンネルの間はわずかばかりだけ地上に顔を出し、そこには中央道とをつなぐ八王子ジャンクションがある。中央道のほうは地表を進むのでまだましだが、圏央道のほうは青梅側から合流するにせよ厚木側から合流するにせよ、トンネルを出るとすぐ側道に入らなければならないため、トンネル出口付近の事故はとても多い。心霊スポット好きの知人はこれを八王子城の悲劇の祟りだと言うのだが……お前の頭のほうが祟られているのでは、と反論したくなるが……最近では大人の対応をしている。

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神護寺があった場所には氏照と家臣団の墓がある

 氏照は1559年頃に由井(現在の八王子市域)の領主として浄福寺城に入り領国支配を開始した。それまでは由井源三を名乗っていたが、この時期からは養子先の大石姓を用いるようになった。

 61年には高尾山に椚田(くぬきだ)谷の一地域を寄進した。その背景には、当時は越後の上杉謙信と関東の地の争奪戦をおこなっていたため、武運を祈願し、あわせて人心収攬を図るという目的があった。62年には青梅の金剛寺に門内不入権を与え寺領を安堵した。65年には座間の星谷寺に竹林伐採を禁じる制札を立てた。これも寺領が外部の者に荒らされないよう保護したものだ。同年、府中の高安寺に寺中棟別銭免除を認めた。いわゆる不輸権の承認である。67年には八王子の大寺である宝生寺を滝山城下への移転を勧告した。これは未達成であったものの、城下に著名な寺を置くことで人心の掌握を一層、推し進めようする考えに基づいている。69年頃に牛頭山神護寺を深沢山の麓に建立した。さらに71年には神護寺境内での殺生、竹木伐採、乱暴狼藉の禁止をおこなった。81年には高麗郡(現在の狭山市)にある笹井観音堂の年行事職の任免権を氏照が得た。この観音堂は聖護院本山派の武蔵国の拠点のひとつであったため、氏照は修験者・山伏との結び付きを一層、強めることになった。

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神護寺は現在、宗閑寺と呼ばれている

 中世、寺社の力はとても強く、ときには将軍や朝廷の存在を脅かすほどの存在であった。鎌倉時代の初期には新仏教の浄土宗・浄土真宗臨済宗曹洞宗などが武家や庶民の間に広まり、それに対抗すべく、旧来からある天台宗真言宗も勢力を拡大し政治に対抗した。例えば1414年の『高野山文書』には以下の下りがある。「部外者の検断吏が境内に入り、そのに逃げ込んだ誰かを罪人だと称して、問答無用で理不尽に殺害することは認めない。犯罪者であることが事実だとしても、高野山の沙汰所の許可を得てから逮捕せよ」。これは、高野山境内の入口に立てられた制札の文言である。

 中世の寺社は「アジール」としての性格を有していた。アジールは「平和領域」「避難所」という意味がある。「駆け込み寺」「縁切寺」も一種のアジールである。一般には「平和聖性にもとづく庇護・およびその庇護を提供する特定の時間・場所・人物」とアジールは定義されている。

 アジールの背景には宗教的・魔術的観念が必要不可欠で、アジールには周囲よりもオレンダまたはハイル(ともに神的な力を意味する)が凝集されており、オレンダ・ハイルに接触した人間はアジールの保護を受ける。これを「感染呪術」とか「接触呪術」といい、人々が神仏に触れたり(ex.とげぬき地蔵)、神社仏閣に参拝したり(ex.初詣)、お札やお守りを有するのはオレンダに感染し、自己の安寧を図るためだ。

 塀に「立小便禁止」と記すより、鳥居の絵を描くと効果があるとされているようで、今でもときおり見掛けるが、これもアジールの一種と考えられる。観念的動物である人間は鳥居に立ションするのは憚られるが、犬には信仰心がないので効き目はない。私の場合はオレンダには感染しないので鳥居の絵は通用せず、むしろ的になる。とはいえ、緊急避難時以外は塀に立ションはしないが。近代になると社会は合理化が進み、政治も「伝統的支配」や「カリスマ的支配」から「合法的の支配」へと移行する。ウェーバーはこれを「脱呪術化」と呼んだ。

 氏照は先に述べたように寺社勢力を取り込むことによって領地支配の安定化を図った。しかし、それだけでは民衆の心を真に掴むことはできない。そのためもあってか、1573年には西蓮寺内にある「御嶽権現」の落成を祝って「龍頭舞」が氏照の命によっておこなわれ、以来、この行事は現在でも伝統芸能として八王子市石川町で挙行されているそうだ。また、やはり現在、狭間町でおこなわれている「獅子舞」は90年に氏照から獅子を拝領したことが起源とされている。このようの、民衆と一体となって祝い事をおこなう。これもまた「ハレの時と場所」を共有するアジールの一種と考えられる。

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宗閑寺の梵鐘は八王子城合戦に備えて供出させられた

 小田原北条氏とは直接のつながりはないが(最近の研究では伊勢新九郎は北条氏の遠縁であることが判明している)、鎌倉時代に執権政治をおこなった北条泰時は1232年に「御成敗式目」を制定している。この第一条は「神社を修理して祭りを大切にすること」、第二条には「寺や塔を修理して僧侶としての勤めをおこなうこと」とある。第三条に至って「守護の仕事について」の定めが出てくる。御成敗式目武家社会の伝統や慣習を明文化したものであるにも関わらず、冒頭には「宗教政策」についての定めがあるのだ。また、小田原北条家の祖である北条早雲伊勢新九郎)は北条家の家訓として「早雲寺殿二十一箇条」を定めたが、この第一条は「仏神を信じなさい」とある。やはり、冒頭には宗教について述べている。ことほど左様に、この時代は政治と宗教が密接に関係していた。

 「御成敗式目」は中学校社会科にも出てくる(多分?)ほど日本史では基礎中の基礎知識なのだが、これが制定されるようになった背景は案外、知られていない。当時、1230年に始まった「寛喜の飢饉」が猛威をふるっていたのだ。30年7月には岐阜や埼玉で降雪があるなど冷夏と長雨続きだった。だが、31年には一転して酷暑となり、「天下の人種、三分の一失す」と言われるほど不作の連続だった。こうした領民の苦難を精神的に救済するため、何よりもまず為政者が神仏の敬うという方策がとられたのである。併せて改元がおこなわれて「貞永」に変わった。「御成敗式目」が「貞永式目」とも呼ばれるのはこのことによる。

 氏照もまた早雲に倣い宗教や宗教家を保護したが、それには限界があった。豊臣秀吉との対立が深まりつつあった1587年、鉄砲、大筒、弾丸の材料が底をついたため寺社にある梵鐘の供出を開始したのである。牛頭山神護寺の鐘も例外ではなかった。さらに本来、公界者(俗界と縁を切った者)であるはずの修験者・山伏を伝令や間諜に使い、俗世間に引き戻した。また、農民も八王子城建設に駆り出され、さらには兵士に加えられた。

 アジールとしての八王子城は一転、戦場へと転化したのである。

 

*後編に続きます

〔番外編〕花に誘われ春紀行

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春の妖精・カタクリの花

花の命は短いけれど

 前回でも述べたように3月下旬は、今や山野草の代表格となったカタクリの花が満開になる時期だ。例年は埼玉県小川町にある「カタクリニリンソウの里」に訪れ、山の斜面に植えられているカタクリと、手前の平らな場所に群生して咲くニリンソウに逢いに出掛けているし、今季もその予定だったけれど、当日に急用が入ったために午後からしか時間が取れなかったので埼玉まで行くことは断念し、代わりに前回に紹介した武蔵村山市にある「野山北公園」の『カタクリの里』を再訪した。

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カタクリの花の群生

 3月下旬、野山北公園の丘の斜面に植えられている無数のカタクリは、全体としては7、8分咲き程度で、完全に花を開いているものもあれば開花途上のもの、まだ蕾状態のものもあった。ここの規模は小川町のそれの5分の1程度だが、見ごたえは十分にある。公園並びに周辺には散策コース、丘の斜面に設えられた遊具施設、運動場、無料釣り堀、それに立ち寄り温泉もあるので、多彩な楽しみが体験できる場所だ。カタクリは”スプリング・エフェメラル”(儚い春)の象徴的存在なので、花に触れる期間は短いけれど、春の到来を実感するためもあって「カタクリの里」周辺を訪れる人は多い。

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まだ開花途上のものも多くあった

 私の場合は「カタクリ」と「野山の散策」の二つの目的だけにここを訪れるが、それでも年に7,8回はこの里山に出掛ける。もっとも、カタクリは春のひとときを楽しませてくれる花だし、野山の散策は五月蠅い虫と長虫が姿を現さない冬・春に限られるので、カタクリに触れると、その年の「野山北公園」詣は終了となる。

 花の命は儚いけれど、地下で命を繋いでくれている間は再び、次の年も私の目や心を楽しませてくれる。近い将来、私はここを訪れることはできなくなるだろうが、花はそんなことには関わりなく、季節の廻りにしたがって人々を和ませる。

ゼラニウム・フェアエレン

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ゼラニウムには無数の品種がある

 フウロソウ科ぺラルゴニウム(テンジクアオイ)属の多年草で、種類の多いゼラニウムの仲間では「センテッド(ハーブ)・ゼラニウム」に分類される。葉や茎に香りがあり、バラ、オレンジ、レモンのような芳香を有するものが多い。写真の”フェア・エレン”はパイン(松)の香りがすることで知られている。

 ヨーロッパの集合住宅の窓辺には”ウインドウボックス”が設えられており、ここには花を置くという習慣がある。窓辺を花で飾るというのは個人の趣味というより市民としての公共心を表現することに結び付けられている。そこに飾られる花の大半は四季咲きの「ゼラニウム」であり、夏場はこれに「ペチュニア」が加わる。

 日本でも長年、園芸品種を育てている趣味人は四季咲きのゼラニウムを好んでいるようだが、新興住宅地を徘徊して玄関や庭先にある花に接してみると、この花を見かけることは案外少ない。くだんのゼラニウムはもはや古典種であって、今の人の心を惹きつけることはないのだろうか。残念なことである。今の時期はパンジービオラが盛りだが、少しずつチューリップが開花し始め、その花期が終わると次は初夏の花の代表格である「ペチュニア」がポットやプランターの主役に躍り出ることになる。

 ゼラニウム(Geranium)の属名は現在ではペラルゴニウム(Pelargonium)だが、18世紀の博物学者で「分類学の父」(ラテン語二名法を確立)と呼ばれているスウェーデンのリンネがこの花をゼラニウム属に分類したため、今でも園芸店や園芸家には「ゼラニウム」と呼ばれている。園芸品種名としてのゼラニウムには、四季咲きのゼラニウム(古典種)のほか、多彩な花色をもつ改良種で一季咲きの「ペラルゴニウム」、蔓(ツル)性品種である「アイビーゼラニウム」、そして写真に挙げた「ハーブ(センテッド)ゼラニウム」の4種に大別される。私が20年ほど前、園芸にどっぷりとはまっていた頃は、いつもメインの花として四季咲きゼラニウムを庭やプランターに置き、ハンギングポットにはアイビーゼラニウムを用いることが多かった。

キジムシロ(雉筵)

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ヘビイチゴミヤマキンバイと同じ仲間

 バラ科キジムシロ属の越年草もしくは多年草。春から初夏にかけて日本全土の野山に咲くありふれた花で、ヘビイチゴミヤマキンバイと同属。花の大きさは10~15ミリ程度とひとつひとつは小さいものの、緑の葉の上に咲く黄色の花弁がよく目立つ。ミヤマキンバイ(深山金梅)は高山植物として大切に扱われるが、本種やヘビイチゴは雑草扱いされるので注目されることはまず少ない。しかし、よく見るとかなり美しい存在である。

チオノドクサ(雪解百合) 

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早春から咲く球根性多年草

 キジカクシ科チオノドクサ属の球根性多年草クレタ島キプロス島、トルコが原産地。耐寒性があるので植えっぱなしでも例年、晩冬には目を出し、早ければ2月には花を咲かせる。スイセンと同じ季節の花と思えば良い。

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青紫の花びらが美しい

 写真のものは「ルシリエ」「ルシリアエ」「フォーベシー」などと呼ばれている品種で交雑が進んでいるためか色の濃淡がかなりある。また、花色が白やピンクのものもあるが、個人的にはこの花弁の先端が青紫で中心部が白色のものが好みである。

カレンデュラ”冬知らず”(ヒメキンセンカ、ホンキンセンカ

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開花期間がとても長い

 キク科カレンデュラ属の多年草で原産地は地中海沿岸。キンセンカは改良品種がとても多く、寄せ植えや切り花としてよく用いられる。ここで取り上げたキンセンカはその仲間の中ではもっとも地味なもので、”ハーブ”として重用される以外は野草化し、道端でも見掛けることがよくある。

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日があまり当たらないときは花弁は閉じ気味

 「冬知らず」の品種名がある通り寒さにはかなり強く、日当たりの良い場所では1月頃には開花し6月頃まで咲く。学名は"Calendula arvensis"で、属名のカレンデュラの語源はカレンダーである。カレンダーは”帳簿”を意味するが、この花と帳簿との関係は不明だ。写真のように、曇りのときは花は半開き状態だが、ひとつ上の写真のように日当たりが良いときは花弁を目いっぱい開き、花の中心部も笑顔になる。

オダマキ(西洋オダマキ

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改良品種が無数にあるオダマキ

 キンポウゲ科オダマキ属の多年草。50センチほどの高さに直立し、上部に多数の花を咲かせる。日陰でもよく育ち多くの花を咲かせるので日当たりの少ない庭やベランダで育てることが可能だ。

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オダマキは交雑しやすいので、多数の花色がある

 セイヨウオダマキは元々、交雑種から育成されたものなので多数の品種があり、花の形や花色が異なるものがとても多い。

 山野草として扱われる日本原産のオダマキには、高山植物として扱われる「ミヤマオダマキ」のほか、「ヤマオダマキ」などがある。こちらは高さが10~20センチほどで、うつむき加減の美しい花を咲かせる。

オランダカイウ(阿蘭陀海芋、カラー、リリー・オブザナイル)

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カラーの仲間だが湿地を好む

 サトイモ科オランダカイウ属の球根性多年草。カラーの仲間はその立ち姿と清楚な花を有することから切り花やブーケ(花束)に用いられることが多い。カラーの語源はその花の形が襟や袖の形を整えるカラー(collar)に似ているから、清楚な美しさを有するのでギリシャ語のカロス(美しい)に由来するなど諸説ある。カラーは色が豊富だが"color"を語源とするわけではない。

 切り花やブーケに用いられるカラーは乾地で栽培されるものだが、「オランダカイウ」はエチオピアを原産地とするものでカラーの原種の中では唯一、湿地に育つものである。「リリー・オブザナイル」の別名があるようにアフリカでは大切な花とされ、エピオピアでは国花に指定されている。この花の学名は”Zantedeschia aethiopica”であり、種小名に「エチオピア」の文字がある。なお、写真は国分寺崖線の湧水を集めた「お鷹の道」に沿って流れる小川に自生するカラーを撮影したもの。

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オランダカイウは大きな仏炎包を有する

 カラーの花は「花弁」ではなくガクが変化したもので、その特徴的な形から「仏炎包」(ふつえんほう)と呼んでいる。後に挙げるが、「ミズバショウ」もこの「仏炎包」を有する。

ベニバナトキワマンサク(紅花常盤万作、アカバトキワマンサク

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赤い花は通常種が変異したもの

 マンサク科トキワマンサク属の常緑性低木。常緑性なので冬でも少し葉は残るものの春になると新しい葉が生長する前に写真のような花を付ける。通常のトキワマンサクははクリーム色の花を咲かせるが、突然変異で赤い花を付けるものが出来て、現在ではこの「ベニバナ」のものが主流になっている。写真のものはやや花が少ないが、マンサクの語源と言われる「豊年満作」のように枝いっぱいに細い帯のような花を付けるものも多い。 

ムラサキケマン(紫華鬘)

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ホトケノザに似た感じの花。毒草として知られる

 ケシ科キケマン属の越年草。やや湿った木陰などで見られる「雑草」。花の形は「ホトケノザ」に似ているが、こちらの草のほうが花数は多く、とくに頭頂部には写真からも分かる通りビッシリと咲く。花冠は筒状でその長さは10から20ミリ程度。先端部は唇形状に開く。草全体が有毒でアルカロイド成分を有する。この特性から薬草に分類される。これを食した場合の中毒症状は嘔吐、酩酊状態、昏睡、心臓麻痺などがある。ただし、現在のところ死亡例は発表されていないらしい。

シャガ(射干、胡蝶花)

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やや湿り気のある木陰に群生する

 アヤメ科アヤメ属の多年草。中国原産だがかなり昔に日本に入ってきたためか、学名は”Iris japonica"になっており、種小名には「日本の」とある。山里のやや湿った木陰にはどこにでも見られるが、この草花は種はできず地下茎のみで増えるため、人為的に移植したか、種を作る中国産のものが移入されているのかは不明なようだ。

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花は清楚でなかなか美しい

 花は白地に青とオレンジの模様が混じりなかなか美しい。今回は国分寺崖線下の小川、府中崖線下の小川、小金井の貫井神社境内などで群生する様子を観察した。数年前は武蔵村山市の六道山公園の散策路でこの花の大群生が見られたので今回、久しぶりに出掛けてみたのだが、残念ながらすべて撤去されていた。葉っぱすら見掛けなかったので、地下茎ごと撤去されたようだ。種子はないので、今後はシャガの群生を見ることはできないだろう。残念なことである。

 シャガの大群生といえば、奈良の吉野山の斜面を思い出す。数年前までは毎年、吉野山へ桜見物に出掛けていたが、山頂から下る際はいつも谷沿いの道を使った。そこには一面、シャガの大群生があった。一目千本のヤマザクラはこの上ないほど見事に咲くが、その陰にあっても、シャガの凛々しい花の群生は負けず劣らず見応えがあった。

ヤブレガサ(破れ傘)

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葉の形が破れた傘のようにみえる

 キク科ヤブレガサ属の多年草。山里の林の日陰場所で目にすることが多い。茎は高さ1mほどまでに伸びる。花は初夏に付けるが10ミリ程度の小さな花なので、開花に注目する人はまずいない。私自身、この花には何の関心も抱かない。

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ヤブレガサの新芽

 この山野草の魅力は地中から顔を出し始めた新芽の姿形にある。私は今の時期に山里へ散策に出掛けたときは木陰に入るとこのヤブレガサの新芽を探すことがしばしばある。新芽は写真のように綿毛に覆われ、破れた傘をすぼめたような姿をしている。これが愛らしいということで、自然のものだけでなく改良園芸種まで出回っている。斑入り(ふいり)のものがとくに人気が高いらしい。山野草の世界はかくも不可思議である。

カキドオシ(垣通し、連銭草)

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ツル性の草花なので地面を這うように育つ

 シソ科カキドオシ属の多年草。花は10~15ミリ程度の大きさなのでこの花の存在に気が付かない人がほとんどだ。しかし、一度でもこの存在を意識すると毎春、野原でこの花を見つけることが楽しみのひとつになる。現実には、日本全国のどこにでも自生し、身の回りにある野原や道端でも簡単に見つけることができる。

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群生するカキドオシ

 そう、あなたがよく遊んでいた春の原っぱには、こんなにも小さいが、これほどに愛くるしい「雑草」が地べたを覆っているのだ。そして、まったく存在に気づかず踏みつぶしていたのだ。

カウスリップ(黄花九輪桜)

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残念な名前だが花はとても美しい

 サクラソウサクラソウ属の多年草。標準和名の”キバナクリンザクラ”ならその姿に相応しいが、英名の”カウスリップ”はとても残念で可哀そうな名付けである。cow-slipは「牛の糞」という意味になるからだ。それでもこの花は食用にもハーブとしても薬草としても用いられる。イギリス人は「牛の糞」を口にするのだ。一方、ロシアではこの花を「初花」と名付け、春の到来を告げる存在と位置付けた。属名がPrimula、すなわちプリムラ=プライムなのだから「初花」であっても何の不思議はない。

 姿形は、以前に取り上げた「プリムラ・ポリアンサ」に似ている。というより、プリムラの原種がこの花なのだ。園芸種のプリムラよりはやや背が高くなり花付きも今一つといった感じだが、写真からも分かる通り、本家本元ならではの深い味わいがある。もっとも、この品種の姿そのままに花付きを良くしたり花色を変化させたりした改良種もある。そちらのほうは何やら徒長(間延び)したプリムラのようで、個人的には好みではない。

ミズバショウ水芭蕉

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近年は至るところで栽培されている

 サトイモミズバショウ属の多年草ミズバショウ尾瀬の結び付きは誰もが知るところで、この花を見るためには「はるかな尾瀬遠い空」まで出掛けなければならないと思っている人は案外多い。実際には、池(沼)を有する「身近な公園」でも多く栽培されている。写真は「カタクリ」の項で挙げた武蔵村山市の野山北公園のもので、3月中旬から4月上旬頃が見頃だ。本場?の尾瀬では5月から6月上旬が見頃となる。低地では春が来ると、高地では夏が来ると思い出す花なのだ。今年はコロナ禍が拡大中なので、尾瀬ミズバショウも落ち着いて咲き揃うことができるのではないか?

 オランダカイウのところでも触れたが、白い花のように見えるのはガクが変化した仏炎包。花は中心にある「ツクシ状」のものでこれを肉穂花序(にくすいかじょ)という。ミズバショウの名は沖縄や奄美地方に群生するイトバショウに葉の形が似ており、清らかな水辺に生育することからこのように名付けられた。なお、イトバショウの葉の繊維は「芭蕉布」の原料になる。

イカリソウ(碇草、錨草、淫羊藿(いんようかく))

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名前の由来はその花の形にあることは言うまでもない

 メギ科イカリソウ属の多年草。たとえ、この花の名前を知らなくても船のイカリに似ているということはイメージされるはずだ。耐寒性があり日陰でもよく育ち花色がきれいな山野草として人気が高い。また、薬草としてもその効能はよく知られており、強壮薬として用いられる。中国名は「淫羊藿(いんようかく)」であり、その名前から推測できるように精力剤の原料となる。

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白花が特徴的なトキワイカリソウ

 写真のトキワイカリソウイカリソウの近縁種。人気の花ということもあっていろいろな原種や近縁種、改良種が見いだされている。初心者にも育てやすいということもあり、春の山野草として安定した人気を誇る。”夕映”や”多摩の源平”などという洒落た名前をもつ品種は愛好家の間で評価が高い。

スミレ(菫)

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タチツボスミレ~最近では一番多く見かける

 スミレ科スミレ属の多年草。スミレの狭義の学名は"Viola mandshurica"で、スミレ、や写真に挙げたタチツボスミレ、アツバスミレなどが種小名の”マンジュリカ”に属する。野原や山里、ときには公園や路地でよく見かけるスミレはタチツボスミレ(立坪菫)の場合がほとんど。葉が丸みを帯びた心形であればタチツボスミレ、葉が長楕円形であればスミレだと区別がつく。もっとも、スミレの仲間は原種だけでも60種ほど、さらに交雑種も数十種あると考えられているので、道端に咲いているスミレが園芸種のこぼれ種から生育した可能性もなくはない。なお、種小名の「マンジュリカ」は「満州の」という意味である。

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白い花に青紫のすじが美しいアリアケスミレ

 スミレ=Viola=ヴァイオレットなので花の色は紫と思いがちだが、写真のアリアケスミレのように白色のものもあり、アツバスミレは白と紫のバイカラー、キスミレはその名の通り黄色などの種類もある。世界では約300種もあるらしいので、スミレの世界は深さも広さもある。

 アリアケスミレの学名は”Viola betonicifolia"なので、狭義のスミレ(マンジュリカ)には属さず、通常は「スミレの仲間」として区別される。写真のスミレは愛好家の渾身の作なので色のバランスがとても良いが、花色は変異しやすいためどんな色の花が開くのかは育ての親の楽しみでもある。

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花弁のよじれが特徴的なニョイスミレ

 写真のニョイスミレ(如意菫、ツボスミレ、”Viola verucunda")もマンジュリカではないスミレの仲間。写真のように花弁がよじれて咲くのが特徴的。花は白を基準に紫色のすじが美しい。故志村けんの歌でよく知られる東村山の庭先にある多摩湖(実際には東大和市)の東側にある狭山公園の道端で見つけた。一帯は無数のタチツボスミレが満開状態だったがその一角だけにニョイスミレの群生があった。広大な公園の敷地の中で、ここだけにタチツボスミレではない種のスミレが咲いていたのである。合掌。

ショウジョウバカマ(猩々袴)

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湿った谷間に咲く人気の山野草

 シュロソウ科ショウジョウバカマ属の多年草。日本北部、サハリン南部、千島列島南部を原産とする山野草。原産地から分かる通り耐寒性はとても強い。半日蔭のやや湿った谷間に咲く。また、雪解け水が流れ込む平地にも生息する。背丈は10~20センチほどのかわいらしい野草で、園芸種としても人気がある。ただし、花期が終わって種子を作り始めると花茎は30センチ以上に伸びることもある。花は赤紫色が基本だが、ピンクや写真のように白色のものもある。

アミガサユリ(編笠百合、バイモユリ、貝母)

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絶滅危惧種に指定されている山野草

 ユリ科バイモ属の蔓性の多年草。地下に鱗茎をもち、梅雨時期から休眠する”スプリング・エフェメラル”である。全草にアルカロイドを含む「毒草」であるが、この特性を利用して「薬草」として用いられることも多い。中国原産で700年前から栽培されていた。日本には江戸時代の享保年間に移入された。現在は野生化しているものもあるが、園芸種として販売されてもいる。近縁種にはクロユリなどがある。

ノウルシ(野漆)

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ウルシの名があるだけに有毒だ

 トウダイグサ科トウダイグサ属の多年草。かつては河川敷や湿地帯で群生していたが、開発が進んだことでその姿を見る機会は激減した。名前に「ウルシ」が付いているとおり毒草だが、本来のウルシとはまったく関係はなく、葉や茎からウルシに似た乳液を出すことから名付けられたようだ。この液体に触るとかぶれを起こす。花弁やガクはなく、花のように見えるのは葉の一部であり、雄蕊や雌蕊を包むような形になっている。これを「杯状花序」という。

ミミガタテンナンショウ(耳形天南星)

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独特な仏炎包をもつ花

 サトイモ科テンナンショウ属の球根性多年草。学名は"Arisaema limbatum"で、種小名の「リムバートゥム」は「耳の大きい」という意味。球根は有毒ながらでんぷん質を多く含むので食用とされることもある。 仏炎包の左右に張り出しがあるので、この特徴から「ミミガタ」の和名が付いた。山野の肥沃な場所によく生育するため、里山の散策では案外目にすることがある。

タンチョウソウ(丹頂草、イワヤツデ

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花や葉の形が独特な山野草

 ユキノシタ科タンチョウソウ属の多年草中国東北部朝鮮半島の渓谷の岩場などに自生する。耐寒性が強いために育てやすく、山野草の園芸種として人気があり改良種も多い。花色は白だが、改良種には咲き始めは赤色に染まるものもある。葉の形が「ヤツデ」に似ているので「イワヤツデ」という別名があり愛好家にはこの名のほうが通りが良い。タンチョウソウの名は、その花のつぼみが赤みを帯びていることに由来する。

ユキワリイチゲ(雪割一華)

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花も美しいが名前も良い

 キンポウゲ科イチリンソウ属の多年草。本州西部から九州の山林などに自生する。山野草として人気があるため園芸店で入手できる。地下に根茎があり、夏場以降は地上から姿を消す”スプリング・エフェメラル”の仲間。花付きはあまりよくないので、イチリンソウの仲間では育成がやや難しいとされている。近縁種にはイチリンソウニリンソウキクザキイチゲアズマイチゲなどがあり、いずれも春咲きの山野草として人気は高い。

ドウダンツツジ灯台躑躅、満天星)

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春は花、秋は紅葉が楽しめる

 ツツジドウダンツツジ属の落葉性低木。原産地は日本だが現在、自生地は少ない。ただし庭木、街路や生垣の低木としてよく用いられているので目にすることは多い。白い小さな壺形の花は葉が出る前に咲く。丈夫な木なので日陰でも育つが花付きは悪くなる。春は無数の小さな花、秋は赤く色づく葉が楽しめるので日当たりの良い場所で育てたい。

フリージア

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花色だけでなく香りも良い

 ユリ科フリージア属の球根性多年草。香りがとても良いので切り花や花束としてもよく用いられる。園芸種としても評判が良いためか改良種も相当に多い。花色は白、ピンク、赤、黄、オレンジ、紫、複色など多数あり、さらに一重咲と八重咲とがある。”ポート・サルー”、”スカーレット・インパクト”、”ハネムーン”などといった品種名で多数のものが出回っている。

ブルーベリー

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ブルーベリーは味も良いが見た目も良い

 ツツジ科スノキ属の落葉性低木。北アメリカ原産。ブルーベリーは果実がよく知られているが、花も意外に美しい。水はけの良い酸性土壌を好むので日本の庭木には最適だ。春には花を楽しみ、収穫後は味を楽しむ。ブルーベリーは目に良いとされているが根拠に乏しい。しかし、美しい花を愛でるのは目に良いことは確かだ。

ネモフィラ・マクラータ

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青い斑点が可愛らしい

 ”ネモフィラ・メンジェシー”についてはすでに触れている。「ひたち海浜公園」の大群生は今が見頃だが、コロナ禍のために今季は入園できない状態にあるようだ。個人的には写真の”マクラータ”が好みだが先にネモフィラを取り上げたときにはこの品種が見つからなかったということを述べた。が、先ごろ見つけたので撮影してみた。

ヒトリシズカ

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ヒトリシズカが賑やかに咲く

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茎が緑色の品種

 ヒトリシズカについてもすでに取り上げている。今回はその群生と、茎色が通常種とは異なるものと出会ったので撮影してみた。

 

〔番外編〕春を探して花季行(2)

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「華やかな魅力」が花言葉ラナンキュラス

 新型コロナの影響は近所にある市立図書館にまで及び、本を借りることができるのはネット予約のみで、館内閲覧での本探しは不可能になってしまった。本とのめぐり逢いは人との邂逅と同じような大きな喜びがあるので、ネットでの本探しは実に味気ない。ただでさえ読書量は少ないのに、本との本当の出会いの場が大きく失われたため、いよいよ読書時間はめっきり減ってしまった。代わりに増えたのはテレビのニュースチェックとスマホやPCでのゲーム時間。それに、日中の徘徊。今時分は春の花が続々と開花するので、雨の日以外は毎日のように花探しに出掛けている。とはいえ毎度、カメラ持参で出掛けているわけではないので、いい感じの撮影機会をずいぶんと逃しているのは残念だが事実だ。

 今回も前回に引き続き、近隣で見つけた春の花を紹介してみた。私が自動車免許を取って初めて運転したのは新型ブルーバード。以後、十数年間は「技術の日産」ファンを続けたので、トヨタの新型コロナにはまったく魅力を感じず、ブルーバードを4台ほど乗り継いだ。それが祟ったのか(もちろんそんなものはまったく信じていないのだが)、今になって「新型コロナ」に行く手を大きく阻まれている。それもあって、しばらくは素敵な本との思いがけない遭遇の機会は減少し、反面、大好きな春の花との「濃厚接触」の場面が増大しているという次第なのだ。これも、いいのだ。

アカバミツマタ(赤花三椏、ベニバナミツマタ

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ミツマタの園芸種であるアカバミツマタ

 ジンチョウゲミツマタ属の落葉性低木。枝は必ず三つに分かれるところから「三又」と名付けられたようだ。花は写真のようにかなり美しいが、有名なのは紙幣の原料に用いられていること。樹皮は強い繊維質を有しているので、強度がなによりも重要な紙幣の素材に使われている。

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花弁のように見えるが、実はガク

 筒状の花の集合体のように見えるが、実は花弁はなく、花びら状のものはガクの先端部が4つに裂けているためだ。「花」には適度に良い香りがあり、こうして接近して撮影すると気分爽やかになる。

ミツマタ(三椏)

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こちらはミツマタの原種

 ミツマタは中国原産の低木で高さは2mほど。写真からも分かる通り、たしかに枝は三つに分枝している。

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「花」はうつむき加減に咲く

 原種のミツマタの「花先」はほんのりと黄色くなり、こちらのほうが清楚な感じがする。切り花としても人気がある。花期が終わると枝には葉が茂るようになる。

トサミズキ(土佐水木)

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垂れ下がるように咲くトサミズキの花

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咲き始めたばかりのトサミズキ

 マンサク科トサミズキ属の落葉性低木。名前から分かるように四国原産である。葉に先立って枝からは紅色の花芽ができて、それから黄色の花が5から7個ほど垂れ下がるように(穂状花序)咲く。通常、樹高は2~4mほどだが、矮性の園芸種もあり盆栽によく用いられる。

ハクモクレン(白木蓮

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ハクモクレンモクレンの仲間では最も背が高くなる

 モクレンモクレン属の落葉広葉樹。通常、モクレンとは紫色の花をもつ「シモクレン」を指し、写真のように白い花を付け、10m以上の高さになるモクレンを「ハクモクレン」と呼んで区別する。本種はシモクレンに比べて半月ほど早く咲くため、3月中旬ではシモクレンの開花は発見できず、すべてハクモクレンだった。

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ハクモクレンの花。花弁は6から9枚ある

 ハクモクレンの花びらは6から9枚あり、さらに同じような大きさのガクも3枚ある。花は天上に向いて咲き、花弁は完全には開かない。なお、モクレンの仲間を「マグノリア」と呼ぶ自称”専門家”がいるが、これはモクレンの仲間をラテン語でMagnoliaと言うことに由来する。

コブシ(辛夷

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マグノリアの仲間のコブシ

 モクレンモクレン属(マグノリア)の落葉広葉樹。10m以上の高木になるが、ときおり、街路樹などにも用いられているのを見かける。さぞかし剪定が大変だと思われる。写真からも分かるように、先に挙げたハクモクレンと類似しており、コブシをハクモクレン(あるいはその逆)と勘違いする人も多い。早春、両者はほぼ同時に咲き、似たような(同属なので当たり前だが)花を付けるので混同しやすい。

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ハクモクレンは上方に、コブシは四方八方に咲く

 コブシとハクモクレンの違いは簡単に分かる。ハクモクレンの花は天に向かって咲くが、コブシは写真からも分かるように規則性がない。ハクモクレンの花弁はやや厚みがあるが、コブシの花弁はやや薄い。ハクモクレンは葉が出る前に咲くが、コブシは花の下に一枚の葉を出す。これさえ覚えておけば区別はすぐにつく。

 北国の春に、丘の上で白い花を付ける高木があればそれはハクモクレンではなくコブシである。千昌夫は、拳を振りながらこぶしたっぷりにそう唄っている。

 コブシは日本原産で、学名は”Magnolia kobus” である”。種名のkobusの語源は「こぶ」であるが、コブシの「こぶ」は何を指し示すのかは特定されていない。

オオカンザクラ(大寒桜)

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オオカンザクラは早咲きの桜

 オオカンザクラはカンヒザクラオオシマザクラの交配種。カンヒザクラの花は前回、写真に挙げたように紅色が濃く、下方に向いて咲く。オオシマザクラは白い花を付け、可食できるサクランボを実らせる。本種は花にやや赤みがあり、カンヒザクラの特徴をよく受け継いでいる木はかなり赤い花を付けるが、写真のものは色づきは普通である。

 桜並木といえばヨメイヨシノが定番だが、本種はそれよりも1,2週間ほど早く咲くため、見物客を早めに集めたい町ではその資源として本種を街路に植えているが、近年では、早咲きの桜といえばカワヅザクラがつとに有名になってしまった。

レンギョウ

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八分咲きのレンギョウ

 モクセイ科レンギョウ属の落葉性低木。公園や街路で3から5月にかけて咲いている姿をよく見かける。写真はまだ花と花の間には隙間があるが、満開になるとすべての枝にびっしりと花弁が付く。

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4枚の花弁は下向きに開く

 半つる性の枝を数多く有しており、大きく育ったレンギョウは枝が2,3mも垂れ下がることがある。原種の種小名は"suspensa"といい、これは垂れ下がるという意味をもつ。英語のサスペンションは「つるすこと」を意味し、ズボンを吊るすのはサスペンダー、タイヤを吊るすのはサスペンション(懸架装置)。

 私がよく散策する野川の土手にはこのレンギョウが多く植えられており、土手上から流れに向かって大きく垂れ下がった枝に無数の花を付けた姿は見事である。

ウンナンオウバイ雲南黄梅、オウバイモドキ)

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名前の通り中国が原産地

 モクセイ科ジャスミン属のツル性の低木。公園や庭園、庭木などによく用いられる。中国が原産地で、明治初期に日本に導入された。

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花は一重咲きが普通だが八重咲もある

 写真の花は一重咲き。八重咲のものもあるが、今回の徘徊では見つけることはできなかった。

モカタバミ(芋片喰)

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雑草扱いだが群生時はなかなか美しい

 カタバミ科カタバミ属の球根性多年草南アメリカ原産で、日本にはアジア・太平洋戦争後に輸入された。当初は園芸種扱いだったが繁殖力が旺盛のため各地に生育するようになり、現在ではほぼ雑草扱いになっている。花は3月から咲き始め夏場はいったん枯れるものの秋にまた咲き出す。

オオキバナカタバミ(キイロハナカタバミ

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このカタバミ帰化植物

 カタバミ科カタバミ属の球根性多年草。こちらは南アフリカ原産で日本には19世紀末に移入された。現在では日本各地に帰化し、やはりイモカタバミ同様、すっかり野生化している。花期は3~5月で、雑草扱いするにはもったいないほど美しい花を咲かせる。地下深くに鱗茎が残るため、いざ駆除しようとするととても苦労する。花言葉は「決してあなたを捨てません」だが、実際には「決してあなたは捨てられません」というのが現実。なお、葉っぱには紫褐色の斑点が入るので、花がないときでも他のカタバミとは区別可能だ。

ハルジオン(春紫苑、貧乏草)

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雑草の王様、ハルジオン

 キク科ムカシヨモギ属の多年草。”ぺんぺん草”と並び立つ雑草中の雑草で、別名は貧乏草。誰もが目にする花だが誰も見向きもしない。花期は3~6月とかなり長い。漢字名だけ見るととても素敵な花だと思われるが。北アメリカ原産で、意外なことに江戸末期、観賞用植物として日本に移入された。繁殖力が旺盛なため、駆除には多大な苦労を強いられる。

シロツメクサ白詰草、クローバー)

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詰草は緩衝材として移入された

 マメ科シャジクソウ属の多年草。江戸時代、オランダから輸入されるギヤマン(ガラス製品)の緩衝材として用いられたことから詰草と呼ばれるようになった。写真のものは詰草の中ではもっとも一般的なもので、白い花をつけることからシロツメクサと呼ばれる。日本では英名の「クローバー」と呼ばれることが多い。属名のシャジクソウ(トリフォリウム、Trifolium)は「三つ葉」を意味する。

 クローバーといえば三つ葉だが、誰もが探した(探させられた)ように稀に「四つ葉」がある。が、”四”は日本では「死」を意味するので不吉な数字だとされるが、なぜ彼の地では「四つ葉」が幸運のシンボルなのだろうか?「四」は「4福音書」、四つ葉は十字架に見えるからなどの説があるようだ。ならば、「三」は「三位一体」に通じるのではないか、と思うのだが。ともあれ、クローバーには五つ葉以上のものもあり、最大では56葉が発見されておりギネス記録に認定されているらしい。

ハナニラ花韮ベツレヘムの星)

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日差しを浴びると花はよく開く

 ヒガンバナ科ハナニラ属の球根植物。アルゼンチン原産で、明治期に観賞用植物として輸入された。ネギ亜科の植物なのでニラのような匂いを有することからハナニラと呼ばれている。ただし、葉や球根を傷付けない限り匂いを発することはない。繁殖力が旺盛で現在では多くが野生化し、春には日当たりの良い野原の至るところで見ることができる。春の花期にだけ地上に姿を現わし、花期が終わると地下で眠りにつく。花色は白から紫色まで多数ある。

スノーフレーク(スズランスイセン、オオマツユキソウ)

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スズランに似た花を咲かせる

 ヒガンバナ科スノーフレーク属の球根植物。標準和名は”オオマツユキソウ”だがスノーフレークまたはスズランスイセン(鈴蘭水仙)の名のほうが通りが良い。スズランのような花を付けるがスズランではなく、スイセンのような葉を有するがスイセンではない。

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花先にある緑色の斑点が特徴的

 秋に球根を植えると2月初めに葉を伸ばし始め、3月初旬に少しずつ花を付け始める。写真から分かる通り、花びらの先に現われる緑色の斑点が可憐さを際立たせている。

ラナンキュラス(ハナキンポウゲ)

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多重の花びらを有する華麗な花

 キンポウゲ科キンポウゲ属の球根植物。標準和名はハナキンポウゲ(花金鳳花)だが、学名のラナンキュラス(Ranunculus=キンポウゲ)で園芸の世界では通用している。私が園芸にはまっていた頃はさほどその存在は認知されていなかったが、花色が増え、その絢爛豪華な花弁を有することから近年では急激に人気が高まり、園芸界だけではなく切り花の世界でもよく用いられている。

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ラナンキュラスは改良品種がどんどん増えている

 本項のトップの写真もラナンキュラスである。花色はとても多彩で、毎年のように改良品種が出回る。まさに、キンポウゲ属(ラナンキュラス)を代表する花にまで上りつめたようだ。ところで、ラナンキュラスとは「カエル」を意味する。キンポウゲの花は元来、湿った場所を好むためにそう名付けられたようだが、園芸種である本種では多湿は好まず、水はけをよくしないと根腐れを起こす。そういえば、カエルにも乾燥系のものがいる。

カタクリ(片栗)

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ひとつの花だけでも見る価値があるカタクリ

 ユリ科カタクリ属の球根植物。日本でよく見られるカタクリの学名はエリスロニウム・ジャポニカム(Erythronium japonicum)と言うが、属名のエリスロニウムは「赤」を意味する。原産地のヨーロッパでは赤い花を付けるからのようだが、日本で通常みられるのは写真のような淡い紫色のものが大半だ。なお英名は「Dog tooth violet」という。これは花の形に由来する。

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開花前のカタクリ

 カタクリはひとつの花だけでも可憐で慈しみたくなるが、群生した様子はまた別の感動を呼ぶ。写真は3月16日に武蔵村山市の「かたくりの里」(野山北公園)で撮影したものだが、まだまだ開花はあまり進んでおらず、上の写真のような蕾状態のものも多くはなかった。3月末頃が見頃かも。

 カタクリの群生地は人気観光スポットになっている。私がよく出かけるのは上記の「かたくりの里」のほか、埼玉県小川町の「かたくりとニリンソウの里」である。東京では神代植物園(調布市)や京王百花園(日野市)、長沼公園(八王子市)、清水山の森(練馬区)などがよく知られている。また船下りで有名な埼玉県長瀞町には「長瀞かたくりの郷」があり、ここは関東最大の群生地がうたい文句だ。

イベリス(トキワナズナ、マガリバナ)

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育てやすく見栄えも良い人気種

 アブラナ科ガリバナ属の多年草。名前はイベリア(スペイン)に由来する。中国名はマガリバナ(屈曲花)である。これは花が太陽に向かって咲くからだとされている。一年草となる改良園芸品種も多いが、個人的には写真の”イベリス・センペルビレンス”が育てやすく、清楚な感じがして見栄えも良いので好みだ。

ハナモモ(花桃

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食べるためではなく鑑賞用に作出されたモモ

  バラ科スモモ属の落葉性高木。食用の桃の花はかなり美しいが、写真のハナモモは鑑賞用に改良されたもので、極めて花付きが良く見栄えも良い。これは江戸時代に改良された品種のようで、以来、そのままの形が受け継がれている。花の色は桃色が一番多いが白、赤、紅白などもあり、いずれも写真のものと同じように枝は花だらけになる。花期はソメイヨシノとほぼ同期で、最盛期には双方が美しさを競い合っている。

タネツケバナ(種漬花)

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存在感が薄い雑草

 アブラナ科タネツケバナ属の一年草(越年するものもある)。湿地に多く生育するとされているが、繁殖力が旺盛なので乾燥気味の土地にも繁茂する。写真のように白い花を小さく咲かせるだけなので存在感は極めて薄いが、この花を探す気になればどこでも見つけることができる。この小さな花を路傍で早春に見出したとき、私は春の到来を感じる。その点で、私にとっては重要な存在なのだ。

オランダミミナグサ(阿蘭陀耳菜草)

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存在感の無さはタネツケバナと双璧

 ナデシコ科ミミナグサ科の一年草(越年するものもある)。道端のどこにでも存在する雑草だが、極めて地味な感じの草花なので誰も見向きもしない。この点では前に挙げたタネツケバナといい勝負だ。ヨーロッパ原産の帰化植物(明治末期に移入)なので”オランダ”の名が付されている。写真は開花前だが、5つの白い花弁を開いたとしても、存在感の薄さに変化は生じない。草の全身が軟毛と腺毛に覆われているのが少しだけ特徴的だ。こんな雑草だけれど、私にとっては春の到来を感じさせてくれる重要な草花のひとつである。

シバザクラ(芝桜)

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今や「観光花」では一番人気となったシバザクラ

 ハナシノブ科フロックス属の常緑性多年草。花の形から「桜」、匍匐性から「芝」の特徴を有しているので「シバザクラ」と名付けられた。以前からグランドカバー用の植物に用いられていたが、いつしか、広大な土地をキャンバス(カンバス)として、白、赤、紫、桃、淡桃と豊富な花色を利用して「花の絨毯」をデザインする手法が人気となり、現在では日本各地に「シバザクラの丘」が設けられ、春の一大イベントとして催行されている。埼玉県秩父市羊山公園の「芝桜の丘」、千葉県の「東京ドイツ村」、山梨県富士河口湖町の「富士芝桜まつり」などは相当に賑わう。

ナデシコ(撫子、ダイアンサス)

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ダイアンサスの名で流通することが多いナデシコ

 ナデシコ科ダイアンサス属の多年草。日本固有の種(カワラナデシコなど)もあるが、現在では改良品種が数多く出回っている。ダイアンサス属(ナデシコ属)には300種ほどの花があるが、この中にはカーネーションも含まれる。ただし、園芸の世界ではカーネーションは”ダイアンサス”とは呼ばない風習?があるようだ。

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「撫でし子」の語感に相応しい清楚な花色

 花色だけでなく姿形も様々だ。今回は見つけられなかった(園芸店に行けば簡単に見つかる)が、一重咲きだけでなく、八重咲のものも多い。ナデシコの八重咲と言えば、多くの人は芭蕉の次の句を思い浮かべるだろう。

 かさねとは 八重撫子の 名なるべし

 『おくのほそ道』では芭蕉随行者である曾良の作として紹介されているが、曾良の日記にはこの作品についてまったく触れていないため、実は芭蕉の作品である蓋然性が高いと判断されている。那須野原で出会った小さな女の子の名が「かさね」だったのだ。私は予備校講師を十数年勤めていたが、ある年の夏期講習の集中講義(世界史)を受け持っていたとき「かさね」という名の女子高生が受講していたことを記憶している。「かさね」という名に実際に出会ったのはその一度限りである。命名者はおそらく『おくのほそ道』からその名を拝借したのだろう。まさか、三遊亭円朝の怪談噺『真景累ヶ淵』(しんけいかさねがふち)から採ったのではあるまい。

ネモフィラ(瑠璃唐草)

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澄んだ青色が魅力の一年草

 ムラサキ科ルリカラクサ属の一年草。北米西部原産。かつては寄せ植えの前景部に用いられることが多かった花で、認知度はそれほど高くはなかった。しかし、茨城県ひたちなか市にある「国営ひたち海浜公園」の群生がメディアに乗るやいなや、その澄んだブルーが丘を覆い尽くす姿に人々は魅了され、たちまち人気種となった。私も一度、開花期にその公園を訪れたことがあるが、ブルーのカーペット以上に見物客のはしゃぎ様に驚かされた。まだSNSなるものが話題になる以前のことだ。さぞかし、今は非道いことになっているだろう。

 写真のネモフィラは”ネモフィラ・メンジェシー”という普及種(海浜公園も大半はこの品種)だが、個人的には”ネモフィラ・マクラータ”という白地に紺色のスポットが入ったものが好みだった。今回、あちこちの庭先や家の前に置かれているプランターなどで開花したネモフィラを見ることができたが、すべて”メンジェシー”だった。「ひたち海浜公園」恐るべし、である。

アネモネ(牡丹一華、花一華)

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知名度は高いが、意外にもあまり見掛けなかった

 キンポウゲ科イチリンソウ属の球根性多年草。誰でもその名前はよく知っている花であるが、今回、あちこち徘徊してみたが実際にはなかなか見つけることができなかった。写真は八重咲のものであるが、一重咲きで白、赤の花色のものが個人的には好みなのだが、園芸店以外では見出すことはできなかった。"Anemone coronaria"(アネモネ・コロナリア)が学名で、とくに赤色の花は、中心部が「コロナ」のように輝いているのを見て取れる。このため時節柄、今季は大半の人がアネモネの育成を自粛したのかもしれない。花には何の責任もないのだが。

〔番外編〕春を探して花季行(1)

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春の「雑草」の代表格、ホトケノザ

 私にとって春の到来を実感するのは「爽やかな風」でも「温かい陽光」でもなく、路傍で、あるいは公園や空き地でホトケノザヒメオドリコソウオオイヌノフグリカラスノエンドウなどの花を見出したときだ。ガーデニングブームが安定的に継続しているので、厳冬期でも至るところで園芸種のパンジープリムラクリスマスローズサクラソウなどの花を見出すことは多い。もちろん、これらの花々も私の好みであるし、以前には大切に育てていたことはあるが、それはあくまでルーティン内のことであり、初冬から始まるガーデニングファンの恒例行事に過ぎない。

 3月に入り、新しい交換レンズを2本購入した。1本はやや性能の良い標準ズーム(35ミリ換算で24~120ミリ)だが、もう1本は35ミリ換算で90ミリのマクロ(接写)レンズ。この2本のレンズの性能を確かめるには春の花を試写するのが良いと考え、春の花を探しに近隣を徘徊してみた。野草(雑草)から山野草、それに園芸種、木々の花を見つけては撮影してみた。今季は春の訪れが早く暖かい日が多い反面、雨降りも多いためか園芸種は意外にダメージを多く受けている。一方、野草(雑草)は花付きは早く、梅や桜、沈丁花など木々の花も1、2週間ほど開花が早まっている。

 レンズは想像していたよりも性能はかなり良いようだ。しかし問題は、撮影技術と撮影に対する心構えである。私には芸術的センスが皆無なので、花の美しさを引き出す能力はない。また、花の接写は「忍耐力」が勝負(光の差し方や風の強弱)なのだが、私の辞書には「我慢」というものがないので、適度な条件が揃えばさっさと撮影を切り上げてしまう。それでも、ある程度の画像を得ることができたとするならば、それはレンズの性能と、それ以上に花たちの微笑みのお陰である。

 春の花たちが一番華やぐのは3月下旬から4月中旬である。今回は3月6、7日の撮影だ。まだまだ役者は出揃ってはいない。本項は第一弾ということで、この両日に見出すことができた早春に咲く花たちのほんの一部の表情に過ぎない。

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河津桜とその花の蜜を求めてやってきたヒヨドリ

 花に誘われるのは私だけでなく、鳥たちも同じようで花の蜜を求めて河津桜の元にやってきた。人は花を愛で、心の滋養を満たすだけだが、ヒヨドリは5月からの繁殖期に備えるために栄養分を盛んに摂取していた。

プリムラ・ポリアンサ(ポリアンタ、ジュリアン)

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春の園芸種の代表格「プリムラ・ポリアンサ

 プリムラ・ポリアンサは私が以前「花人」だったころにもっとも多く育てていた園芸種。サクラソウプリムラ属。色鮮やかなものが多いが、寒さや雨に弱いために色落ちが激しい、根腐れが起こりやすいという欠点があった。日当たりが良く、かつ雨に当たりにくい場所に植え、花柄摘み(咲き終わった花柄を撤去すること)を丁寧におこなうことが重要だった。プリムラは「プライム」の意味で、春一番に咲く花のこと。ポリアンサは「多い」という意味で、花をたくさんつけることによる。改良小型種は「ジュリアン」の名で呼ばれていたが、現在ではポリアンサとジュリアンの区別はなくなっているようだ。

オオイヌノフグリ

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残念な名前の代表格、オオイヌノフグリ

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オオイヌノフグリの群生

 オオバコ科クワガタソウ属のいわゆる雑草。花は小さいが群生するとかなり美しい。残念な名前の代表格で、「イヌノフグリ」は「犬の陰嚢」のこと。種子の形がそれに似ているのでこう名付けられた。花には何の責任はなく、名は体を表さず、いつも可憐に咲く。存在は名に先立っている。春先にこの花を見つけると、私は実存主義者になり、キルケゴールを読みたくなる。そして彼の本を手にし、いつも同じページを反復している。実に、死に至る病なのだ。

ヒメオドリコソウ

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路傍や荒れ地に多く咲くヒメオドリコソウ

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ヒメオドリコソウの群生

 シソ科オドリコソウ属のいわゆる雑草。明治以降に帰化した外来種だが、今では至るところで見ることができる。大型種はオドリコソウといい、これは見ごたえがあるので自然公園などによく管理栽培されているが、小型種の「姫踊子草」は完全に雑草扱いで、道端に咲いていても大半は踏みつけられる。

ナズナ(ぺんぺん草、貧乏草)

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春の七草のひとつである「ぺんぺん草」

 アブラナ科ナズナ属。春の七草ナズナは本種を指す。食用になるのは若葉だが、特徴的なのは三味線のバチに似た形をしている種子。これを少し裂いて茎全体を軽く振ると 「良い」音がするので、子供の頃はこれでよく遊んだ。種子の形から「ぺんぺん草」と呼ばれ、一般にはこの名のほうがよく通じる。先端部に花を付けてはそれが種子になり、またその先端部には花を付ける。これを何度も繰り返して背丈を伸ばす。これを「無限花序」と言う。なお、荒れ地に群生するために「貧乏草」とも呼ばれる。私のような極貧家では「ぺんぺん草」も生えないが、代わって近縁種の「タネツケバナ」はよく茂っている。

ノボロギク(野襤褸菊、サワギク)

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誰も見向きもしない「ボロギク」

 キク科キオン属の雑草。これこそ正真正銘の雑草で、これを目に留める人はまずいない。写真にあるように種子は冠毛をつけるので僅かだけ人目に触れるかもしれない。花も華麗なところはひとつもなく、茎は無駄に強度があり根もよく張るので引き抜くのに苦労する。畑では有害植物の代表格。こうした「無駄」だけの存在感を有する植物も私の好みのひとつだ。

ホトケノザ(仏の座)

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春の七草ではない「ホトケノザ

 シソ科オドリコソウ属の雑草で、ヒメオドリコソウによく似ている。春の七草にあるホトケノザは「コオニタビラコ」のことで、標準和名のホトケノザは本種を指すので紛らわしい。この本当のホトケノザはとくに有害ということではないようなので間違えて食しても大丈夫とのこと。実際、若草を食する人がいるらしい。写真から分かると思うが、小さいがかなり目立つ花を有しているので、 群生している様子はなかなか見事だ。

ツルニチニチソウ(ビンカ・ミノール)

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ツル性の多年草の本種はグランドカバーによく用いられる

 キョウチクトウ科ツルニチニチソウ属のツル性の植物で、雑草除けのためにグランドカバーの草として用いられることが多い。名前から分かる通り、夏の花の代表格である「日々草」の仲間である。

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花を見ると日々草の仲間であることがよく分かる

 花は写真のように紫色のものが多いが、白色のものもときおり見かける。なお、キョウチクトウの仲間は葉に「アルカロイド」を含むものが多く有毒であり、本種も例にもれない。くれぐれも食さないように。

ヒイラギナンテン(柊南天

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常緑低木の本種も春に花を付ける

  メギ科メギ属の常緑低木で、春に花を付ける。葉は緑色が通常だが、日照や気温など環境の変化によって色変わりする。写真の木は自宅の近くにある府中市中央図書館敷地内の北側にあるもので、周囲にある木々も一斉に花を咲かせていた。

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小さな花だが数が多いのでよく目立つ

 花のひとつひとつはとても小さいが、写真のように数多く咲くのでなかなか見ごたえはある。とはいえ、この花に注目する人はほとんどいないようだが。

オオアラセイトウ(ムラサキハナナ、ショカツサイ、ハナダイコン

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群生すると見事なオオアラセイトウ

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オオアラセイトウの群生

 アブラナ科オオアラセイトウ属で、江戸時代の末期に日本に入ったとされている。異名が多く、花好きは「ムラサキハナナ」と呼ぶが、なぜか年配者は「ショカツサイ」や「ハナダイコン」と言う場合が多い。背丈は案外高くなり、一株にはたくさんの花を付けるため群生すると見事だ。繁殖力が強いため、野原や空き地に数株あると翌年は群生するようになる。

ハボタン(ハナキャベツ

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春先には茎が伸びるために興味深い

 アブラナ科アブラナ属で、花は先端部に小さく咲くが、通常は花期(4,5月)の前に処分される。花の少ない冬場に植えられ、縮れた多数の葉がボタンの花のようにみえることから花壇やプランターで育てている場面を案外見掛ける。また、冬場の寄せ植えの中心部に用いられる場合が多く、写真のように前景にはパンジーが使用されるのがほとんどだ。春先には写真のように茎が伸びて冬場とは違った姿に変貌するので、3、4月まで鑑賞用植物としてなんとか生き残る。キャベツの仲間でありながら結球せず、近年は「青汁」の素材として用いられるケールの同属であり、このハボタンはその改良種といわれている。

アブラナ(菜の花)

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菜の花はアブラナの花の総称

 アブラナ科アブラナ属の花の総称が「菜の花」で、観賞用の菜の花としては通常、「チリメンハクサイ」が用いられる。しかし、食材に用いられる白菜や青梗菜もそのまま畑に放置されると写真と同じような花を付ける。菜っ葉の花が菜の花と思えば良く、それ以上でも以下でもない。

ラッパスイセン

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小型種でも群生すると見ごたえがある

 ヒガンバナ科スイセン属の花で、二ホンスイセンとセイヨウスイセンに大別される。または花の中央にある副花冠が短いものをスイセン、長く突き出ているものをラッパスイセンと呼ぶ。越前水仙やそれを導入した伊豆半島の爪木崎水仙は12月から2月頃が見頃だが、写真のようなラッパスイセンは早春の花として今が見頃だ。

 スイセンの学名は「ナルキッソス」であることはよく知られている。森の妖精(ニンフ)の一人エコーはお喋り好きであったためにゼウスの怒りを買い自分からは声を発することができなくなり、ただ他人の言葉を繰り返すことができるだけとなってしまった。ある日、エコーは美少年のナルキッソスと出会い一目惚れをしてしまった。しかし、エコーはナルキッソスに話しかけることはできず、ただ、彼の言葉をオウム返しすることしかできなかった。このためエコーの気持ちは通じず、彼女は 悲しみのあまり肉体を失い、声だけの存在(木霊=こだま)になってしまった。こうしたナルキッソスの態度に怒った神は彼に自らしか愛せない(ナルシシスト、ナルシスト)という罪を与えた。このため、ナルキッソスは池の水面に映る自分の姿だけを愛し、その姿に触れようとして池に落ちて死んでしまった。その後、神は彼に許しを与え、ナルキッソスは池の傍らに咲くスイセンの姿になって蘇った。スイセンがうつむき加減に咲くのは、水面に映る自分の姿を見るためである。

サクラソウ

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愛好家が多いサクラソウ

 サクラソウサクラソウ属の花で、日本に自生し多くの改良種をもつ。科名も属名も学名では「プリムラ」で、これはプリムラ・ポリアンサの項でも述べたようにプライム(春一番)の意味。サクラソウの愛好家は多いようで、私の近隣にも、今の季節にはこの花だけを各種類集め、玄関にも塀にも庭にも飾っている家が数軒ある。プリムラ・ポリアンサのような派手さはないが、可憐さはこちらのほうが断然、上であると思う。

フクジュソウ福寿草、元日草)

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スプリング・エフェメラルの代表、フクジュソウ

 キンポウゲ科フクジュソウ属の多年草で、「スプリング・エフェメラル」(儚い春)の代表的な花だ。属名のアドニスギリシャ神話に出てくる美少年の名で、愛と美と性の女神であるアフロディーテ(ビーナス)に愛された。彼の血から美しい花が咲いたとされ、伝承によれば「アネモネ」だとされている。アネモネフクジュソウは同じキンポウゲ科の花なので、大きな違いはないのかもしれない。写真は開花直前のもので、明るい陽射しを受ければ完全開花に至る。なお、スプリング・エフェメラルについては本ブログの第2回で説明している。

オキナグサ(翁草)

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老人の姿を思わせるオキナグサ

 キンポウゲ科オキナグサ属の多年草。これもまた典型的なスプリング・エフェメラルで、山野草として根強い人気がある。写真は開花直前のもので、数日以内に満開を迎える。全身が白い毛で覆われ、うつむき加減で開花し、種子もまた白く長い毛で覆われる。こうした様子から翁草と命名されたとされている。以前、私もよくこの花を育てていた。

アズマイチゲ(東一華)

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満開直前のアズマイチゲ

 キンポウゲ科イチリンソウ属の多年草で、これもまたスプリング・エフェメラルとして人気がある山野草。属名は”Anemone"なのでアネモネと同じ仲間だ。アネモネは改良品種がとても多いが、アズマイチゲ山野草に相応しく清楚感が強い。写真は満開直前のもので数日先には凛とした姿になる。

ヒトリシズカ(一人静、吉野静)

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開花初期のヒトリシズカ

 センリョウ科チャラン属の多年草。スプリング・エフェメラルには数えられていないが、開花期はまったく同じである山野草。写真は開花が始まったばかりのもので、これから花は上に伸びてくる。吉野山で舞いを披露した静御前の姿になぞらえて命名されたとされ、かつては吉野静、現在は一人静と呼ばれる清楚な花。私は春の花を野原であちこち探し歩くことが多いが、この花を見つけたときが一番、嬉しくなる。

クロッカス(花サフラン

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育てやすい球根植物のクロッカス

 アヤメ科クロッカス属の球根植物。秋に球根を植えておくと春先に咲く。一度植えると分球して数を増やすので、次の年には多くの花を見ることができる。ただし、成長は一定ではないので、できれば梅雨入り前に掘り起こして暗所で保存し秋に植えなおしたほうが美しく咲かせることができる。白、黄、紫の花が多いが、近年では写真のような白地に紫が入るものが人気が高い。ヒヤシンスと同様に水栽培も可能なので、室内で鑑賞することも可能。

クリスマスローズ(レンテンローズ、ヘレボルス)

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近年、人気急上昇中のクリスマスローズ

 キンポウゲ科クリスマスローズ属の多年草。西欧原産で、かの地ではクリスマス頃に純白の花を咲かせるので「クリスマスローズ」と名付けられた。一方、現在主流なのは西アジア原産の改良園芸種で、花期は2、3月がメインとなる。寒さにとても強く、日陰でもよく咲くので、近年では早春を代表する花となっており、プランターや路地植えで楽しむ人がとても多くなっている。かつては地味な色のものしかなかったのでさほど人気はなかったが、近年は色とりどりでしかも八重咲のものも出回るようになったために人気はうなぎのぼりだ。

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クリスマスローズはうつむき加減に咲く

 花に見えるのは実はガクで、花弁そのものは退化して雄蕊の周りに小さく残るのみだ。この植物は「毒草」としても知られており、神経細やかな園芸家はこの植物を扱うときには必ず手袋をしている。学名のヘレボルスの”ヘレ”は「殺す」を、”ボレ”は「食物」を意味し、薬草にも使用されていた。

ノースポール(クリサンセマム・パルドサム)

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ノースポールは「サカタのタネ」が作出

 キク科レウカンセマム属の改良園芸種。1970年頃、かつて「クリサンセマム・パルドサム」と呼ばれていた”フランスギク”を日本の「サカタのタネ」が改良して作出した園芸品種。今ではパンジーと並んで、冬から春の鑑賞花の代表的存在となった。茎はあまり伸びず花を多くつけるため、日当たりの良い場所では葉がほとんど見えなくなるほどの花盛りとなる。ただし日陰では茎が徒長し、花付きも悪い。撮影日(7日)は曇天だったために花弁はやや閉じ気味だが、明るい陽射しを浴びるとこれ以上ないほど目いっぱいに花弁を広げる。なお、品種名(商品名)の「ノースポール」は北極を意味する。どこに極があるのかは不明だが、命名はとても上手だ。

ユキワリソウ(雪割草、ミスミソウ

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早春に咲く山野草ユキワリソウ

  キンポウゲ科ミスミソウ属の多年草北陸地方から東北地方の日本海側に自生する山野草だが、現在では改良園芸種が非常に多い。ネット通販などでも高い人気を誇る花だが、価格は一株400円程度のものから30000円以上するものまである。一般的なものでも2000円前後はする。色彩も形も数多くあり品評会も盛んにおこなわれている。

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清楚に、かつ可憐に咲く

 花弁は退化して存在せず、花びらに見えるのはガクである。葉はほぼ一年中残るが、花期以外は直射日光に弱いため、落葉樹の下などに地下植えするか鉢植えをしたものを置く。私も一時期この花の収集を試みたが、次々に新品種が現れるため、ついていけずに断念したという記憶がある。

ヒメリュウキンカ(姫立金花)

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園芸種のヒメリュウキンカ

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こちらは野生化したヒメリュウキンカ

 キンポウゲ科キンポウゲ属の多年草で、ヨーロッパでは沼地や湿地などに自生している。日本には園芸種として移入されたが、現在では野生化したものも多い。茎が上方に伸び(立)、黄色(金)の花を咲かせるので立金花と呼ばれる。湿地を好む花なので、鉢植えや地植えのときにもそうした環境を作る必要がある。写真(上)の花は園芸種。まだ開花が始まったばかりで、明るい日差しを浴びると花弁は大きく開く。写真(下)は府中崖線下の湧水脇で咲いていた野生種。

シュンラン(春蘭)

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地中から顔を出すシュンラン

 ラン科シュンラン属の花。ランは地中に根を張るものと地表で根を出すものとがあるが、シュンランは写真のように地中から顔を出す。洋ランの代表種である「シンビジウム」の仲間ではあるが、こちらはかなり地味。が、その点にこそ根強い人気の源になっている。春先、山里の林の中でこの花が顔を出している姿をよく見かけるが、くれぐれも「盗掘」しないように。園芸店で簡単に手に入れることができる。半日蔭を好み、根をよく張るので深さのある鉢に植えて日差しが強く当たらない場所で育てる。なお、ラン科の植物は700属、15000種以上あり、被子植物の中ではもっとも種類が多い。

ヒマラヤユキノシタ

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ヒマラヤ原産の園芸種

 ユキノシタ科ヒマラヤユキノシタ属の多年草でとても美しい花を咲かせる園芸種。ヒマラヤ原産のためか寒さに強いので早春から美しい花を咲かせる。根付くと、特に丁寧に手入れをしなくても毎年、多くの花を咲かせてくれ、しかも大きく育つので大きな鉢かプランターに植えると良く、可能ならば地植えが良い。花色はピンクや赤が多いが、”シルバーライト”と呼ぶ園芸種は白い花を咲かせる。花は美しいし花の名の響きも良い。が、この花の認知度はなぜかかなり低い。残念なことである。

アセビ(馬酔木)

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春に花を咲かせる常緑低木の代表格

 ツツジアセビ属の常緑低木。葉や茎には有毒のグラヤノトキシンが含まれている(他のツツジ科の花も同様)ため、馬が食べると毒にあたって酔ったようにふらふらとした足取りになることから、馬酔木と記されるようになったという伝承がある(本当かな?)。以前はあまり見掛けなかったが、近年では春に花を咲かせる常緑低木の定番になりつつある。病気に強く挿し穂で簡単に増やせるからかも知れない。

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白花が一般的

 花は小さいが、写真のように枝いっぱいに咲くので見ごたえはある。花は壺のような形をしていて「ドウダンツツジ」に似ているが、花数は断然、こちらのほうが多い。

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ピンク色の花を咲かせる「クリスマス・チア」

 改良園芸種もいくつかあり、写真の”クリスマス・チア”と呼ばれる品種はピンクの花が無数に咲き、今では白花よりも多く見かけるようになった。

ジンチョウゲ沈丁花、瑞香)

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香りの強さではキンモクセイと双璧

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こちらは白花のジンチョウゲ

 ジンチョウゲジンチョウゲ属の常緑低木。香りが強いことでよく知られている花。その強烈な香りからその存在を知ることになる。早い場合は2月中旬頃には咲くので、散歩中にこの花の芳香に触れると春の到来を感じる。今は「香害」が問題視されているが、ジンチョウゲの香りは自然のものなので何の問題もない。ちなみに、秋の香りの代表格はキンモクセイだが、こちらは秋の到来というよりトイレの存在を実感するかもしれない。もっとも、キンモクセイ=トイレの芳香剤を連想するのは年配者で、中年はラベンダー、若者以下はトイレに結び付く香りはとくにないようだ。

ユキヤナギ(雪柳、コゴメバナ)

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ユキヤナギの咲き始め

 バラ科シモツケ属。公園や庭、街路などでよく見られる落葉性低木で、春には垂れ下がった枝に葉が見えなくなるほど無数の花を付ける。雪を被った柳のように見えるところから命名された。写真はまだ咲き始めなので緑の葉っぱが見えるが、これから一週間ほどで満開になる。満開時の美しさはサクラにも負けないほどだと個人的には思っている。小さな花びらが散った後の地面はお米を一面にまき散らしたように見えるため「コゴメバナ」の異名がある。

サンシュユ(山茱萸(さんしゅゆ)、ハルコガネバナ)

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葉より先に花が咲くサンシュユ

 ミズキ科サンシュユ属の落葉性高木。3月初め頃、葉が出る前に黄色い小さな花を咲かせる。ひとつの花は多くの小花が集まってできている。

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サンシュユの花をじっくり観察してみた

 小さな花房(散形花序)をじっくり観察してみたが、やや盛りを過ぎていたようで、黄金色に輝くようには見えなかった。実は、この花をこうして観察したのは初めてだった。来年(もしあれば)にはこの木を早めに探し出して、その輝きに触れたいと心から思った。

オカメザクラ(おかめ)

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小さな花はうつむき加減に開く

  1947年、英国人がカンヒザクラとマメザクラ(富士桜)とを交配して作出した早咲きのサクラ。花は小さくうつむき加減に咲くが、花びらは完全には開かない。花色はかなり濃い。木はあまり大きく育たないので、梅の木と勘違いされることもあるようだ。小田原市根府川地区ではこの早咲き品種で桜の里作りをおこなっている。果たして、第二の河津桜になるだろうか?

カンヒザクラ(寒緋桜、元日桜)

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サクラの原種のひとつ。河津桜、オカメの元になった

 サクラの原種のひとつ。早咲きで、釣鐘状に咲き、濃い花色などから多くの自然交配種(河津桜)や 人工交配種(おかめ)が誕生している。前2種の桜のほか、修善寺寒桜、椿寒桜、陽光、横浜緋桜などが代表的なカンヒザクラ群である。